第二十四話 外遊びは鬼ごっこ

「……という訳です。おっと、もう時間ですね」


 壁に掛けられた時計を見たガストンはそう言って、教科書をパタンと閉じる。


「これで授業を終わります」


「「「「「ありがとうございました」」」」」


 皆席を立つと、一斉に頭を下げた。


「では、後はもう夕食まで自由時間です。では、解散」


 直後、皆一斉に動き出す。


「おっし。終わったな。じゃ、外で遊ぼうぜ。レイも一緒にな」


 バルトは上機嫌でそう言うと、レイの肩に手を回し、ニカッと笑う。


「うん。分かった」


 バルトの言葉に、レイは元気よく頷く。

 そしてハリスとエリーも加わり、4人は一緒に教室を出て、外へと向かった。

 外には既に何人か出ており、その半分は左側にある平べったい岩がいくつか置かれて造られた遊び場にいる。

 そこに、レイたち4人も向かう。


「おい! 来たぜ。じゃあ、早速やるか」


 バルトは1歩前に出ると、声を上げる。

 すると、岩の上に足を組んで座るサイラスが口を開いた。


「ああ、そうだね。今の所、俺たち2組が来てて、そこにお前ら4組が来たから、後は1組と3組か」


「ま、どうせ1組の奴らは全員中だろうし、3組の奴らが来るまで待つか。どうせすぐ来るだろ?」


 そう言って、バルトも岩に腰かける。

 すると、「んん?」と孤児院の方に目を凝らす。


「あ、やっぱり3組の奴らだ。おーい! さっさとこーい!」


 バルトは孤児院から出て来た子供たちに向かって手を振りながら、大声を上げる。

 すると、その内の3人がこっちに向かって駆け寄ってきた。


「ちょっと長引いてな。ま、これで全員集まっただろ……ああ、レイは初参加だったな」


 駆け寄ってきた3人の内の1人――ゼノは集まっている皆を見回してからそう言う。


「よし。まあ、これで11人……いや、レイを入れて12人集まったな。んじゃ、何するー?」


 サイラスは岩の上から2メートル程下の地面に跳び下りると、皆にそう問いかける。


「俺は鬼ごっこがいいな。サッカーみたいなルールが色々あるのは好きじゃねぇんだよ」


 バルトは頭を掻きながら、真っ先にそう言う。


「僕は何でもいいかな」


「私も」


 ハリスとエリーは口を揃えてそう言う。2人は何が何でもやりたいと思う遊びが無い為、いつも決まって多数派意見に賛同しているのだ。


「俺は……いや、ここはもうレイに決めて貰えばいいだろ? 初参加記念ってやつだ」


 ゼノはそう言って、ニヤリと笑う。

 いきなり話を振られたレイは「え!?」と一瞬目を見開くが、直ぐに顔を元に戻すと、何をするか思案する。

 だが、レイは皆とする遊びをあまり知らない。サッカーや野球といった初代皇帝が広めた国民的スポーツも、知っているのは名前だけで、詳しいルールはほとんど理解していないのだ。

 故に、提案できるものが既に限られてくるわけで――


「んっと……僕は鬼ごっこがしたい」


 村の子供たちと何度も遊んだことがあり、1番ルールを熟知している鬼ごっこをレイは選んだ。

 逃げる人と鬼に別れ、鬼は逃げる人に触れたら役を入れ替える……というシンプルなものなので、熟知するほどのものではなさそうだが……それはこの際置いておくとしよう。

 レイの提案に、皆異論はないと言わんばかりに頷く。


「やっぱレイは鬼ごっこを選ぶよな。いや~よかったよかった」


 バルトは上機嫌でそう言うと、膝を叩いて笑う。


「よし。ありがとな。んじゃ、早速決めるか。じゃん負け2人が鬼だ」


 サイラスがそう言った途端、皆一斉に拳を前へ出す。


「じゃーんけーん」


 そして、一度拳を後ろへ引き――


「ポン!」


 再び、拳を前へ出した。

 その結果は――


「え~っと……バルトと……サイラスが鬼だね」


 レイは全員の手を見回すと、そう言った。


「おっし。鬼になったぜ」


「マジか~鬼は嫌なんだよな~……」


 バルトは鬼になったことにガッツポーズを取るほど喜び、逆にサイラスは膝から崩れ落ちそうなほど落ち込むという、両極端な反応を取る。


「鬼になるのが好きな人もいるんだ~……」


 レイは意外そうな目でバルトのことを見つめる。

 鬼ごっこの鬼は基本、罰ゲームのように扱われ、何としても回避したいと思う人しかいないとレイは思っていたし、実際そういう人しか今まで見ていない。

 故に、レイはバルトの反応にここまで驚いているのだ。

 一方レイ以外の人たちは、バルトの反応をまるでいつものことのように見ていることから、彼が鬼ごっこで鬼になることを望むのは、別に今回に限った話では無いのだろう。


「じゃあ、やるか。あ、レイ。鬼ごっこの範囲はここの敷地内だから。どっかのバカみたいに外行かないでよ」


「うん。分かった」


 バルトの方を見ながら、さらりと毒を吐くサイラスの忠告に、レイは素直に頷く。


「よし。じゃ、やるぞー。10、9、8……」


 サイラスがカウントを始める。

 すると、皆一斉にここから駆け出して行った。

 レイも、少し遅れて走り出すと、ハリスの後について行くように走り出す。

 ハリスは建物の入り口の前を通り過ぎ、反対側にある岩の陰に身を潜める。


「ふぅ……て、レイも来ていたのか」


 後ろを振り返ったハリスは、レイが来たことに目を見開くも、直ぐに鬼のバルトとサイラスがいる方を見据える。

 そして――


「……3、2、1、0。よし。行くか」


 カウントダウンを終えたサイラスは左側から建物の裏手へと向かって走り出す。

 そして、バルトはと言うと……


「3、2、1、0。おっし。行くかぁ!」


 カウントダウン終了直後、いきなり地を蹴り、全力で走り出す。

 向かう先は――レイとバルトが潜む岩陰だ。


「ちっ あいつ。いきなり来たか」


 ハリスはそう悪態をつくと、岩に跳び乗る。

 一方レイは、バルトが来たことで、反射的に走り出してしまった。


(えっと……こっちへ行こう)


 開けたところではバルトを巻くことは出来ないと判断したレイは、右側から建物の裏手へと向かって走り出す。


「レイ。これは勝たせて貰うぞ!」


 バルトはそう吠えると、ハリスは無視して、レイを追いかける。

 そう。バルトがこっちへ来た理由はただ1つ。レイを捕まえる為だ。

 よほど模擬戦で何度も負けたことが悔しいのだろう。何としてでも捕まえてやる!という強い意思を感じる。

 レイはその気迫を感じ、ビクッとしつつも、速度を落とすことなく裏手へと向かう。

 建物の裏には倉庫がいくつかあり、レイはその隙間を身を小さくして通り抜ける。


「ふっ 甘いな」


 そんなレイを見たバルトはニヤリと笑うと、レイが入った隙間の2つ右隣へ行き、そこに入る。

 その隙間はレイが入った隙間の倍の広さがあった。故に、レイよりも速く通り抜けることが出来て――


「よっと!」


「うわぁ!?」


 レイが入った隙間の出口にバルトが立つのと、レイがその隙間から出てくるのは、丁度同じだった。

 こうなってしまえば、レイに為す術はない。


「はい。タッチ」


 バルトの手が、レイの肩をがっしりと捕らえ、勝負がついた。

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