籠城戦

 校舎に飛び込んだ二人を迎えたのは、頭を丸めた迷彩服の男たちと、それを相手に暴れる生徒だった。3年の誰だったか、結衣子には名前までは分からない。


「伊賀崎! 先に先生を安全な場所へ!」


 敵の突きをかわしながら、その生徒が叫んだ。前回の襲撃者ははっきりと軍人だったが、今回の相手は銃の他に槍や刀が混じっている。迷彩服を着た僧兵とでも言った出立だ。


「任せた!」


 僧兵と3年生をあとに、淳弥は結衣子を抱いたまま駆けて行く。




 目指すは校長室。敵の武装からして火器類は豊富ではない。刀槍ならば一番の使い手の元で守られるのが良いと判断した。


 校長室前にも敵の手は及んでいた。早い。内通者の手際がいい。


「雷光め、どれだけ根回しをしたのか」


 悔やんでも仕方がないと分かってはいる。後悔は贅沢だ。今は捨てる。


 校長室の前には三船が居た。都合がいい。


「三船! 先生を通すぞ!」


「お任せあれ!」


 答えた三船は、校長室へ押し寄せる僧兵を槍の一振りで薙ぎ倒した。致命ではないが、これで通れる。


「先生、飛びます! しっかりつかまってください!」


「え、え」


 言われるがまま、淳弥に抱きつく。駆けつける勢いのまま跳び、倒れている僧兵を越えて校長室前へ着地した。


 校長室のドアを開け、中へ入る。


「じいさま、先生をお連れしました」


「いいぞ、坊! ここは任せて暴れてこい!」


「有り難し!」


 結衣子を降ろして飛び出していく。


「あ、え、気を付けてくださいね!」


 かける言葉が思いつかず、場にそぐわぬ送り出しをしてしまった。扉が閉まる寸前に淳弥の不敵な微笑みが見えた。

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