第12話 特訓2日目

 次の日。またも同じ時間の昼休み。体育館では美桜の特訓が行われていた。


 まだ2回目で仕方が無いが、成長の兆しを全く見せない美桜。大貴も運動神経は無い方だが、美桜の方はレベルが違った。


 美桜の運動神経から、体育の樹上で大量得点してチームを勝利に導くような活躍は不可能だと、大貴は判断した。そのため、味方にアシストしてチームの得点に貢献し、活躍できるように美桜を育てようと試みる。


 しかし、そのためには、ある程度ゆとりを持ってドリブルを突けるようになる必要がある。その上、正確に味方にパスをする技術も重要になる。


その特訓として、美桜にドリブルを突かせながら、コートを動き回る大貴に正確にパスを出す特訓をしている。後、視野を広くするためにコート全体を見るように指導することも忘れない。


「おっとっと。は、はい! 多月君!! パス!! 」


だが、運動神経の悪い美桜は当然、大貴に正確にパスを出せない。


ドリブルをするだけでボールに遊ばれてしまうのだ。無理もない。


頑張ってパスを出しても、パスが弱かったり、変なとこに飛んで行ったり、大貴に全く届かない。


それが何度も何度も続いた。


その結果、今回も全く収穫のない特訓になってしまった。


「そろそろ昼休みも半分が過ぎたから、今回の特訓はここまでにしない? 2人共、昼ご飯を食べないといけないと思うし」


体育館の時計で時刻を確認し、大貴は特訓を切り上げる提案をする。


「もう、そんな時間! それは仕方ないね」


 大貴の言葉を聞き入れ、美桜も時刻を確認する。時間の進みの速さに驚いているようだ。


「それじゃあ、俺は学食でご飯を食べないといけないから。また明日の昼休みね! 」


 踵を返し、体育館の出口に向かおうとする大貴。


「あ、あの! 」


 大貴が1歩進んだところで、美桜の緊張した声が背中に届く。自然と大貴の足が止まる。


「わ、私、自分でお弁当を作って来てるの。それで、特訓に付き合ってくれている多月君に感謝の印として、お弁当を作って来たんだけど。どうかな? 」


 緊張した面持ちで、体育館の床に置いた大貴の分の弁当が入った弁当袋を、美桜は両手で持ち上げる。


(お、お弁当だと!? )


 大貴に衝撃が走る。


 今まで大貴は妹の愛李が作った弁当以外、異性の作った弁当を食べた経験がない。


 前の彼女であった谷村百香も一切、大貴にはお弁当を作ってくれなかった。ラノベが大貴好きな大貴にとって、女子からのお弁当を作って貰うことは憧れのイベントであった。


「も、もしかして、迷惑だったかな? 学食食べたかったのかな」


 バタバタと慌てた様子で、美桜はお弁当を袋を背中の後ろに隠してしまう。大貴が無言で拒否しないことから、拒否反応だと判断したのだろう。


「ご、ごめんね! ちょっと理解が追いつけなくて」


 美桜の言葉で我に返り、大貴は無言の理由を説明する。そして、大貴の次の言葉は決まっていた。


「もし良かったら、その弁当を頂いても良いかな? 」

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