第11話 奴隷の購入

『あら、初めてですね。コイツが人に近づくのは』

案内していた男は驚いていた。


『あ、そうなんですか』

(この前、路地裏で助けた吸血鬼に間違いない)

じっと彼女は僕を見つめている。何か言いたそうだけど何も言わない。


『お客さん、気に入りましたかな?どうです?一度牢屋から出して触ってみます?』


『いや、ん、まあ』

なんとなく気になる。


『わかりました。では少々ここでお待ちください』

男はそう言って消えて行った。


『この前はありがとうございます。イリナと申します』

急に彼女が喋りかけ、ほぼ土下座みたいな形で名乗ってきた。


『え?あ』

『これはそのお礼です』

そう言って彼女は金貨2枚を出してきた。


『あ、え』

『お願い、受け取って下さい』

戸惑う僕に彼女は2枚の金貨を僕の靴に無理やり押し込んできた。

小さな声だったが、何か切羽詰まった感じで圧倒されていた。




『おや、おや、気に入られたようで何より』

そうこうしているまにちょうど男が来た。


『でわ』

(ガチャ)

男は扉を開いた。


『おい、立て』

男は彼女を立たせた。


『お客様に挨拶しろ』


『私は、ゲホ、ゲホ、イリナ』

さっきの彼女からは想像出来ない弱々しい様子で挨拶してきた。


『すみませんね、お客様、どうやらまだ病気が治ってないみたいで、んーー……いま購入してくださるようでしたら。金貨2枚でお売りしましょう。他のどの奴隷よりもお安いですよ』

((早く売っちまいたい。このクソゴミ吸血鬼め、飯は一丁前に血しか食べようとしないし、その分金がかかって苦労するわ、今日売れないようなら昼の間に外に出して殺すか))


『いや、その』

(どうやらお買い得らしい。しかもさっき何故か彼女が持っていた金貨2枚で足りる。これでいいのか?)

正直どうしたらいいか。他の店でもいいかもしれない。


(シド、シドくん。その奴隷がいいと思うわ、吸血鬼なんて仲間にするには十分以上よ、私何回か吸血鬼を戦ったけどどれも人間離れした強さだったわ)

いきなり頭の中でルミナスが話かけてきた。


……心の中……


『だめ!有馬くん!!奴隷なんて相応しくない!!!』

なんとなく久しぶりに感じる白い空間で自称女神アナは怒っていた。


『でも、仲間が必要だってみんな言ってたし。それに』


『なんでよ!有馬くんは、英雄はそんなことしない。そんなん汚いことしない!!』

何故かアナは怒ってる。


『大体何で!私のあげた力を信じてくれないの?ねえ……どうしてよ!』


『確かにアナさんのくれた力は強そうだよ、でも一人だと不安だし、この世界のこと全然知らないし』


『なんでよ!それならなんで私の言うこと聞いてくれないの?……なんであの魔法使いを助けたの?どうして?私言ったよね。やめて、て。あなた!全然この世界のこと知らないのになんで!』



『それは、あんたきちんと人のこと見ないからよ』

いきなりルミナスが現れた。


『何よ!人殺し魔女!』


『あーあそうやって人を見た行動だけで判断するなんて嫌ね。そうよ私は何百人も殺したわ。でもねそれは大事なものを守るためよ』


『何よ!そんなんだから。有馬くんの近くにいて欲しくないの』


『そんな、生ぬるい考えばっかだから勇者様が死んだんでしょ!!!あなたのせいで!あいつは!』


『あ、あれは!!あなたが……』


『シドくん。この女神は君をダメにして死なせる。やめといて……おい!くそ女神そんな理想の高い女だから全部無くすんだよ!お前が勇者殺したんだろ!!』

いつもよくわからないルミナスが今回だけは怒っているのがはっきりわかる。


『有馬くん、あなたはわかってくれるよね?』

泣きながらアナは聞いてきた。


『アナさん、僕は、あなたの考えが理解できません』


『なんで…………どうして、どうして、どうしてよ』

アナが四つん這いで下を向きなが泣いている。




『お客様?お客様?』

気づいたら奴隷商人の男が僕を呼んでいた。


『いや、その、考え事をしていました』


『そうですか。それでこの奴隷をお買いに?』


『ええ、そうですね。金貨2枚ですね。はい』

僕は男に靴の中にあった金貨を渡した。


『おお、ありがとうございます』

そう言って男は受け取った金貨を持って消えていった。


『ありがとうございます。ご主人様』

イリナが僕にお辞儀して言った。


(げ、初めてご主人様なんて言われたぞ、気まずい)

『僕のことはシドでいいよ』


『はい、シド様』

さっきの静かな感じの彼女からは考えられないぐらい、可愛らしい笑顔で言った。


『お、あ、はは』

一瞬ドキときた。





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