もうひとつの世界、いちばん静かな夏

平木明日香

走って行ける距離

第1話


 「でも、ほんとに来るかな?」


 「さあ、あの人のことはよくわからないから」


 「鈴ちゃん、ちゃんと謝ってね?」


 「なにを?」


 「さっきの通話」


 「謝る必要ないって」


 「相手は一応先輩なんだから」



 コンビニの駐車場で話をしていると、自転車に乗って彼が来た。


 デニムパーカーにスウェットのズボン。


 スニーカーにワイルドツーブロックの黒髪。


 この場所で待ち合わせをしてた。


 私たちが呼び出したんだ。


 ある“事件”の解明のために、東高の生徒である高杉賢士という男を。



 足は細かった。


 長くて、凛とした背筋。


 さすがサッカーをやってるだけあり、立ち姿がスリムで、ほどよく筋肉のついた男らしい体格をしてた。



 悠人先輩と違って、ただ背が高いだけじゃなかった。


 上から下まで清潔感があって、手入れが行き届いている。


 別に悠人先輩が不潔って言ってるわけじゃないよ?


 この場合で言う「清潔感」っていうのは、清涼感みたいなもの?かな。


 ニキビはひとつもないし、スニーカーが汚れてないから、やけに小綺麗なフォルムをしてるなぁって印象。



 ぱっと見の印象は、草食と肉食の間って感じ?


 ガツガツした見た目じゃないけど、外の外気に触れ、日の光をちゃんと浴びてる健康的な肌の色。


 おまけに3年だから、少し大人びて見える。


 「…ほんとに会いに行くん?」


 横山さんは私たちを見ながら、そう言った。


 籾岡さんは彼に歩み寄った。


 「由紀はほんとにいないの?」


 隣で同じように視線を向ける横山さん。


 それよりも、彼は気になっているようだった。


 さっき話した『内容』について、本当なのか?って。

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