暴走



木原視点



男の人と個室で二人っきり、何も起こらないわけがなく……(BL導入並感)。


入った時は心臓がバックバクやった。

ずっと朝日様良い匂いするし。前のバーベキューとは違った、花みたいな品のある香り。


……普通こういうのって男が女に抱くもんやろ。

うち、女っ気なさ過ぎてついに男になってもうたんか(笑)。

いやそれやったら朝日様が美少女みたいになってまうで……。



「二人だから一番小さい部屋だね」

「そ、そうやな」

「荷物こっち置く?」

「!! だっ大丈夫や」



そう、この袋の中にはアレ(抱き枕カバー)が入っとる。

絶対にコレだけはバレたらあかん。


……ま、朝日様が勝手に中身見ることはないやろけど、事故ってのはあるからな。



「早速だけど注文するよ。何が良い? 遠慮しなくて良いからね」



じゃあこのページ全部! とか言ったらどんな反応するんやろか……。

軽蔑した目で見られる? この、朝日様に……?



「」ゴクッ

「?」



いやいやいや!!!

あ、あかんな。冷静やないでうち!






女オタクは、多種多様な分類がある。


一番有名なのは腐女子。男キャラ×男キャラを妄想して本を薄くする。

うちの漫研でも一番多いな。


次に夢女子。〇×は私のお婿むこ! とか真顔で思っとるタイプや。

つまり男キャラ×自分。漫研では一定数おる。


そして声優オタク。

好きな声優が演じてるから好き……みたいに、作品、キャラというより“中の人”を愛するオタク。



……で、それにも属さへん“普通”の女オタク。

作品自体の面白さを一番に求めている者。

キャラも好きやけど、あくまで作品内のキャラや物語を愛する。

公式オタクなんて言い方もある。ちょっと意味合い変わるけどな。



「えっと、シーズン1だったら獄中からの脱出がほんと面白かったよ」

「せやな。うちも度肝抜かれたで、主人公がヤバイ奴やったもんな」


「はは、だからこそ第六王子が気になったのも分かるって感じ」

「な。主人公も『普通の女はもう良い』って言いながら獄中に行くのはぶっ飛んでるで」


「うん。変な二人だから展開が予想出来なくてさ、続き気になり過ぎて寝れなかったよ」

「分かるで!」



話してて分かるんやけど、多分朝日様はその普通オタクに近い。

うちの漫研部は普通やない濃い連中しかおらんから……なんというか、新鮮。

ちなみにうちは全部行ける器用ぶっぱや。


同じ作品を見ても、オタクの種類によって感想が違う。

純粋な作品への内容についての感想は、むしろ貴重。


……というか、うちの同志はひたすらに好きなところをバーッとぶつけ合う感じやからな。バトルやバトル。

それはそれで楽しいんやけど。

こうやって、うちの好きな“作品”についてじっくり語れるのは久しぶりなんや。


そもそも朝日様にオタクなんて言葉が似合わないから違うんやろうけど。



「そういえば主人公を獄中にやった女の人って出てきてないよね」

「あれアニメじゃ何故か出てこんかったけど、後に捕まっとるで」

「? アニメ以外?」

「ん? あっ大マジって原作があんねん。小説なんやけどな」

「そうなんだ。アニメじゃ出せてないところもあるんだね」

「おん。ソイツに激怒する第一王子も見れるで」

「はは、ちょっと想像できるかも」



正味――今でも信じられん。

こんな陽キャ様が、うちと同じ作品を見て、語ってるなんて。


もしかしたら。

不意に、この夢は覚めるんやないかって。





《――「関西弁だ!」――》

《――「面白い事言ってよ」――》

《――「意外と静かだよね、関西育ちのくせに」――》



……関西弁やからって、おもろい事が言えるわけやない。

そもそも人と話す事自体苦手や。


中学、途中でこっちの方に引っ越してから浴びてきたのはそんな言葉ばかり。

特に……“陽キャ”に分類される人らからはよく言われた。


だから――今でも怖いんや。

万が一。もしかしたら。

彼も、不意にそんな風に言ってくるんやないかって。



「缶バッチは被った?」

「んー、一枚被ったなぁ。同志に一つ恵んであげよか」

「ちなみに誰が被ったの?」

「ツヴァイ様やで、もう三枚目やからな」

「愛されてるね」

「そうやろか〜んふふ」



冗談交じり、そう言われて思わず笑ってまう。

彼と話してるとほんまに楽しい。


それでも、ずっと心の何処かでは不安が付き纏ってて。



「……うん」



だからこそ。

ソーダフロートを口にした朝日様の、その表情に。

ズキズキと今の自分が嫌になっていく。



「……!」

「ごめん。俺変な顔してた?」

「あっ、いや。何でもない……で」


「ん、そう?」

「……い、いや、そのな」


「?」



不思議そうな彼の顔。

うちの中の懐疑心は、どうしようもない自己嫌悪に変わっていく。



――なんでそんなに楽しそうにしてるんや?

――なんでそんなに優しくしてくれる?

――なんで、こんな、自分なんかに。



「あ、朝日様は。その、時間とか、もったいなく無いんか?」

「えっ」

「こんなとこで、うちなんかに付き合ってもろて悪いやろ。他にいっぱい用事とか——」



暴走していると自分でも分かる。

それでも止められんくて――



――ビリリリリリ!



「——きゃっ!?」

「……あー、ごめん。電話——」



うちの暴走を止めたのは、その電話やった。




▲作者あとがき


時間的には進んでないので、今日は夜にもう一話投稿します。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る