第2章 邪竜討伐編

第19話 フィリスと初めての魔物討伐へ…

【2章開幕】《19話》

【魔界─地方都市サタノス】


──ディガル君…起きて!今日魔物討伐に行くって言ってたよね?


「うーん……起き…る」


──そう言ってさっきから3度くらいこのやり取り繰り返してるんだけど?


「分かってる…もう流石に起きる」


(…あれ…?この世界に来て悪魔の身体を手に入れてからは、人間だった頃ならまだしも朝は割とシャキッと起きれるようになったはずじゃ…)


───じゃあこれは…夢か?なら、そろそろ起きないと……


───あんまり起きないと、私がチューしちゃうぞ〜?


「………!?」


やっぱり夢でもフィリスはめちゃくちゃ可愛い、夢にまでフィリスが出てくるなんて…俺のフィリス好きもついにここまで来たか……


でもフィリスにチューされるなら起きなくても…いっかなー…アハハ


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

そんな幸せな俺の夢は顔に差し込む眩い光で遮られる。


悪魔になった俺の身体はそれによって一瞬にして身体のスイッチがオンになったようにバッと目が覚めてしまう。


「わっ…!?」


「あ…ディガル起きた?おはよう」


「ここは……」


「ハハ、寝ぼけてる?ここはいつもの魔界の部屋だよ。」


そう言いながら茶髪の女悪魔、レイが俺に話しかけてくる。


「あ……そっか。」


そういや、昨日のうちに…魔物討伐に行く準備をする為に魔界に戻って来てたんだったな…。


────────────────

【天界─中央都市エディン】


裁判が終わったあの日の夜、ソニアの部屋であの会話をしてから結局全然寝れる気配がなく…朝までボーッとシエル家の広い邸宅をウロウロしていた。


次の日はフィリスやフィーゴは別の用事(熾天使の執務)があるみたいだったし、夜まで特に用事も無いので天界を散策していた…が


勿論天界を散策するのは初めてで、目を引く建物や場所が沢山あったし、買いたいものも色々買うことができた。(ソニアから天界で使える通貨を「魔物討伐の時に必要そうなものを買うと良いわ?」と所謂お小遣いを貰っていた。)


だけどこうフィリスやフィーゴ、ソニアも皆天界でそれぞれの仕事や役割を果たしているのに…


「俺も悪魔といえど何もしないのはなー……夏休みで暇過ぎる大学生の気分を此方の世界でも味合わされることになるとは…」


俺は向こうの世界では20歳の大学生だった…。大学生の夏休みといえば働く前の"ファイナル長期休暇"みたいなものだ…


しかも来年になれば就活なども普通であれば始まってくるから、ホントに完璧に使える長期休暇はラストだった。


「まさか悪魔になっただなんて去年の自分に言っても絶対信じないだろな……」


話を戻して、長期休暇ならば友達と遊んだり、何処かに出かけたり…暇なら身体を鍛えるのも良いな。


だが今の状況ではそのどれもが悪手な気がする。


・遊べる友達と呼べるような存在はまだこの世界では居ない。フィリスやフィーゴに頼めば遊んではくれるだろうがきっと忙しいだろう…正直申し訳無い。


新しく友達が出来るかと言われれば天界でも魔界でもまだ長期間滞在すらしてないのに出来る気がしない…


・何処かに出かけると言っても、まず場所すら知らないのに迷子になれば終わる。


・身体を鍛える……これも明日嫌というほどすることになるしな…。


おまけに今天界でランニングなんてしてたら好奇の目で見られるし…悪魔が天界に紛れ込んでること自体が異質であるのに、走ってたら逃亡犯に間違えられた……などまっぴら御免だしな…


結局俺は昼過ぎ頃には既にやる事が無くなった為、シエル家の邸宅に戻って来ていた。


そこで偶然フィーゴに遭遇し、俺は何か手伝う事が無いか聞いてみた。


「ディガルはフィリスの救世主だし、俺にとっても恩人だ。だから、自分が今何もしていないからって気負う事はないと思う。」


と前置きをした上で…


"暇ならば君の部屋をこの邸宅の空き部屋に作るつもりだから、その今使われてない空き部屋の掃除と整理をお願いしたい"


と提案を受けた。いや、待て待て…俺のような悪魔を住まわせていいのかとつい聞き返してしまう。


「え?俺が…この屋敷に住むなんて許されるのか!?」


「ハハハ…!ディガル…君は、自分が何をしたのかまだ実感が薄いようだ…♪」


「いや…確かにフィリスの為に裁判には出たけどさ…結局アレはアデルの手柄みたいなものだったし」


「あの盗聴器が無かったらあんなにすんなりはいかなかっただろう…俺は大切な妹を救ってくれたディガルには感謝してもしきれない。」


「大袈裟だって……」


「ならば…これは俺の独り言として受け取ってくれるといい──フィリスが身内以外であんなに笑顔を見せることはあまりない。兄としては『学園の在籍時ですらつまらなそうだった妹の理解者にディガルはなれるかもしれない』…だから少し君を近くに置いてみるのも悪くないと思っている。」


