第30話 ファヴニアル改めファヴニア

《第30話》


【"元"邪竜ファヴニアルの洞窟】


──フィリスとディガルの2人は、墜落していった邪竜にとどめを刺しに降りて行ったが…


「手を出したら今度こそ貴方達討伐隊は無事ではすまない」


とフィリスに釘を刺されていた為、討伐隊の悪魔達は安全な場所で戦況を見守るしか無い状態であった…


実際にフィリスの力を目の当たりにし、それでもなお生意気な発言をした命知らずな悪魔は彼女に


「いくら超級だとしても、こんな光の鎖も引きちぎれない"雑魚"なら話にならない」


と…圧倒的な力で制圧され、格の差をまざまざと感じさせられ、瀕死にまで追い詰められる事となった訳だが…


そんな事もあり、中には自分の出番はもう無いと、帰る支度や武器の手入れをしている悪魔もいる…


「まさか何十年と儂らを苦しめたファヴニアルの中身があのようないたいけな少女だったとは…真に信じれぬな…」


ガイルのおっさんは、何とも言えぬような顔をしている。


「なぁ…ガイルのおっさん。」


「フン…だから、そのおっさん呼びをやめろとあれ程言っただろう…ヒューガ」


討伐隊の実質隊長であるガイルは、今回についてはやることが無くなり、帰り支度ムードの討伐隊の面々を全体が見渡せる位置で何か思考に耽っていた様子であった。


「んー…討伐隊全体にその言い方広まってるんで、もう通称っスよ」


と目上であろうと怖気づく事なくヒューガは笑い飛ばす


「相変わらずお前らは…討伐隊を編成して50年強…最初は数人だったが今ではこんなにも大所帯になるとはな…」


「いやいや、おやっさん重鎮にしてはまだまだ若いっしょ」


「誰がおやっさんだ…全く、お前のような若造で調子乗りも入ってきた事だし、な…!」


「いってー、マジで元気有り余ってるじゃないっスか!」


ヒューガの背中をバシバシと叩きながらガイルのおっさんは続け


「戦力自体は確かに魔界の中でもトップクラスの討伐隊ではある。超級討伐者の参入者も着々と増えているし、若い奴らの超級になりたいという向上心も悪くない。」


「そりゃ勿論超級になれば報酬がかなり増えるとか重役出勤とかが可能になるっスから。ただ結局のとこ今回みたいに馬鹿強い相手にはソロだと厳しいんで、こうやって討伐隊に志願する奴らも多いみたいですよ?」


「なるほどな…確かにそういう面で超級の悪魔が得られる利点は大きいな…」


「ま、あの熾天使みたいに世界を敵に回しても勝てるんじゃないか…みたいなのも扱いとしては超級に分類にされるとなると自信無くすッスけど」


そう言いながらヒューガはヘラヘラと笑っている。


「だが…やはり討伐隊の編成時期が早かったというのは大きいかもしれぬな…いくら超級になったからと新参者が討伐隊を作っても中々強固な組織にならないのが現実だ」


「なんだかんだ…続いてるクランとか討伐隊って少ないっスもんね〜…」


「道半ばでやはりこちらに吸収されたり、解散したりな……私は早い段階で編成した恩恵を受けているだけだ、やはり寄る年波には勝てんし、若い奴が指揮をとった方が良いのかもしれん…」


「衰えてその強さなら全盛期ではもっと強かったんスよね?その頃の強さならあの熾天使と勝てるまではなくとも善戦出来たりして…」


「さぁな、ひと目見た時から"アレ"は次元が違うと感じた…多分瞬殺されるだろうな、ただ…もし今若ければ私はあの熾天使に果敢にも勝負を挑んでいただろう…あの時代の私は超級という肩書きをもらったばかりで調子に乗っていたからな…」


