第10話


 ブルーになったせいで全く睡眠を取れないまま朝になっていた。

 おそらく1時間は寝たのだろうが、いつ起きてていつ寝てたのかもわからない。

 ベッドでもぞもぞしていたら朝の8時になっていた。

 今日仕事無理だな。

 申し訳なさに潰されそうになりながら料理長に休ませてほしいと連絡を入れた。

 程なくして、了解の返信が来て少しほっとした。

 いつまでこんな甘えた生活ができるのだろうか。いや違う。いつまでも甘えて生活するくらいならとっとといなくなった方がいいのか。

 そして今頃眠気が少し来てくれた。

 少し寝よう。微睡の中自分を責め続けながら気がついたら眠れていた。


 3時間くらい経ち、目を開ける。少し寝れたからか気持ちは少しスッキリしていた。

 このままなんの生産性のない1日を過ごすのは嫌だったが、どうしても体が重い。

 そこからお昼時が過ぎたあたりでお腹が空いてきた。

 今現在家には食料は何もない。

 仕方なく外に出る準備をし、どうせならと姫の誕生日プレゼントも買いに行くことにする。

 身体が重いが、コンビニでパンを買い、公園で休憩をしてからお台場に向かった。

 やはり人は多く、それでも平日な為少ない方だと自分に言い聞かせお店が並んでいるショッピングモールを歩き回る。

 全てのお店を1通り見て周り、最終的に2つの店まで候補を絞った。


「ケーキは、渡す前日のがいいか……」


 荷物になるので帰る直前に買い物をするとして、本屋に向かう。

 ここの本屋はカフェと一体化している。本屋の雰囲気を楽しみつつ新作のチェックをし、あらすじや冒頭をパラパラめくって物色する。ひとまず今は読む本があるので次何を読みたいかを考えながらカフェで休もうとドリンクを考える。いつもならコーヒー1択なのだが、たまには違うものを飲んでみるかと思考しながらレジに並ぶ。


「次のお客様どうぞ〜」


「いつもコーヒーを飲んでいるのですがたまには違うのを飲もうと思って迷っているのですが何かおすすめとかありますかね?」


「そうですね。それでしたらコーヒー系か紅茶系あるんですけど、コーヒー系のがよろしいですかね?」


「そうですね。コーヒー系で甘すぎないものって何かあります?」


「それでしたらこちらがおすすめです。私も結構好きでよく飲むんですよ〜」


 そう言いながら店員がメニューに指をさし、おすすめしてくる。

 よくわからないしそれにしよう。


「そしたらそれを1つ普通のサイズでお願いします」


「かしこまりました。アイスとホットあるのですけどどうします?私はいつもアイスで飲んでいます」


 こちらが悩むのを見越してか、アイスで飲んでいる事を元気よく教えてくれる。


「じゃあアイスでお願いします」


「かしこまりました〜」


 お金を払い、レシートの番号で順番に呼ばれるらしく隣のカウンターに並ぶ。

 毎度の如く飲食店に入ると自分と比べてしまう。

 自分はこの人と同じ接客ができるだろうか、キッチンの人は今ピークで忙しいのだろうな、などなど。

 間も無くして、レシートに書いてある番号が呼ばれ、店員さんおすすめのドリンクをもらい、席につく。

 持参している本を出し、ドリンクを味わいながら物語に入り込んだ。


 普段から読書を好き好んで読んでいる人ならわかると思うが、時間を忘れる。

 氷は完全に溶けていて、味の薄くなったドリンクを飲み干した時には日が落ちかけていた。

 本をしまい店を出る。

 目星をつけていた店に立ち寄りハンカチともこもこの靴下を買った。

 レッグオーマーの予定だったが、靴下もレッグオーマーも大した差はないだろう。

 夜ご飯を食べていくか悩んだが、コンビニで適当に済ますことにする。

 体に悪いだろうが、早く帰りたかった。

 電車にゆられ、電光掲示板の流れているニュースを見ていたらどこかで土砂崩れがあったらしい。

 行方不明者がまだいる中、死者も出ているらしかった。

 災害に巻き込まれて死んでいってしまった身内には申し訳ないし、縁起が悪いかもしれないがすごく羨ましかった。

 自殺はする勇気がなかなか出ない。こうやっていきなりくる災害に抗う事ができずに死ねたら楽なのかななど考えてしまう。

 交通事故や、通り魔的なものに刺されて死んでいくのも抗えない事なので自分に起きないかと思う。

 命を交換できたらどれだけ素晴らしいことなのだろうと思える。死にたくなくても死んでしまう人や、今日のように災害に巻き込まれて未練を残したまま死んでしまった人と命を交換する。

 完全にフィクションの話だがその世界線で生きてみたかった。

 そんな事を考えているうちに、最寄駅につき、コンビニでお菓子とパンを買ってとっとと帰った。

 今日休んでしまったのに、こんな出歩いてていいのかなとまた罪悪感が押し寄せてきて、ブルーな気持ちになっていく。

 姫にもらった本を読みながら涙を堪えた。

 自分は涙を流す権利もない。涙を流す権利がある人は抗っている人だけだ。全てを諦め、切り捨て、抗うことをやめ草船の如く流されていつひっくり返ってもいいと思ってる人間が流していいものではない。

 だがこうして、姫からもらった本を読んでいると姫が頭の中で朗読してくれてるかのように、声が聞こえてくる気がした。近くにいる気がした。

 何に縋っているのかと自分に対して呆れ、この日も過ぎていった。

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もう、消えてもいいかな ねもまる @nemomaru

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