第四十二話 魔法の練習

 一方、レイは洞窟内を走って外へと向かう。

 そして、道中で新たな戦利品を担いで帰ってくる仲間たちとすれ違いながら外へ出たレイは、いつものように皆から少し離れた場所へ行くと、適当な岩に腰かけた。


「ふぅ……早速読んでみよっと」


 レイは逸る気持ちを気持ちを抑えるかのように軽く息を吐くと、ぺらりとページをめくる。

 すると、そこには魔法名が詠唱や効果と共に書かれていた。


光矢ホーリーアロー結界バリア回復ヒール……あ、この辺からかな?」


 レイはパラパラとページをめくり、やがて自身が知らない魔法――中級魔法が出てきたところで手を止めると、そのページをじっと見つめる。


「……よし。取りあえずやってみよう」


 詠唱等を暗記するよりも、まず発動が出来なければどうしようもない。

 そう思ったレイは、魔法書で詠唱を見ながらでも、魔法を使おうと決めたのだ。

 レイは心を落ち着かせるように深呼吸をすると、右手に魔法書を携えたまま、左手を前に掲げ、詠唱を唱える。


「魔力よ。光となりて、全てを貫く槍となれ。光槍ホーリーランス!」


 直後、左手に大きさ1メートル程の光り輝く槍が現れたかと思えば、勢いよく飛び出し、森の方へ飛んで行った。

 その後、ダン!と音がしたかと思えば、木が1本大きな音を立てて倒れた。


「あ、一発で成功した……」


 心を落ち着かせ、魔法の光景をイメージして、完全詠唱によって発動させるという、最も発動しやすいコンディションで発動させたとは言え、一発で成功するのは完全に予想外だった。

 レイは慌てて後ろを見てみると、そこではいきなり聞こえてきた大きな音に何事かと駆け寄ってきた人たちが沢山いた。


「あ、あの……騒がせてしまってすみません!」


 レイは咄嗟に深く頭を下げると、謝罪の言葉を口にする。

 魔物や人からの襲撃を常に警戒する盗賊団で、こういった誤解を招いてしまうような行為はご法度なのだ。

 だが、盗賊たちはレイの謝罪で、レイが何をしたのかを察すると、口々に声を上げる。


「練習中なら、まあ仕方ないな。次は上に向かって控えめに撃つとかにしとけよ」


「まあ、反省しているみたいだし、次はやらんだろ」


「だな。レイは学習能力高いからな」


 そう言って、皆はレイのしたことを許すと、最後に「頑張れよ!」と言って、元居た場所へと帰って行った。

 一方レイは、許してもらえたことに安堵の息を吐くと、次は気をつけようと心に決める。


「よし。一通り中級魔法は試してみるとして、次は……うん。これにしてみよう」


 レイは次に試してみる魔法を決めると、再び詠唱を唱える。


「魔力よ。全てを通さぬ光の防壁となりて我を守れ。大結界グレートバリア!」


 ……だが、魔法が発動することはなかった。どうやら、魔力の操作が甘かったようだ。


「やっぱりまだギリギリ発動できるくらいだったのか。少し集中力を切らしただけでもう発動できなくなるなんて……」


 レイは魔法が発動できなかったことに落ち込むも、それでは駄目だと直ぐに切り替え、再チャレンジする。

 今度は、もっと集中して――


「魔力よ。全てを通さぬ光の防壁となりて我を守れ。大結界グレートバリア!」


 直後、レイを基点に半径20メートルを覆う透明な光の防壁が展開された。


「よし。出来た……!」


 再チャレンジして成功したことに、レイは喜びを噛み締めるようにぐっと拳を握りしめた。


「おお……!」


「綺麗な大結界グレートバリアだな」


 離れた場所からでもよく見える大結界グレートバリアを遠目から見る盗賊たちは、皆それを見て息を呑む。

 少し学んだだけで、中級魔法を発動するなんて、かなりの偉業なのだから。


「よし。これも出来た。次は……ん?」


 大結界グレートバリアを解除したレイは子供らしく笑みを浮かべながらそう言うと、ページをぺらりと捲ろうとする――が、レイ名前を呼びながら向かってくる1人の男に気付き、手を止める。


「どうしたの?」


「ああ。実はまた怪我人が帰ってきたからな。そんな深いやつじゃないし、さくっと頼むわ」


「分かった。直ぐに行く。案内して」


「おーけー」


 男の言葉にレイは頷くと、魔法書片手に怪我人の下へ向かって走り出した。

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