最終話 望まぬ未来



 どれくらい気を失っていたのか。明るい気配に目を覚ます。

 右腕は痛くなかった。身動ぎをして、ゆっくりと目を開いた。

 いつもの部屋の天井だった。

 涙が溢れた。訳もなく泣けて仕方がない。しばらく涙の流れるのに任せた。








 部屋のドアがスッと開いて、白い軍服姿の男が一人入ってきた。

 背の高い偉丈夫。均整の取れた体躯。真ん中から分けた長い金色の髪は先が巻き毛で、碧い瞳がベッドの上に起き上がった藤崎を認める。

 無粋な軍服姿なのに、神話の世界にでも居そうな男が軍帽を取ると、後ろからついて来た側近が受け取ってドアの側に控えた。藤崎の近くに居た医療従事者が頭を下げて側近の横に控える。金髪の長い髪をサラリと揺らして、男は真っ直ぐに藤崎のベッドに近付いてくる。

「シーヴ……」

 ベッドの側に来て椅子に腰を下ろした。

「どうした。また、あの時の夢を見たのか」

 藤崎の頬に濡れる涙を優しく拭う。




 あの後、爆風を受けて藤崎は酷い火傷を負った。シーヴの船に収容されなかったら藤崎の命はなかっただろう。甲斐の車と一緒に粉々になった、藤崎のパソコンと同じ運命を辿っていた。

 やっと火傷の傷も癒えて痕はどこにも無い。


 あの時の攻撃はエイリアンのアジトに対するものではなく、彼らの船に対するものだった。シーヴは、彼らの宇宙船の位置を把握して破壊命令を出した。その上で単身、藤崎の救出に向かったのだ。

 船がアジトのすぐ側にあった為、アジトも巻き込まれた。


「俺を囮に利用したから、後で寝覚めが悪いと思って助けに来たのか」

「それもある」

 にっこり笑ってエイリアンは言う。

「怪我が治せないから、この船に乗せてくれているんだよな」

「それもある」

 まだ言い募ろうとする藤崎の唇をシーヴの唇が塞ぐ。


 地球はシーヴの手によって封鎖された。

 あのエイリアンは知的生命体の肉を喰らい、その身を乗っ取る。次々喰らい、喰らい尽くせば他の星に行く。彼らとそのほかの人間との見分けはつけがたい。星を封鎖し、エイリアンが星の人間を喰らい尽くして滅びるに任せる。


「まあ、彼らもそれを願っていた。見逃して欲しいというのは、そういう意味もあったようだ。あの星にはかなりの食料があるからな」

「彼らの食料――」

 藤崎の身体が震える。



 こんな結末が欲しかったわけじゃない。

 青い星が遠ざかる。

 藤崎はシーヴの胸に顔を埋めた。男の手がいつまでも藤崎の髪を優しく撫でる。




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