第19.5話 魔物討伐の朝(フィリスルート)

《19.5話》


※この話は2章のギルド到達前の朝のフィリスルートです。


【天界─中央都市エディン】

フィリスの部屋


─早朝─


「ッ……クゥ……ンン〜…」


──窓から光が差し込んで来て私は目を覚ます……と言うより、この天使の身体は朝になれば嫌でも目が覚めてしまうというのが正しいかもしれない。


これは私が"特異点"だった頃から変わっていない…


(もう朝かぁ…昨日の打ち上げ……ホントに楽しかったなぁ…あれだけ笑ったのは…久々かも)


一昨日の昼に私の極刑裁判が行われた訳だけど…。紆余曲折あり晴れて私は無罪放免に、ディガル君と魔獣討伐の約束を取り付けることに成功した。


というより彼の方から自分が強くなれるよう、稽古をつけて欲しいと頼まれた…


(私としても…ディガル君は特異点として私の後を継いで欲しい訳で…その提案は結構有り難かったんだよね…。)


──私が彼と"この世界で生きていく"為には、ディガル君が私とまではいかなくとも…特異点として一人でその力を使いこなし天界と魔界を平定出来る位にはなって欲しい…。


特異点ディガル君がこの世界で生きる上で今後障害となり得るのが"誰にも理解されない"という孤独と…そして、天使や悪魔達からの叛逆……)


私はディガル君が強くなれるよう逐一の助力は惜しまないつもりだ…


彼が私と同じ位の力になれば、きっと……



──そして昨日の夜は、私の無罪判決を祝して兄(フィーゴ)とソニアとディガル君の4人で打ち上げをした。


私としては、こういった事をちゃんとするのは…私が自分自身を自ら封印する前…数千年ぶりだろうか…。


私が特異点の時は、打ち上げが出来る程親しい関係の存在がほとんど居なかったから…そもそも打ち上げ自体したかも怪しい。


(だって…特異点ってホント、自我が芽生えた頃からひたすら優等生のような立ち振舞い、世界の為の献身性を強制されて…緊急時には勿論身を粉にして戦わさせられるからさ…)


じゃあ今特異点を引き継いだディガル君はどうかと言うと…彼はまだこの世界に馴染んでいない…。


というより、私がほぼ彼を此方に引き込んだような物な為…彼もこの世界もこの世界にまだ適応しきれていない為、まだ私が介入出来る余地がある。


それにしても…


「でも、やっぱりイイなぁ…こういう打ち上げとかって……」


(でも…まさかその後ディガル君を魔界近くまで送った帰りに緊急で熾天使が招集される事になるとは思わなかったけどね……その辺は多少特異点の頃とあんまり変わんないかな…)


天界における熾天使の役割の一つとして


「緊急時にいち早く駆け付けて制圧、沈静化させる」


というものがある。


勿論戦闘自体は、その場に居合わせた天使達も行うのだが…緊急時にその居合わせた天使達の軍勢で勝てるとは限らない…


御三家の熾天使達の多くは、フィリスやフィーゴとまではいかなくとも他の天使達を凌駕する程の速度で飛翔する事が出来る。


その為、天界の治安は実質、熾天使達によって守られているとも言える。


シエル家の領地は中央都市エディンの中にあるが、その他にもそれぞれの都市に最低一人は熾天使が配置されている。


「昨日のは緊急とは言ったものの…結局大した話じゃなかったし……たかが数人の雑魚悪魔らの侵攻相手に、わざわざ大元の御三家の私達まで呼び出すことないじゃん…ハァ…」


──ただ「私達がいかなければ重大な怪我を負った天使が居なかったとは限らない。それに、熾天使が"現着"した方が士気自体も間違いなく上がる。」そう言って文句一つ言わず駆け付ける兄は私よりも数倍天使として優秀だろう…


兄はシエル家であること、熾天使であることに誇りを持っている。これは熾天使だった頃のディガルもそうだった…


──その点私は…やはりそういうところは未だに特異点だった影響で悪魔の考え方に近いのかもしれない…。


「ま…私は、天使だけど純粋な生まれの天使じゃないからね…。」


(私は"我儘"だ。この世界で私の役割を捨てたのにも関わらず…図々しくも今この世界で自分の好きな様に生きようとしているのだから…。)


でも私は、今の自分が出来る事をしているだけ…それに私は今の自分に誇りを持っている…。


君の最期の言葉…記憶


『フィリス…俺は間違っていたかもしれない。だが…お前は間違ってない、自分の選択を後悔するな…特異点として…お前は正しい選択をした…だから誇れフィリス、お前にだから俺は自分の剣とこの世界を…託せるんだからよ…』


