第7話 大活躍
「「「「キャ〜〜〜」」」」
体育館内で女子からの黄色い声は止まらない。
その黄色い声は大貴と田嶋のプレイの後に生まれる。
大貴は試合で大活躍していた。
何度も田嶋へのパスをカットし、自身でシュートを決めたり、時にはノーマークのチームメイトにアシストを出したりもした。
バスケ部のエースである田嶋とも活躍では引けを取らない。それほど大貴は活躍しており、女子達からの注目の的でもあった。
一方、試合のスコアは五分五分であった。
大貴がアシストや簡単なシュートでスコアに貢献するのに対し、田嶋は個人技で得点していた。大貴を含め、誰も田嶋の個人技を止められないでいた。
30対30の同点で迎えた残り10秒。
何度目かの相手チームのパスをカットし、大貴は余裕を持ってレイアップシュートを決める。
ゴールのネットを通過したボールは体育館の床に落下する。
大貴のチームが2点リードした形となる。
相手チームにこれ以上得点を許さないために、大貴を含めたチームメイトは、素早く自身の守るべきかゴールのあるコートに戻る。彼らに油断は無い。
残り5秒で田嶋にボールが渡る。
最大限の注意を払ったのか。今回のパスはカットできなかった。
(さて、どうくる)
心の中でボソッと呟きながら、田嶋の次のプレイを読む。
ドライブ、それともシュートか。考えれるだけ考える。
シュッ。
大貴が頭をフル回転する矢先に、田嶋が迷わずにスリーポイントシュートを放つ。しかも、スリーポイントラインよりも1メートルほど後ろの位置から、田嶋はシュートを打った。
(な、なに〜。この状況でか…)
綺麗なフォームで放たれたシュートは美しく弧を描き、リングに接近する。
シュパ!!
ゴールの何処にも触れることなく、シュートは華麗にネットを揺らした。
シュートが入った直後に、試合終了を知らせるタイマーが体育館内に鳴り響く。ブザービーターだった。
「「「「キャ〜〜〜」」」」
今日1の女子達の黄色い歓声が体育館内に木霊する。
そこで試合終了。
大貴のチームは1点差で敗北した。
負けはしたが、不思議と大貴に悔しさは無かった。なぜか驚きがあった。
自身がここまでアシストやパスカットが出来るだなんて信じられなかった。
中学時代バスケ部で現役だった時は、このようなプレイは全く出来なかった。
(おそらくだけど、飲食での仕事で得た能力だな)
大貴はほぼ確信に近い仮説を立てた。
タイムスリップする前の大貴は、大手飲食チェーン店に未経験で入社した。そのため、同期はアルバイト経験者ばかりでスタートから遅れを取っていた。
そんな大貴は働く店舗に配属されてからは、上司である店長から毎日ように怒られた。
あれが出来てない、これが出来てない何度も指摘された。
たくさん指摘された中でも、視野を広く周りを見ろと何度も口酸っぱく注意された。
何度も同じことを注意されたくなかった大貴は、周囲全体を注意深く見ることを意識しながら、毎日店で働いた。
(その成果がまさかバスケで現れるとは)
戸惑いと共に、満足を覚える大貴。決して高くない自尊心も今だけはグングン上昇する。
気分に影響を受けて、身体も熱を帯びる。
一方、そんな気分の良い大貴を、じっと見つめる女子が1人いた。
その女子は黒髪ボブヘアにパッチリとした2重の瞳をした美少女であった。
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