第26話 炸裂するフィリス直伝の一閃

《26話》


【魔界─邪竜ファヴニアルの棲家】


──俺は紆余曲折ありながらも武器に熾天使の加護の力を宿すことが出来るようになった。


(やはりフィリスが横に居ると、フィリスの加護の力?が認識しやすいのかもしれない…)


ただ、まさかフィリスが刀にあんな仕掛け?いや、痛みを遮断するためにそんな策を講じていたとは……。


おかげでよく分からない事故?ラッキースケベ?みたいな出来事に遭遇できるとは思わなかったけども……(苦笑)


(フィリスの喘ぎ声とその後の耳元での囁きの破壊力ホント凄まじかったな……マジで興奮して鼻血出るかと思ったくらいだ…。最近ホント…フィリスとの距離感がバグってる気がする…。)


まぁ、正直遊ばれてる感じというか…ペットのようにというか…でも、一目惚れした相手からどんな形であれ「大切な存在」だと言われれば悪い気はしない。


ましてや"絶対に守る"といった契約と、実際に加護を与えるまでしてもらっているのに文句がある方がおかしいだろう。


(ただフィリスにはもうちょい俺が"悪魔の男"である事を自覚して欲しいものだ……理性を保つので毎度結構しんどいからなー……フィリスの熾天使の加護を受けてから多少マシとはいえ、俺も半分は悪魔の血が流れるている訳で……)


悪魔からすれば熾天使……特にフィリス位美しい肢体となると、この上なく繊細かつ絹のように滑らかで、しかしながら健康的で…よほど甘美なものなのだろう。


''本能的に美味そう"だとか"ヤりたい"だとかホントろくでも無い思考が浮かび上がって来ないかと言われれば嘘になる…


多分もうこれは悪魔のさがであるから仕方ないとしか言えない。


(異世界転移してからの一番の悩みが一目惚れした相手との距離感が近すぎるのと、一目惚れした相手からのアプローチのせいで毎晩ムラつくだなんて…なんて贅沢な話なんだろうか…文句を言えた立場ではない…)


まあ、フィリスの場合は自覚あって狙ってやってる可能性も否定できないのだが───



         ★



「なぁ…フィリス…だいたい、武器に安定して力を流し込めるようにはなってきたんじゃないか…?ほら!」


──フィリスの刀の中にフィリスの加護の力を宿していくイメージで力を流し込めば、その力に呼応するように勝手に刀の方が出力を安定させてくれる。やはり、かなり便利な代物だというのは理解させられる。


「んー…15点くらいかな。」


「うぇえ!?マジ…?俺今の状態結構しっくり来てるんだけど」


「うーん…それはあくまで私の刀の恩恵を受けてるだけだよ?適当に力を流し込んでも出力を整えてくれるからそれっぽくはなってるけどね…」


フィリスはホント、ディガル君は面白いね…なんて言いながら困ったように笑いかけてくる。


というより、俺が出力を安定させれているかいないかを一目見ただけで刀の能力か俺の力か判断できるフィリス凄くない?やっぱ熾天使の"目"で見極めてるんだろうか…


それにしても15点て…完全に赤点じゃないか(苦笑)


「いやぁ…フィリス師匠。結構手厳しくない?」


「そう?私的にはそんな事ないよ?最初のうちに基礎は徹底的に叩き込んでおかないと、私の力に頼りきり過ぎじゃディガル君強くならないし…」


「でもさ?俺が強くなくてもフィリスが今みたいにこうやって守ってくれるなら少々弱くとも……」


そう弱音を吐いた瞬間フィリスが一瞬考える素振りを見せた気がする…


「あー!私は強くていざって時に私を守ってくれる"男らしいディガル君"が好みだなー!」


──何だその見え見えの芝居…!