「ガイルのおっさんにも俺みたいにお調子者の時代があったんスねぇ!意外だな〜」


「ハァ……お前は相変わらず生意気な奴だなヒューガ……だがお前は昔超級になったばかりの私より遥かにポテンシャルがある、その才能を無駄にするなよ?」


「お、もしかしてかなり期待されちゃってます?」


「当たり前だ、お前をさっさと超級に推薦しても良かったのをわざわざ上級に残したまま私の討伐隊に帯同させ続けたのは、生き急いだりしないよう近くで監視していたからだ」


「………何と言うか…、やっぱりおやっさんには感謝しかないっすわ…」


「フン…その代わり、超級になれば面倒な事務的な報告書などの関連を丸投げしてやろう。」


「いや、マジそれは勘弁してください…あと今回の報告、どうします?」


「どうするも何も、あった事をそのまま報告するしかないだろう。」


「"上"が認めないんじゃないですか?上層部は頭が堅いんで…ほら少し前にいたさっきも言ってた、茶髪で突然変異みたいな速度で超級にまで上りつめたあの女剣士も…結局上が不正を働いたと勝手に決めつけ半分で破門状況にして、不安分子を排除したじゃないですか…」


「むぅ……、お前の心配はあの見学者をどうするかという話か……確かに熾天使の乱入は誤魔化せるとしても初級者が邪竜ファヴニアルにとどめを刺したという事を上が認めるかは怪しいな、おまけに熾天使と契約してる反乱分子とされてしまえば厄介だ…」


「俺、これから先戦力になり得る奴の破門は見たくないっすよ。超級一人失うのが悪魔にとってどれだけ手痛いことか……ただでさえ、天使共に今引けを取る状況なんですし……」


「分かった。ひとまず、後でもう一度あの熾天使と見学者には話をしておこう」


そう言って、ガイルのおっさんは手を打つことを考えたようだ──


         ★


【元・邪竜ファヴニアルの洞窟中央部】


「あのー…」


「なんだ三下」


「流石にもうそろそろ警戒というかその殺気を放つの解いてくれません?竜人さん……」


──俺は先程までフィリスの技をくらい、黒い球体の中から満身創痍かつ裸で出てきてぶっ倒れていた竜人に話しかける。


見た目は俺より少し年下の女の子という見た目だ…俺が20だから、だいたい17.18くらいの見た目だろうか……


邪竜ファヴニアルは黒を帯びた紫色で、瞳は赤かったがこの竜人もそれを引き継いでるようだ。


黒色を帯びた紫色の長い髪と、真っ赤な瞳であり、美人というよりは年相応で可愛らしいという印象だ。


「フンッ…警戒を解けというのであればそこの熾天使に先に言うべきであろう、その蒼い瞳、私がお前に少しでも触れようものなら一瞬にして灰燼に帰してやろうという目だ。」


まだ竜人は警戒が解けていない様子である。まぁ実際外郭も封印もフィリスに完全に破壊されてるわけだしな…


「───フィリスもさー、そろそろ許してあげないか?」


「無理。だいたい生意気なのよソイツ。私にさんざん蹂躙されてた癖にディガル君に醜く命乞いするし、その癖未だに私に喧嘩売るみたいに睨みつけてるからね……仕方無く回復スキルかけてあげた熾天使"様"に感謝の気持ちの一つでも持って欲しいところだけど?」


「ハァ、回復魔法の一つ程度熾天使なら簡単にかけれるでしょうにケチケチしないで貰いたいな……というよりディガルと言ったか、裸は駄目とか言いながら上着を投げつけてきたが……この上着、臭くて堪らん」


「え!?俺そんな臭かった?確かに汗はかいてたかもだけど……」


「あー…そうではない…。お前、悪魔の匂いだけならまだしも、熾天使の匂いまで混ざっておってハッキリ言って不快だ」


2つの匂いが混ざり合ってるなんて珍しいが…正直異質な匂いだと邪竜は語る。


「なーんかその言い方だとまるで私が臭いって言ってるみたいに聞こえるんだけど?"雑魚"邪竜」


「事実を言って何が悪い、後誰が雑魚邪竜だ!私にはしっかりと"ファヴニア"という名前がある。」


「あれ?ファヴニア"ル"じゃないのか?」


俺は反射的に気になったことを聞いてしまう。


「アレは外側の竜の部分も含めた時の呼び方だ。」


「ほぇー……」


「ふーん……じゃあ、言い直すね。ファヴニア"ちゃん"はもっかい私に再起不能になるまで痛めつけられたいのかしら?」


「なぜそんな話になる。私は悪くない!」


「フィリス落ち着いて、フィリスは臭くないよ。実際…少し甘いようなそれでいて透き通ってもいて、花畑のような匂いがするから臭くない!」


「ほらね?ディガル君は臭くないってさ。やっぱりファヴニア"ちゃん"の鼻が可笑しいだけって結論出ちゃったね…」


「ぐぬぬ……」


フィリスはほれ見たことかというような勝ち誇るようなそれでいて少し安心したというよりは所謂ドヤ顔のような顔をする。


(やっぱり女の子は匂いに関してはかなり気にするんだな……今後は俺も匂いには一層気をつける必要があるかもな……)


