Episode 002 消えない記憶は、まだ終わらない話。


 ――脳で感じる痛み。心の痛み。身体の痛みは消えても、消えない心の痛み。



 喩え、その内容や理由などは消えても……


 凍える程に、冷たかった水道水。血の錆びたような臭い。断片的に白く散った火花のような衝撃。身を守るものがないという恐怖も忍ばせながら。それが前日のこと。


 そして、屋上から飛び降りたという現実を、目の当たりにした。


 映し出される現実ビジョン……僕はもう死んでいた。


 その光景は、表現できるものではなかった。目を背けるも、悲痛な泣き声……心に迫る初子はつこ先生の、僕の名を呼ぶ「旧号きゅうごう」との叫び。旧号とは、あの特撮ヒーローの旧一号から取っている。初子先生は、大の特撮ヒーローのファンだったから。もう一つは、球団のタイガースのファン。どれも全力投球。そんな熱血先生だった。とても素敵な先生だ。


 僕の名前が旧一もとかずだから、それに引っ掛けて旧号と……人生初のニックネームだった。


 僕は今、目の前に現れた学校の敷地内にいる。


 そこはもう校舎の中だ。大きな画面がそこにあった。一番初めに目にするように仕掛けられている、そんな仕組。それは、僕が自殺したから。その罪ということ……

『その通りじゃ』と、脳に直接聞こえるボイス。振り向き振り返る、見渡す周囲。僕以外に誰も『無駄じゃよ、そこに私の姿はないから』と、またも聞こえてくる……


「これって、地獄ということ?」


『まあ、そう思うなら。痛みもなく触られることもない。誰からも攻撃されない、そんな場所だ、ここは。時間の流れのない空間。されど現実から目を背けることはできない』


「どういう意味?」


『頭のいい君のことだからすぐにわかると思うが、ヒントはその大画面。そしてここは教習所というべきかな。自ら命を絶ったという罪に対しての。永遠の講習となるか……』

 と、そこで途切れた。年配の男性の声だった。


 地に足が着かない感覚は、ここに来てからずっと。無重力のような感覚が続いている。



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