魔力ゼロで落ちこぼれだと言われて追放された俺、実は呪力SSSの呪詛師だったらしいので、地位も名誉もすべて自力で取り返します。
菊池 快晴@書籍化進行中
001 魔力ゼロの最凶呪詛師。
アディル・ルーザリー・ギルガルド。
それが俺の名前だ。
公爵家ギルガルドは、由緒正しき魔術師の家系でもある。
類まれな魔法で魔物を退治し、領民を守り、その積み重ねで爵位を授かった。
そして俺は十三歳になった。
俺が住んでいる領地では『祝福の儀式』というものを受ける決まりになっている。
名のある貴族たちが集まって、大神官の力を使い、魔力量や能力が判明するのだ。
俺は、父と母、二つ離れた弟、そして多くの親族に見守られながら胸を張って堂々と前に出た。
ギルガルド家に生まれたものとして、長男として、これから家を支えていく立場となる。
神殿内、大神官が、魔力を漲らせた手で俺の頭に触れる。
そして、神官が目を見開いて驚いた。
「なんと……アディル・ルーザリー・ギルガルド。――驚いた、100年に一人、いや1000年に一人だ」
その言葉で、ワッと周囲がざわめく。
かの勇者の再来じゃないか? と騒ぐ人もいた。
思わず後ろを振り返ると、両親も笑顔だった。
嬉しかった。だが同時に――ホッとした。
実はここへ来るまで不安だったのだ。
本来ならこの年齢に達するまでに魔法が開花しているのだが、俺には一切気配がなかった。
儀式は、その確かな能力の確信を得る為に過ぎない。
しかし遅咲きの人もいないわけじゃない。
対して体術や剣術は幼い頃から才能があったので、それに関しては自信がある。
だが俺は魔術師になりたかった。
しかしこれで一安心――。
「ゼロだ」
「……え?」
「魔力がゼロ、皆無だ。一ミリも、いや一滴もない。私が見てきた中でも、いや魔術師の家系としては歴史上で初めてかもしれない。凄いな……平民でもごくまれだというのに……」
俺は訳が分からなかった。
視界が歪む。
魔力がゼロ?
つまり俺は――魔法が使えない。
◇
――五年後。
「アディル、お前は二度とギルガルド家の敷居をまたぐな。弟の邪魔もするなよ」
俺は父の自室に呼ばれていた。
ギルガルド家の当主は、弟が引き継ぐことに決まった。
「本当にガッカリだよ。特に無駄な努力は反吐がでそうだった。もう、顔も見ないで済むと思うとせいせいする。さよなら、兄さん」
俺の魔力がゼロと判明した数年後、弟は過去最高の魔術師の素質を持つことが判明した。
それからというもの、俺のことを毛嫌いするようになった。
俺が魔力がゼロと発覚してからも鍛錬を続けていることが嫌だったらしい。それを見るたび、冷たい目で俺を睨んだ。
当主が弟に決定したのと同時に、父が俺に辺境の領地でほそぼそと働けと言ってきた。
言った通り、俺のことを見たくもないのだろう。
「わかりました」
そして俺は静かに部屋から立ち去った。
その夜、俺は書き置きを残してギルガルド家を出た。
悲しみからじゃない。
俺は、諦めが悪い男だからだ。
昔から冒険談の本が好きだった。
過去、魔王を討伐した勇者の功績を纏めた本をよく読んでいた。
俺は勇者になりたかった。この愛する土地で、皆を守りながら当主として。
だがそれはもう敵わない。この世界、魔力がなければ魔物と戦うのは難しいとされている。
しかし俺はそれなりに剣に自信がある。
魔力の通っていない剣は弱いが、それでもやるつもりだ。
もちろん目標も立てている。
冒険者となって、最上位階級の『特級』を目指すことだ。
それは、爵位と同様の権威を持つ。
バカにされたことが悔しいわけじゃない。
全てを諦めるのは、他人が決める事じゃなく、俺が決めることだからだ。
最終的に自分の力で爵位をも獲るつもりだ。
他人から与えられたものじゃなく、自らの力で手に入れる。
その強い覚悟を胸に、俺は飛び出した。
まずは冒険者ギルドがある王都へ向かう。
予め準備していた馬に跨り、満月を眺めた。
皮肉にもそれは、人生で一番輝いて見えた。
◇
家を飛び出てから二日後、俺は森を彷徨っていた。
道中順調だったが、突然現れた魔物のせいで道の変更を余儀なくされたのだ。
そのとき、馬も消えてしまった。
だがこれから先、そんなことはいくらでもあるだろう。
――俺はゆっくりと剣を握りしめる。
しかしそのとき、言い表せないナニカを感じた。
何かなんとも言えぬ感覚。
導かれるように歩くと、見えてきたのは大きな岩壁だった。
だが――なぜか光っている。
試しに手で触れてみると、直観で気づく。
――呪いが掛けられている。
理由なんてない。そう感じたのだ。呪いについては少し勉強したことがある。
確か古代で使われていたものだ。文献で齧った程度だが。
確か、解呪というものが――その瞬間、岩壁がまるで扉のように開く。
「なんだ……これは」
おそるおそる足を踏み入れると、中は空洞になっていた。
長い間手つかずのようだが、どこか人為的なものを感じる。