「近くにおいて俺がフィリスに仮に手を出したりなんてことも……あるかもしれないだろ?俺は一応悪魔なんだから…」


「ほぉ…素直な事は悪いとは思わないぞ?」


あ…やべぇ地雷踏んだかも…(汗)


「ディガル、君が思ってるより俺の妹は数段強い"化物"だ。明日フィリスと魔物討伐に行くとソニアから聞いたが………その上で、手を出すか…いや、出せるかを判断するといい。」


「……兄であるアンタが化物呼ばわりってどうなんだよ…。」


「事実だ。多分真剣に戦ってもアイツにもう勝てるか怪しいしな…俺は」


「育てたのはアンタだって話を聞いたぞ?」


「弟子が師匠を超えるなんてよくある話だろ?俺もそう簡単に負けるつもりは無いが…」


「とにかく色々な人からフィリスは化物呼ばわりされてるしそれを明日確認してくるつもりだよ。」


『もし妹が…君が手を出す時に抵抗しないようならきっと…そういう事なんだろうな…。』


今俺の耳にはフィーゴがボソッと何かを呟いた気がするがよく内容は聞き取れなかった。


「………ん?なんか言ったか?」


「何でもない、とにかく部屋に何を置くか。どう使うかもディガルに全て任せる。家具くらいなら余ったものを手配させよう。」


「分かった。ありがとう」


勿論俺はその有り難い申し出を断る訳はなく、昼からの用事も無かった為それに取り掛かり、夕方くらいには最低限住めるような部屋になった。


(その部屋を整理する中でまた色々と面白い発見があったり、その部屋でフィリスやフィーゴ、ソニアと裁判の打ち上げもしたりしたのだが…その話はまた今度(番外編)で語ろうと思う。)


打ち上げの後、明日の準備がしたいからとフィリスとフィーゴに頼んで天魔結界の近くまでは送ってもらい、魔界に帰ってきたという訳だ。

────────────────

【魔界─地方都市サタノス】



「んで?今日はその仲良くなった天使様と何の討伐に行くのかな?」


興味津々という様子でレイは俺に質問してくる。そういや何気なくレイには今日の話してたもんな…


「邪竜だよ。」


「ほぉほぉ…初級者のディガルにはかなり強敵だよね…。そのお連れの天使様がめちゃくちゃ強いと見た。」


「当たり。目的は邪竜を数十匹倒した後に出てくる邪竜『ファヴニアル』」


それを聞いてレイは驚いた様子で


「え…それって…今も定期的に数少ない悪魔の超級討伐者達が20人くらいで倒そうとするけど…毎回封印かけ直しするので精一杯な4大龍の1匹じゃない……」


「うん…」


「ディガル…割と冗談抜きで…油断すると死ぬよ」


「うん…」


でも、俺はソニアから「フィリスであれば余裕ね、大丈夫」とお墨付きをもらってる。フィリスの力を信じたい。


「うーん…とにかくディガルはまだ魔法とかもほとんど使えない訳だし…物理攻撃はあのドラゴンにはほとんど通らないから」


「勿論俺は見学だけみたいな感じにするつもりだよ。」


「ならいいけど…絶対超級討伐者の人達の指示には従って、勝手な行動しないこと……だよ。」


「分かった。忠告感謝するよ…レイ。」


「本当なら私も行けたらいいんだけどあいにく別の用事が入っちゃってるから…」


「え?レイも討伐とかするの?」


「アハハ、私一応超級だよ?でも、今資格剥奪中〜」


「……え、早くも目の前に悪魔最強クラスを目撃した件について…てか資格剥奪とかあるんだな」


「私なんて全然だってば(苦笑)ま、色々あってねー…」


そんな話をしながらレイの作った朝食を食べ、もう3度目になるギルドの建物の方へ向けて俺は出発する。


フィリスとはそのギルドの建物の前で待ち合わせすることになっている。


今回の邪竜討伐には超級や上級の討伐者も複数参加するため朝9時に集合となっている。


勿論基本的にはその討伐者達と共闘だ…一応最高難易度の討伐依頼な訳だし、いくらフィリスが強いって言っても勝手知ってる訳ではない、郷には入れば郷に従えだ。遅刻するのはまずいからな…



          ❖



俺が着いたのは8:40分前──遠くからチラッと確認したがまだフィリスは来てないようだ。


実際俺はフィリスを騙している訳だ……


本来であれば俺が強くなる為にフィリスに戦い方を教えてもらうという理由で来てもらうのに……俺は今回「フィリスが真面目に戦ってるところを見たい」から来てもらうみたいになっている。


(討伐対象が俺が到底討伐出来ない邪竜って分かったらきっとフィリスは騙したなと思うんじゃないだろうか)


