Episode 003 新たな章は始まりを告げることなく。


 ――四季のない世界。白く広がる空間。まるで宇宙空間と喩えるべきなのか?



 されど、この敷地内は高い再現度。いや、まるでそのもの。何もかもが同じ。僕がいた学校……あさひおか中学校。恐る恐る見た表札までも同じ同じ……冬の寒さが過る。


 それはあくまで脳内のイメージ。


 もう肌で感じることはできない。この身体は、もうホログラフィックと同じ。残っているものは魂だけだから。そして実感することは、もう死んでいるということと、この先にあるものは、何もできないまま見せられる、縁する人たちの今現在。声を掛けることも触れることもできない、変えられない未来を。……悲痛な言葉たちが、残りゆく。


 僕が飛び降りたことで、初子先生も、家族の皆も……お父さんもお母さんも、妹二人も染みる悲しみ。心折れる程の大きな罪。その中で始まる教習生活……教習生活?


 ――旧校舎。


 木造感が残る教室。そこが教習の場所となった。


 そこは僕がかつていた場所だ。一年生の秋、初子先生とスタートした場所。僕の物語が始まった場所でもある。昭和五十四年九月二十一日、その日から始まった歴史。


 脳内に蘇る、その日の景色……


 僕は席に座っている。授業……とは言わずに教習が始まった。仲間たちも一緒だ。ここに集ったものは、僕と同じで皆が死人。様々な理由を抱えて集まっているのだ。


 人数は、僕を含めて五人。


 男子三人と女子二人の、たった一つのクラス。今この瞬間から、教習は始まった。


 果たして、何をするのか?


 議題もなく誰もが初対面という状況。そして、教習を進行する先生もいないのだ。五人が五人とも自分の席に着いたっきり何も……どうしたら良いのかわからないまま、じっと静寂の中で言葉も交わさず、自己紹介という発想もないまま、長いのか短いのか、その基準さえも見つからないまま、待つだけとなっている。誰かが話しかけてくることを。



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