フィリスはそのドヤ顔のような顔を続けたまま


「で?ファヴニア"ちゃん"はこれから先どうするの?細々と隠居するのかな〜?」


「そろそろ…そのわざとらしい煽るような"ちゃん"付けをやめろ熾天使、不愉快だ」


「ふーん?私は仕方無くあなたが今後どうしたいのかを聞いてあげてるのだけど?生きるのに疲れたっていうなら私が今度こそ引導渡してあげよっか?」


フィリスはニコッと笑いかけるが全く顔が笑って無い。


(フィリスといいファヴニアといい一切引こうとしないし…これどのタイミングで止めればいいんだろうか……)


「可愛い顔してるくせに可愛げの無い……圧のかけ方が半端ないのよ…なんて醜い熾天使かしら…」


「え…フィリスの圧?正直俺は横に居てもあまり感じないんだけど…」


「……なるほど、貴様はその熾天使に気に入られていると見た、まるで熾天使の眷族…いや、ペットだな…可哀想に…」


(変に口出ししたら俺まで巻き込まれそうな勢いでバチバチ睨みあってるからな…この二人)


「そのペットを人質にされたら、いくら貴方でも…」


二人の丁度間に立っていた俺の腕をファヴニアはグイッと引き寄せると、俺を抱きしめるようにしながら盾代わりにする。


──最近俺こういうラッキースケベみたいな事多く無いか?背中に柔らかな感触が…


「貴方の相棒はこんな私に抱きしめられても嬉しいみたいだけど?」


「いや…ちょい待っ……!」


「ディガル君を盾に使われた位で私が怯むと思う?」


「思わないわ?契約で仮に殺しても貴方が居れば死なないのでしょう?でも、私が"女"として貴方からこの悪魔を奪えば、貴方に嫌がらせが出来るじゃない?フフフ…♪」


俺を後ろから盾代わりに見せつけていたファヴニアはそのまま、ギュッと強めに抱きしめて来る…。


「なっ……!」


(あ…フィリスが一瞬戸惑ったような顔した…。可愛い……)


「なんていうと思った?ディガル君は私に一目惚れしてそこから私一筋だよ?そう簡単にあなた如きに揺らいだりしないから…」


「ちょいフィリス!バラさないでくれ、ってかなんで一目惚れしたことバレてんだよ!」


「逆になんでバレないと思ったのかしら…?ディガル君結構単純だからねー」


(ぐぬぬ………やっぱフィリスには絶対敵わない気がすんだよな……クソー…)


「フフフ…でもその大切なディガルは現にこうやって私に捕まってしまってるのだけれど…?」


「あ…言い忘れてたけど…。あんまりディガル君をギュッと抱きしめない方が身の為だよ〜?」


「何よそれ、まさか心理戦か何か?」


「忠告してあげたからこれ以上教えなーい♪」


───フィリスがそう言った瞬間、俺の中のフィリスの加護の力が活性化し、背中の光の翼側が激しく熱を持ち始める。コレは……ピンチの時に助けてくれたり、勇気をくれたりするいつものアレか…? 