「ハァ……、やっぱり悪いことした気分だ…」


「んー、何が悪いことなのかな?」


「………ウワッ!?」


急に後ろから話しかけられて驚いて振り返ると、自分が一目惚れした美少女天使が立っていた。


ハァ…驚いて腰を抜かしかけた…勢いあまって恥ずかしながら尻餅をつく………なんかフィリスと初めて出会った時もなんかこんな体勢だった気がする。


「ディガル君驚き過ぎ…w」


「いや…完全に気配を断って真裏に立つのは普通に悪質なイタズラだって…」


「そう?ディガル君ブツブツつぶやいてたから、全然気づく様子無かったよ?それで~?悪いことした気分って、私にだよね?」


フィリスはジィーっと俺の方を碧い瞳で覗き込んでくる…。反射的に吸い込まれるように俺はフィリスの瞳に視線を交差させる…


(いや…なんか目がそらせられない…シルヴィアに魅了を植え付けられかけたあの時の感覚に近い…)


「………」


「んー…私自分でもそんなにディガル君を怖がらすくらい酷い目に遭わせたことないと思ってるし、そうそう怒るつもりも無いよ?それでも言えない?」


目の前にいる美少女天使はそう言いながら少し寂しそうな顔をする……。


(これは本当に卑怯だと思う。惚れた相手にそんな顔をされてしまうと話さないという選択肢は無くなってしまう…)


それに誤魔化したり、嘘をついてもフィリスには熾天使の目がある。多分俺の変化で多分すぐ嘘だとバレてしまうだろう…


俺は正直に今日の討伐対象が邪竜ファヴニアルであること…フィリスが戦ってる姿を見たかったことなどを伝えた。


フィリスはそれを聞いてもそこまで驚いたような顔をしない


「で?それだけ?」


「それだけって……え?騙したのに怒らないのか…?」


「いや…せっかく私を呼び出したんでしょ?ディガル君との初デートなんだし景気づけにはピッタリだと思うけど?」


「いやいや…邪竜だからな?超級の討伐者達が複数で挑んでも封印しかできなかったっていう」


「うん、私も久々に討伐依頼なんて受けるし腕が鳴るよ…♪」


「それフラグじゃないよな…」


「そもそもいきなりディガル君を死ぬような目に遭わす程危険なら私が今こんなに嬉しそうにしないし、辞めるように言ってるよ。」


「ならいいけど…」


「あ、でも勿論今のディガル君に邪竜の攻撃が直撃したら即死だし…」


フィリスはそう言いながら、俺の額に再び手を翳して…再びあの時のように何か呪文のようなものを唱えはじめる。


──また"契約"で何か俺に加護を与えてくれるのだろうか…


小声で呟き始めたフィリスは、その最後に"この者に熾天使の命の加護を与え賜う"


と1度目に契約した時とは少し違う契約を結んだように感じる。前契約した時にはフィリスの力が強く流れ込んできた感覚がしたのだが今回はそこまで力の量に変化があったようには感じない。


しかしながら俺の身体の中にあるフィリスの力が明らかに何がかはわからないが変化した───俺の感覚が間違いでなければ…だけど。


フィリスは


「ディガル君がもし即死するような攻撃を受けても、"私が死なない限り"ディガル君はそれをギリギリで絶対耐えるようにしたの…♪」


と自慢気に報告してくる。


つまり…フィリスが死なない限り俺が即死攻撃を受けても死なずにギリギリ耐えると…。そしてフィリスはリザレクションが使える…


フィリスさえ死ななければ無限ループシステムだなこれ…ゲームで敵にいたら苦戦するパターンの奴だ。


「なぁフィリス…俺はこんなにもフィリスに契約で守られまくりだけど…良いのかな?あまりにフィリスに頼りきりだし…一方的に貰ってばかりな気が…」


ついそんな事を聞いてしまう。


「あれ?そんな事で心配してたの?ただ私がディガルを失いたくないってだけだよ、それにこれはディガル君に救われたお礼をしてるだけ…」


「え?お礼はあの契約の継続と、魔物討伐の手伝いで満了したんじゃ…?」


「いや…それだけだと私の気が済まないから。」


「俺としても初対面時に助けられたのも含めて全然フィリスに礼を出来てないんだけど……」


「ならこう考えたらどうかな?…お互いに…自分がどれだけ相手に与えられたか…」


「うーん、でもそれがあくまで自己満足かもってのはあるし」


「なら確認したらいいでしょ?私もディガル君が嬉しいかどうかはちゃんと聞くよ?」


フィリスは…先程までより、少し嬉しそうな表情をしている。何がともあれフィリスが邪竜討伐にノリ気で良かった……


「……わかった。フィリスがそう言うなら…」


「あ…、待って!もうこんな時間、集合まで後8分だよ。契約に時間かけ過ぎた~アハハ」


フィリスはさっと俺の手を取ると「ほら、行くよ?ディガル君…♪」っと引っ張るように建物の中へと走り出す。


……フィリスに手を握られると少し緊張してしまう。やべえ…緊張して手汗かきそう…


しかしながら、フィリスがグイグイと「行くよ?」と言いたげに俺の腕を引っ張るのでつられて俺も走り出した────


《19話完》

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