最終話 それから

 熊谷の古本屋を去って、自分自身のカードショップを出店しました。それまで十年ほど、ネットのみの通信販売をやっていましたが、遂に実店舗です。準備は色々と大変でした。無事オープンすると、熊谷店の同僚だったX崎君や、他の仲間も遊びに来てくれました。オープニングスタッフには、同系列の店舗、東松山の方でアルバイトをしていた友人に来て貰いました。

 それから数年後。忘年会だったか、新年会だったか。今度熊谷でやるから、武藤君もどうかと誘われました。距離の問題もあり、ご無沙汰だった面々との久々の再開です。バイト仲間ではなく、ただの友人として。最初は外の居酒屋に行きました。アルバイト時代、みんなでよく通ったお店でした。近況について、色々と話を聞きました。仲間内で付き合い破局した女性は、熊谷店を辞め他のバイトを始めて、元気にやっていると語りました。海外旅行で東南アジアに行き、そこで本場のアオザイを仕入れてきて、ネットで売るというような話もしていたと思います。軽く旅行費ぐらいにはなるんだそうです。一緒にフットサルをやったX崎君は、スポーツとは無縁の、塾講師を始めたと言っていました。実家が経営する私塾だったか、実家ではなく親族の誰かと言っていたかも知れません。肉体派で、とても知性派と感じていなかったX崎君の意外な就職先には、大変驚きました。その他、みんな各々、新しい道を歩んでいました。

 外で少し飲んだ後、誰かの家に移動して飲み直しました。駅前から徒歩で行ける距離です。大量の酒とつまみ。夜食や朝食になるもの。デザートやアイスまで、両手いっぱいに買い込んで。朝まで飲み、語り明かすつもりでした。友人の部屋に到着すると、六畳か八畳の部屋に通されました。荷物を置き、座卓にコップやつまみを広げました。畳の上に座り、一息吐いて、ゆったり寛いで辺りを見回しました。その部屋には、写真立てに入った一枚の写真が置いてありました。あの日、フットサル場で撮影した、みんなの記念写真でした。


 二十代の頃の、少し遅い青春の一ページのお話でした。

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フットサルの思い出話 武藤勇城 @k-d-k-w-yoro

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