「私は……こんな世界……こんな自分に…耐えられない……私は…」


弱気な私の発言を死にゆく彼は不安を感じさせないように笑い飛ばした。


『何泣いてんだ、そうだな…次出会った時は味方でいてくれよ?お前との戦いはマジでしんどいからなぁ(苦笑)お前の力があれば…どうとでもなるさ、後は…お前は笑顔がよく似合う…失うなよその笑顔を…じゃあ、またどっかでな……』


(ディガル君…君が私に後を託してくれたから……君が最期に伝えてくれた言葉、それを私は今実行しようとしている)


今の君は記憶を失ってるかもだけど、それは多分一時的なもの…記憶が戻った時……私は"笑顔"でこう伝えるんだ。


『おかえり』


と……。



──私はあの戦いから一度も彼の剣を実戦では使っていない…。だけど私は彼の剣の手入れを欠かしていない…、実際に手で触れ強度や魔力の付与力を毎朝確かめる。


そして熾天使の加護の力を纏わせ……


(でもせっかくディガル君と初の魔物討伐だし、久々に君の剣を使っても良いかもしれないね…。)


──ここで、部屋の扉がノックされる。


「フィリス様、おはようございます。お部屋、よろしいでしょうか?」


「ん、良いよ。丁度武器の支度ができたとこだから…」


「失礼致します。」


そう言うと部屋の扉が開かれ、薄い青色の長髪のメイド天使"ソニア"が入ってくる。


毎朝ソニアは私を起こしに来てくれるのだが、大抵その頃までに私は武器の手入れまでを済ませてしまっている…。


「武器の手入れはよろしいのですが……寝癖…、相変わらず自分の身支度より武器の手入れを念入りにするなんて…美しい髪が台無しですよ?フィリス様」


「いつもの事だよ、忙しかったらリフレッシュで身体の状態はリセット出来るし…」


「そう言いながら、私に毎度髪の手入れをさせるんですから…」


「アハハ、ソニアに髪の手入れをしてもらうのなんだか心地良いんだよね…」


「全く……フィリス様、前から思ってはいたのですが…その武器への気に入り様…何か理由が…?見たところ、天界であまり見かけない雰囲気を纏っていますが…」


「お、ついにソニアも私にそれを聴く時がきたんだね〜。」


「なんですか、その勿体ぶった言い方は…フィリス様は武器を所持しなくとも自分の加護の力で武器を具現化させて戦えますよね…その武器だけは毎朝磨いている様子なので…」


ソニアは少し私のボケにクスッと笑うと柔らかく追及するように理由を聞いてくる…


「そうだね…この武器は、元の持ち主が私に託してきた…私にとっては大切ないわゆる"伝説の剣"だよ」


そう言いながら彼女が剣を握ると、その剣は熾天使の加護を纏い鈍く光る。


「伝説の……フィリス様が今その剣を握った途端に…まるで剣がフィリス様に適合したような……、私にとっては、なんて言われていますが、きっと天界の中の伝説と呼ばれる武具達よりも…」


「ま…この剣は元々の持ち主の想いが込められているからね…、それに毎日私が加護を付与し続けてるから…そんじょそこらの伝説の武具の比じゃないよ?」


「なるほど…このオーラは元々の持ち主とフィリス様のオーラが融合したものですか…。ちなみにその元々の持ち主は…」


「ん…そういうこと、元々の持ち主か…そうだね、私の"前世"に好きだった相手…かな。」


「今では、好きではないのですか?…フィリス様の最近の様子からして今の特異点のディガル辺り、少し怪しいと感じています…♪」


「へっ…?ソニア、何を言って…」


「いえ、私の勝手な憶測です。フィリス様が彼に向ける眼差しはただのお気に入りだけとは言えないような関係に思えますよ?ディガルの方は、理解してない感じもしてますが…」


「ニャハハ…参ったね、そこまで見抜かれてるとは…ソニアとフィーゴにはまたいつかこっそり"私の計画"教えるね…♪」


「はい、その計画が上手くいくといいですね…今日はディガルと魔物討伐でしたっけ、心配はしておりませんが油断せぬよう…」


「ん、分かってる…ちょっと身体動かしてくるから、帰ってきたら朝ご飯食べるし置いといて…」


「かしこまりました…♪」


「あ、ソニア!」


「はい…?」


「ありがとね…♪」


「…………はい…♪」


そう言うとフィリスは光に紛れて姿を消す。その気配が完全に消えた時…ソニアは一言…


「フィリス様…やはり変わりましたね…少し前まで、何かに追われているように食事も摂らないくらいだったのに…今は笑顔が増えましたね…。」


そう言ったソニアは、やはりディガルがフィリスの前世に何かしら関わって居るのではと考察するのであった……。


《19.5話完》

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