「フィリスは誰かに守られる程そもそも弱くないだろ…」


「あー!稽古つけて欲しいって頼んでおいて、いざちょっとやってみてうまくいかなかったらすぐ文句を言いそうになる"情けないディガル君"には失望しちゃうかも〜」


「……ッ!」


(くそ…!何と言う卑怯戦法だ。一目惚れした相手にこれ言われて諦めれるヤツ居ないだろ…!)


「マジでフィリスには色々良いように扱われてる…というか狡すぎて一切勝てる気配が無い…。」


「フフーン♪これで少しはやる気出たかな?」


「やる気というより義務感が強いし、成長が中々感じられない気がするんだけど…」


「うーん…じゃあさ、一旦実戦でやってみたらいいんじゃないかな?そうすれば嫌でも気合い入るし、自分の課題も見えてくるかも。」


「実戦か…」  


「うん、実戦♪あ、言っとくけど私の刀は力の調整はしてくれるけど…頼りきっちゃ駄目だよ?」


フィリスは何かを企んだような顔でニヤリと笑っていて…フィリスがそのニヤケ顔する時結構ろくでも無い事考えていたりするからな…


「え…もしかしてだけどさ…実戦ってまさかあの邪竜に一太刀浴びせろと?…気が早くない?」


「そう言ったんだけど?ディガル君ならいけるいける…♪」


(そのいけるいけるというよく分からない自信はどこから来るのだろうか…)


「真面目に…フィリスが契約で俺が死なないようにはしてくれてるけど何回死にかけるか分からない気がするんだけど…」


「大丈夫、ファヴニアルの攻撃は全部防いであげる、基本的には私の鎖で奴は飛べないしロクに動けないから…ディガル君はさっきの刀に加護の力を込めたまま斬りつけるだけだよ…♪」


「分かった…。やるだけやってみるよ」


それを聞いたフィリスはパァッと明るい笑顔を見せながら俺の右手を両手で包み込むように握り


「そうこなくちゃ…♪"一緒"に邪竜倒そ?ね、ディガル君!」


相変わらず一緒にっていう部分を随分と強調するんだよな…


「うん…でもほとんど頑張るのはフィリスな気もする…。全部攻撃受けきるってどうやるのマジで…」


「大丈夫、私に任せて♪」


「分かった…フィリスを信じる。」


そう言うとフィリスは自分達を包み込んでいた結界を解いて…。


(でもフィリスが言う"大丈夫"と"私が守ってあげる"という言葉は何よりも信頼できるんだよな…実際あの強さ見せられるとフィリスが負けるビジョンが見えない…というとフラグになりそうだから言わないけども…)


         ★



"グギャァァァァアアア!!"


──フィリスが結界を解いた瞬間、それに気づいた邪竜が怒りを俺達にぶつけるように咆哮し闇の炎を放ってくる。


凄まじい勢いで放たれたその炎は空気を歪ませるほどの熱戦と瘴気を含んでいて、周りの全てを焼き尽くす勢いだ……。


「意外としぶといね、流石この世界の柱を担う四大竜の一匹だよ……でも、私との相性最悪…♪」


フィリスは再び指を鳴らすと、今度は邪竜の四肢だけではなく、胴体や首にまで不可視の光の鎖(相当熟練された熾天使の瞳を持つもの以外には見えない)で縛り上げる。


(いや、相性の前にフィリスはその力ですべてゴリ押し出来るだろ……)


しかし、邪竜もフィリスの結界を破ろうと何度もこの攻撃を放ってきていたのだろう。辺り一面はドス黒いマグマのようなドロドロかつ高温の液体が覆っている。


「おわ!?…翼失って、鎖で繋がれてるのに全く戦意喪失してないじゃん!」


地面にほぼ足を付ける場所が無い事を察して飛び上がり、翼を広げて


「これ、一切逃げ場もなければ着地する場所も無いな……」


「大丈夫、ディガル君は私に付いてきて…♪」


「……分かった!」


フィリスは俺の目の前でスッと身を翻し、俺の腕を掴むと邪竜の方へと飛翔しながら接近する。


(まさかゴリ押しで正面突破するつもりか…?)