そういえば、手に負えない魔物は封印されると聞いたことがあった。
となると……油断はできない。
確かめるように歩いていると、衝撃的な光景が目に飛び込んでくる。
「――なんだこれは」
壁に打ち付けられた楔、両手両足を鎖で繋がれている少女がいたのだ。
ボロボロの布切れ、薄汚れた白髪、生きているのか死んでいるのかもわからない。
褐色肌で、長い耳が特徴的だ。
魔物だとは思えなかった。不安よりも心配が勝ち、俺は急いで駆けよる。
「大丈夫か!? 生きてるか?」
「……う……うう……」
驚いたことに意識があった。だがかなり衰弱しているみたいだ。
「なんてひどい……何があったんだ? 誰にやられた?」
「……人間……に」
その言葉で気づく。彼女が人間じゃないことに。
――エルフだ。
だが俺が知っているエルフとは少し違う。
急いで鎖を外そうとするが、力づくではびくともしない。こんなにボロボロだというのに。
「……はあはあ」
少女の声はひどく弱弱しい。
凶悪な魔物は、見た目だけではわからないと聞いたことがある。
しかし彼女から一切、邪悪な気持ちは感じられなかった。それがなぜかわかる。
いや、そんなことはどうでもいい――。
「――絶対に助けてやるからな」
俺は、さっきの岩壁を思い出す。
次の瞬間、手の甲が黒い何かで覆われる。
すると突然、少女の手錠が勢いよくはじけ飛んだ。
支えが消えたことで、少女が俺に寄りかかるように倒れこむ。
「――ああっ、ありがとう……ありがとう……」
「大丈夫か、今すぐに医者を――」
「いらない、人は人は――」
「……わかった。ちょっと待ってくれ。ほら水だ」
鞄に入れていた竹筒を手渡すと、彼女は両手で受け取り、中に入っている水を勢いよく飲み干した。
「……おいしい……水ってこんなおいしかったんだ……あ、ご、ごめんなさい。私の名前は、イヴといいます」
「俺の名前はアディル・ルーザリー・ギ――」
そこで俺は止まる。俺はもう、ギルガルド家じゃない。
「アディルだ」
「……アディル様……ありがとうございます」
「呼び捨てにしてくれ、様なんていらないよ」
「私を助けてくれたんです。あなたは、私の命の恩人です」
しかしおかしい。エルフの肌は白く、太陽に焼けることはないはず。
なのになぜこんなにも褐色――。
「――ダークエルフか」
人間に害をなす存在として忌み嫌われていたと聞いたことがある。
だがそれは数百年以上の話だ。実際はただ魔力が使えないエルフだったが、それが発覚したのはここ数年の話だ。
もしかして……そんな、まさか。
「知ってるんですか……」
「ああ、だが怯えなくていい。誰も君を傷つけない」
「……あなたは一体、どうして解呪できたんですか……」
「解呪?」
「はい、私の鎖には……呪いがかけられていました」
そういえば変だ。俺には魔力がないはず。
魔法なんて使えたこともないはずなのに。
「……アディル様……あなたはもしかして
「呪詛師? なんだそれは?」
「呪詛師様を知らない……?」
「いつからここにいるんだ?」
彼女は答えなかった。
呪詛師とはなんだ?
俺の力と関係しているというのか?
「……呪詛師様は、最強の力を持っていました。でも、アディル様、あなたからはそれよりもっと……凄まじい力を感じます」
「悪いがそんなわけがない。俺は魔力がゼロだからな」
「魔力は確かに感じられません。でも――呪力を感じます。――私にはわかります」
「呪力?」
「はい。確か呪詛師様は……「ステータス」と唱えていたはずです」
「――ステータス?」
すると、俺の視界に何かが浮かびあがる。
見たこともないものだ。
だがその文字を見て驚いた。
なぜなら、俺の名前が書いてあったからだ。
New:アディル。
New:呪詛師:Lv1。
New:体力:B。
New:呪力:SSS。
New:所持スキル:『丑の刻参り』。
New:呪いの装備:五寸釘と藁人形。
New:対象の一部を藁人形に封じ込め、五寸釘で打ち込むことで呪いを与える。
New:有効範囲:半径五メートル。
「――なんだこれは……『丑の刻参り』?」
その瞬間、手が黒く光る。
黒い糸のようなものが出現し、徐々に形を作っていく。
そして出来上がったのは、ずっしりと重い小さな鉄の棒と、異様な気を放つ藁人形だった。
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異世界ファンタジーの新作です。
『呪詛師』のスキルを使っての努力系成り上がりです!
ひとまずできるところまでは毎日更新の予定なので、是非見てほしいです(^^)/
少しでも面白い! これからが期待できる! と思った人は、ぜひとも、作品のフォロー&評価の【☆☆☆】で応援をお願いします!
モチベーションの向上に繋がります!
よろしくお願いします!
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