運命の一曲①



「「「……」」」


「で、陽が脱ぐって聞いたんだけど!」

「……この缶バッチ……」

「ついに壊れたか、陽」

「本人が言ってんだから間違いねぇよ」



恐らく五人が定員のカラオケルーム。


そこに四人と四人、俺を含めて合計八人。

それが全員集まっているわけだから、結構ギチギチだ。



「「「……」」」


「脱げ脱げ〜」

「って、駄目だよ! なんでそうなったの?」

「さっさと始めろ、下らない」



で、ずっと鈴宮さん達喋れてないぞ……。

下向いて黙ったままだ。柳さんだけは平常運転か。



「大丈夫だよ美咲。俺が始めたことだから――ほら翔馬、早くやろう」

「何焦ってんだお前」


「ほら、さっさと脱ぎたいからさ」

「ああ? アタマおかしいだろお前」



ちょっと調子に乗り過ぎたかもしれない。

今の俺は、ほんの少しどうかしてる。



「まだ〜?」

「……早くしろ。時間がもったいない」


「チッ……覚悟決めろよ陽」

「うん。もう採点画面にしてるから、後は曲選ぶだけで良いよ。真由達の歌う時間ももったいないしすぐ終わらせよう」



翔馬が操作タブレットを操っていく。

そして出来るだけ急かす。


彼は意外と疑い深いんだ。

迷いながら選曲をしているのがよく分かる。


だからこそ。

タイミングは――今だ。



「翔馬。ちょっと良い?」

「あ?」


「選曲なんだけど、“今日俺達が歌ってた曲”限定……とかどう?」

「この機に及んで何日和ひよってんだよ」


「駄目かな。流石に恥ずかしくなってきてさ」



翔馬と俺だけの声が木霊して、静かになる。


考え込んでいる翔馬の表情。

彼の答えは――



「ハハハ、良いぜ。これじゃイジメみてぇだもんなぁ!」

「そっか。ありがとう」



……やっぱりだ。

彼なら、それを受け入れると思っていた。


俺が歌えない曲を出すだけなら、良く分からない英語の曲を流せば良い。

なんなら誰も知らない様な曲でも良い。

勝てる選択肢は無限だ。


でも、それだといけない。

観客ギャラリーの事を考えるなら。

美咲と真由が居る手前だから。


絶対に不可能な挑戦。

だったら……“まだ”可能性がある方が良い。

美咲達、そして俺が知っている曲。

だったらムリだとしても“まだ”納得が行く。


意外と彼は、場が冷める事を――特に“二人”が居る事を気にしているから。



「ココまで譲歩したんだから、マジで約束守ってもらうぜ――」



《――♪》



静寂の中、流れ出すイントロ。

確かにその曲は俺が知っている曲だけれど。



「……こ、これって」

「翔馬キチク〜」


「『大マジ』や……」

「『大マジ一億ゴールド』って、翔馬に歌わされてたやつだよね〜?」



木原さんもなぜか驚いた顔で。

真由が半笑いでそう言う。


さっき歌わされた時、一番までは聞いていた。

だから、少しは歌える。


欲を言えばこれ以外の曲だったけど――翔馬ならこの曲だとは思っていた。



「——♪」



歌詞が画面に広がって。

たどたどしくも、なんとか音程を合わせていく。

もともとそこまで難しくない曲だから、大丈夫だ。


いっつも翔馬の無茶振りを答えてきたおかげか――最初よりは全然マシ。



「わ、私より上手いです……」

「……でっでも95点やで? 絶対ムリや……」

「」シャンシャン


「タンバリンとか採点したことあんのかよバカが。味方から妨害されてんじゃねーか」

「アハハッ、うける~」



……大丈夫、おかげでリズムも取りやすい。

無いよりは全然良い。



「♪」



少しずつ手応えを感じていく。

さっき歌無しで、一回しか聞いてない曲にしては我ながら上出来だ。



「おお、終わっちゃう……」

「ま、マジで脱ぐんか……?」


「終わったな」

「脱げ脱げ〜」

「よ、陽君……」


「♪――」



《採 点 中》



ようやく終わった。

体感で音程は8割ぐらい、こぶしとかビブラートはほぼゼロ。

ところどころ遅れたり詰まったりもしちゃったけど、許容範囲。



「……ふぅ。どうかな」



息を吐く。


上手いとはいえないが――ほんの“奇跡”でも起きれば分からない。

そんなラインだ。



「「……」」

「」ジー



鈴宮さん達は心配なのか、顔を手で隠している。

柳さんはガン見だけど。

容赦ないね!



《採 点 終 了》



「ハハッ来るぞ」

「ようやく終わりか、勇敢と無謀を履き違えたな」



《採点結果は……》



画面を見つめる総勢八人。

現れる点数を、全員が釘付けになって――












▲作者あとがき

夕方ごろにもう一話投稿します。


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