高校から付き合っていた彼女から突然、婚約破棄された。悲しみで絶望していた中、朝起きると高校時代に戻っていた。婚約破棄は高校時代から決まっていたらしい。だから社会人で身に付けたスキルを使い頑張る!

白金豪

第1話 婚約破棄

『結婚指輪まで貰って、婚姻届まで書いたけど。やっぱり無理だわ。あなたとは結婚できない。だから婚約は無しで(笑)』


 仕事帰りで終電ギリギリで帰宅した多月大貴のスマホに1つのメッセージが届いていた。そのメッセージは国内で最大の利用者数を誇るSNSであるラインを介していた。そして、その送り主は彼女であり、婚約を約束した谷村百香であった。


『どういうこと! 何で? 俺に悪いところが有ったなら、正直に伝えてよ!! いきなり婚約破棄なんて納得できないよ!!! 』


 メッセージの内容を全て読み終わり、大貴はパニックな状態ながらも速攻でメッセージを返信する。すぐに婚約破棄の理由の説明が欲しかった。


 その望みが叶い、すぐに既読が付く。


『理由?わざわざ伝えないといけないわけ。 面倒くさ!! 』


 短い文章が帰って来る。


 その文章を認識し、大貴の目が曇る。


『いっぱい有りすぎて困るのよ。飲食店の正社員で安月給だし。エリートじゃないし。将来性もない。入社3年でまだ店長代理でしょ? 終わってるでしょ!! 』


 次々と大貴の心を抉る婚約破棄の理由が、メッセージで送られる。どれも大貴が心の中で気にしている物だった。


『それに、あたし達、高校から付き合ってるけど、その時から全然好きでも無かったし、もし長く付き合っても結婚するつもりなんて微塵も無かったから』


 追い打ちを掛けるように、とどめの言葉が大貴の胸に突き刺さる。


 だが、そこで留まる百香ではなかった。大貴の心の状態を無視して、さらにメッセージを送って来る。


『そういうことだから。婚姻届の提出はしないでね。破棄しといて。でも、結婚指輪だけは貰っとくわ。適当に売って、あたしの財布の一部にさせて貰うよ。せっかく貰ったんだし。そういうことだから!! バイビ~~。もう連絡して来ないでね~~。まぁ~、ブロックするから連絡しても無駄だと思うけど(笑)』


 ここでメッセージは途切れた。言いたいことだけ言って、勝手に話を終わらせた形だ。


 スマートフォンを握った状態で、力尽きるように、大貴は床に崩れ落ちる。両膝と床が勢いよく衝突するが、不思議と痛みを感じない。痛みを感じる余裕など無い。それほど大貴の精神状態は落ちていた。


 そのまま俯きながら、1時間ほど大貴は動けなかった。


「はぁぁ~~。最悪な日だ……」


 1時間後。ようやく立ち上がった大貴は消え入りそうな声で呟くと、フラフラしながらベッドに向かう。少しでもバランスを崩すと一瞬で倒れそうだ。


「…どうして…どうしてだよ……。……百香。ひどいよ……」


 力無くベッドに飛び込み願うように、大貴は口先だけを動かす。だが、返事は無い。今現在、家には大貴しか居ないのだから。


 最悪な気分で寝れるかは分からないが、明日も8時から23時まで仕事である。1日中飲食の店舗で拘束を受ける長時間労働である。


 強引に両目を瞑り、大貴は眠りに入ろうと試みる。


 予想通り深い眠りには付けず、意識が飛んだのはベッドに入ってから2時間後であった。


「うぅぅん…」


 寝ぼけた状態で少しだけ目が醒める。意識は、まだ完全には覚醒していない。


 徐々にぼやけた視界は時間共に明瞭になる。


「…いつもと違う天井だ。でも見覚えはある」


 自宅の天井とは異なっていた。自宅の天井はここまで真っ白では無かった。


 ゆっくりベッドから起き上がり、大貴は周囲を見渡す。周囲には既視感のある本棚や勉強机があった。


「は? 」


 思わず大貴から間抜けな声が漏れる。ガバッとベッドから立ち上がり、今身を置く部屋を歩き回る。


 床の感触も、部屋に設置される物も全て覚えている。なぜなら何度も見て使った経験があるから。


「もしかして。ここは俺の実家か? そんなバカな!! 」

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