俺の光の翼が強い光を放っている……、それはフィリスが明確に敵と認定しているファヴニアの肌を灼く勢いである。


「ッ……!何よこれ、超熱いじゃない!咄嗟に防御しなきゃ火傷してたわよ!」


「だから忠告してあげたのにねー?ナイスだよディガル君♪」


「いや…俺何もしてないし…(汗)んでまたこれ力の使い過ぎてぶっ倒れたりしないよな……?」


俺の中のフィリスの力は…自分の意思だけではなく…フィリスの意思にも反応するようだ…。


「ん…大丈夫だよ、ファヴニアル倒して少しディガル君の肉体も強化されてるから…少なくとも最初よりはね」


「少しずつでも強くなれてるならそれで今は良いかなって思ってる。」


───完全なる不意打ちを受けたファヴニアはため息をつきながら話し始める。


「全く……あんなもの忠告に入らないわよ。」


俺の光の翼が燃え上がるように光った為、咄嗟にファヴニアは俺を離してしまった──


その隙をフィリスが見逃す訳はなく、瞬間的に俺の横に移動してくるとそのまま俺は再びフィリスに後ろから抱き寄せられる事になった───


──裁判の時に抱きしめられてからこれで2度目だが、やっぱ慣れないし、鼻血出そうな位刺激が強い……


「というよりフィリスはそんな抱きしめて熱くないのか?」


「逆に今燃え上がってる力、誰の力だと思ってるのよ…私が私自身の力で火傷するようなドジすると思う?」


「全くしません……」


俺は正論をぶちかまされもはや苦笑いをするしかない。


「フフ…決めた…私は決めたわ…!」


──唐突にそんな事を言い出すファヴニア


「?」


フィリスはクエスチョンマーク丸出しの顔で


「何を決めたの?もしかして、やっぱ私に消されることを…とか?」


「フィリスがそれ言うと冗談に聞こえないって…」


「ホント物騒ね……一番力を与えてはいけない存在に力が与えられるなんて世界はホント理不尽…」


「この期に及んでまだ私に喧嘩売ってる?あなたの結論を聞く前にもっかい"貴方が私に喧嘩を売れるほど立場が同格ではない"事を分からせてあげよっか?」


「そんな必要は無いわ。私が決めたっていうのは…[あなた達二人の行く末を近くで観察する]って事だから」


「ん……監視でもする感じか?」


「察しが良いわね。そういう事、"邪竜ファヴニアルである我をたった一人で打ち負かす程の力を持った熾天使"と契約した"悪魔と天使両方の力を持つ存在"なんて過去現れた中でも稀だし……きっとこの世界は面白い事になっていく…」


「ね、ディガル君。この邪竜何か語りだしたよ……」


「フィリス、一応聞いてあげないと可哀想だって…」


「だから私はそれを一番近くで楽しませてもらう───って聞いてないわね!?」


「あ、一人語り終わった?」


フィリスは悪びれもなくニヘッとした表情でファヴニアを揶揄っていて…


「ホント可愛げのない熾天使……」


「私は自分を可愛く見せようと思ってないからね…実際私を可愛いって全てを受け入れてくれる相棒が居るからね…♪」


(この相棒ってのは……ワンチャン俺のことだったり……?)


「とにかく、貴方達二人の行く末を観察させてもらうわ!邪竜ファヴニアルを引き入れれることを光栄に思うといいわ♪」


「だってさ、ディガル君。邪竜ファヴニア"ちゃん"はあの球体の中でひとりぼっちで寂しかったから私らに仲間にして欲しいんだって〜」


「ちょっと…やっぱり話聞いてないわね!?」


「んー…戦力的には全然問題ないし、だけどフィリスに喧嘩売って毎回ギスギスするのなら勘弁して欲しいかなー…」


「この私がいきなり…戦力外通告……」


「残念だったねー。ファヴニアちゃん、戦力は正直私一人で全て倒せるから足りてるし、見た目も私の方がディガル君の好みだし……下位互換ね?」


フィリスのその発言は正直冗談に聞こえないし、ホントにそう考えてそうなのが……


「熾天使………言わせておけばァ……!」


「とにかく…仲間になりたいなら使えるとこを早いうちに私達に見せることね。」


「私は邪竜ファヴニアルよ!?世界に4匹しかいない神竜の1種よ!?一匹で世界のパワーバランスを崩すほどの……!こんな屈辱的な仕打ちを受けた事は初めてよ。絶対邪魔を…いや、ギャフンと言わせてやるんだから……!!」


ファヴニアちゃんは可愛らしい顔をムスッとしながら、決意をしている…


「とにかく、ほら起きるよファヴニアちゃん」


俺は彼女に手を差し伸べる


「フン…仕方なく今だけは私を介護するのを赦すわ!」


「はいはい…」


───という訳でなんだかんだ邪竜ファヴニアル改め、ファヴニアが仲間になることになった。


いや、これは仲間というよりは俺達二人に近くで嫌がらせ?仕返しがしたいだけかもしれないが、なんだかんだ役には立ってくれそうだ。


《30話完》

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