目の前に轟轟と迫り来る黒炎の塊!


「フィリス…!」


ヤバイッ、当たる!俺にはかわすという選択肢がフィリスに腕を掴まれている為無い。思わず目を背けそうになる…が…


「へ…?」


ホントにギリギリだった為避けるにしても相当速く動かないといけないはずだが…


俺から見えている景色は変わらない


「フィリス…今のって」


「今の?普通に避けただけだよ?」


「いや…どう見ても転移とか瞬間移動にしか」


「そう?私的にはギリギリまで引きつけて避けてるだけ…♪」


"グギ…!ガァァアアアア!"


そんな会話をしていれば立て続けに俺達に向けて邪竜の口から爆炎の塊が放たれる。


今回はサイズが小さいが複数であり、先程より更に迫ってくる速度が速い


(まるで弾幕みたいで、当たれば腕の一本や二本弾け飛びそうな威力だ……)


しかしながら、複数だろうとフィリスに掴まれたままの俺は"全自動弾除けマシン"かと思う程にまるで自分が空気と一体化しているように全てをスルスルと回避しながら掻い潜っていく。


「ディガル君、そろそろだよ!刀に加護の力を込めておいて…!」


「了解…!」


フィリスは


「ディガル君にちゃんとした見本を見せる為にも、私も同じやり方で攻撃しよっかな〜…♪」


なんてもはやこの戦いを楽しんでいる様子である。


(俺がフィリスのようになれる日は来るのだろうか…いや、余計な思考を捨てろ…!今は刀に力を流し込む事だけに集中しろ…俺!)


「おぉ…さっきは15点だったけど良い集中だね!ディガル君♪今は50点位かな、ほら♪もう全て避けきるよ!」


そして、フィリスが邪竜の黒炎の弾幕攻撃を避けきった瞬間一瞬だけ邪竜と自分との間の視界が晴れる。


「見えた───!」


フィリスは俺が思っている以上に邪竜と接近し、邪竜のほぼ真上にまで連れて行ってくれた…完璧なお膳立てだ。


"グギ……!?グガァアアアア!!"


俺達が真上に現れたことで、邪竜ファヴニアルはそちらに顔を向けようとするが…その瞬間ヤツを縛っていた鎖が大爆発を起こす──!


驚きながらフィリスの方を見ると、フィリスの目は碧く光っていて、先程悪魔に拷問紛いの事をした時や邪竜の翼を射抜いた時のようにニヤリとした笑みを浮かべている。


(やっぱフィリスはやる時は徹底的だ…今ので邪竜の足、もう機能していないだろう…)


「ハハハ…♪ほら、ディガル君テンション上がってきたでしょ!?行くよ、早く楽にしてあげないと可哀想…♪」


──完全にフィリスは戦闘モード《ゾーン》に入っている。


フィリスは自分でも戦いの時は激情系だって言ってたし、多分戦いそのものを楽しんでいる感じだ…。


「あぁ…!俺も今フィリスの加護の力を完全に刀身に行き渡らせられたとこだよ……」


「ディガル君!」


「フィリス!!」


「行くよ(行くぞ)!!」


お互いがアイコンタクトで行くよと合図するように呼びかける。


フィリスはいつの間にか、邪竜の目の前へと移動している。


(フィリスは前からか…なら俺は、上から勢いをつけて一刀両断だ………!)


「ハァァァアアアア!!!!」


"ギュ……グ……ガ……ァア……!"


片翼を失い、四肢を爆破され、おまけに今は首にまで鎖で縛られている邪竜は一切身動きが出来ていない…


もはや邪竜にとっては"詰み"の状況だろう…


(ならば、俺がやることは…この一刀にすべてを込めることだ…)


「くらえ!俺の全力を…!!」


───邪竜に向けて俺達の剣技が炸裂する……!!



《26話完》

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