子供達と神々の神楽 ～赤の章～

動く月

【午（ご）後（ご）４時（じ）少（すこ）し過（すぎ）　境（きょう）群（ぐん）市（し） 巻（まき）機（はた）山（やま）診（しん）療（りょう）所（じょ）前（まえ）】

「おっ母（かあ）、ありがとう」

「帰（かえ）りは、此方（こちら）が送（おく）っていきますので」

「澪（みお）お母（かあ）さん、ありがとう」

　澪（みお）、薫（かおる）、刻（とき）代（よ）がそう言（い）うと、澪（みお）の母（はは）親（おや）は茶（ちゃ）色（いろ）い軽（けい）ワゴンに乗（の）って家（いえ）に帰（かえ）って行（い）った。

澪（みお）が診（しん）療（りょう）所（じょ）を見（み）詰（つ）めて居（い）るので、薫（かおる）は不（ふ）思（し）議（ぎ）に思（おも）い、澪（みお）に質（しつ）問（もん）をする。

「どうかしました？」

「緊（きん）張（ちょう）する……」

　そう返（へん）事（じ）を返（かえ）した澪（みお）に、刻（とき）代（よ）が呆（あき）れて言（い）う。

「病（びょう）院（いん）に来（き）た訳（わけ）じゃないんだから」

　すると澪（みお）は首（くび）を横（よこ）に振（ふ）り、言（い）い返（かえ）す。

「病（びょう）院（いん）は慣（な）れてるから大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）。そう言（い）う事（こと）じゃなくて、知（し）らない人（ひと）に会（あ）うのが緊（きん）張（ちょう）する……」

　澪（みお）のその返（へん）事（じ）に、刻（とき）代（よ）は更（さら）に呆（あき）れて言（い）う。

「緊（きん）張（ちょう）って、アンタねぇ。会（あ）うのは薫（かおる）の従兄妹（いとこ）よ」

「ですが初（しょ）対（たい）面（めん）ですし、天（あま）池（いけ）君（くん）は元（もと）々（もと）人（ひと）付（づ）き合（あ）いが得（とく）意（い）なタイプでは有（あ）りません。私（わたし）が連（つ）れて来（き）たのですから、余（あま）り怒（おこ）らないであげて下（くだ）さい」

　薫（かおる）がそうフォローをしてくれるが、刻（とき）代（よ）は首（くび）を横（よこ）に振（ふ）り澪（みお）に言（い）う。

「もう少（すこ）しシャキとなさい、そんなんじゃ碌（ろく）な大人（おとな）にならないわよ！」

「碌（ろく）な大人（おとな）って何（なに）？」

　澪（みお）にそう返（かえ）され、刻（とき）代（よ）は悩（なや）み黙（だま）り込（こ）む。

（……　……　……）

　そんな二（ふ）人（たり）を見（み）て、薫（かおる）が刻（とき）代（よ）に言（い）う。

「伏（ふし）見（み）さん、天（あま）池（いけ）君（くん）に以（い）外（がい）に厳（きび）しいんですね。私（わたし）はもう少（すこ）し甘（あま）い感（かん）じかと思（おも）ってました」

　薫（かおる）の言（こと）葉（ば）に、刻（とき）代（よ）は本（ほん）気（き）で少（すこ）し怒（おこ）りっぽく言（い）い返（かえ）す。

「如何（どう）言（い）う事（こと）よ、私（わたし）は澪（みお）の保（ほ）護（ご）者（しゃ）じゃないわよ」

「何（なん）だよ！」

　更（さら）に刻（とき）代（よ）の言（こと）葉（ば）に澪（みお）が怒（おこ）ってそう返（かえ）し、二（ふた）人（り）は互（たが）いにそっぽを向（む）いてしまう。

　二（ふ）人（たり）の雰（ふん）囲（い）気（き）に薫（かおる）は慌（あわ）てて言（い）う。

「私（わたし）が言（い）うのも変（へん）ですが、従兄妹（いとこ）が心（しん）配（ぱい）しますので、二（ふた）人（り）共（とも）ケンカは止（や）めて下（くだ）さい。こっちです」

　そう言（い）った後（あと）、薫（かおる）は診（しん）療（りょう）所（じょ）の駐（ちゅう）車（しゃ）場（じょう）から、診（しん）療（りょう）所（じょ）の裏（うら）手（て）に有（あ）る巻（まき）機（はた）山（やま）家（け）の玄（げん）関（かん）まで二（ふ）人（たり）を案（あん）内（ない）した。

　　ピーン　ポーン

「すみません、薫（かおる）です」

　インターホンを鳴（な）らした薫（かおる）が、インターホン越（ご）しにそう言（い）うと玄（げん）関（かん）のドアが開（あ）く。

　　ガチャン

「いらっしゃい薫（かおる）君（くん）、それと……」

　出（で）迎（むか）えた緋（ひ）衣（い）は、互（たが）いにそっぽを向（む）いている澪（みお）と刻（とき）代（よ）を見（み）て、薫（かおる）に尋（たず）ねる。

「薫（かおる）君（くん）、二（ふた）人（り）はどうしたんです？」

「実（じつ）は先（さき）程（ほど）、私（わたし）の所為（せい）でケンカしてしまいまして……」

「何（なに）やってるんです、貴方（あなた）は……」

　呆（あき）れて薫（かおる）にそう言（い）う緋（ひ）衣（い）に、刻（とき）代（よ）は笑（え）顔（がお）を作（つく）り言（い）う。

「始（はじ）めまして。宮（みや）本（もと）君（くん）は悪（わる）くないわよ、澪（みお）が意（い）気（く）地（じ）の無（な）いのが悪（わる）いんだし」

　刻（とき）代（よ）にそう言（い）われた澪（みお）は、あからさまに機（き）嫌（げん）の悪（わる）い顔（かお）をしていた。

（まぁ怒（おこ）って返（かえ）したって事（こと）は、駄（だ）目（め）だと言（い）う自（じ）覚（かく）は有（あ）るのよねこの子（こ）……）

　そんな事（こと）を考（かんが）えている刻（とき）代（よ）の顔（かお）に、澪（みお）は一（いっ）端（たん）目（め）を向（む）けてから少（すこ）し考（かんが）え、緋（ひ）衣（い）に挨（あい）拶（さつ）をする。

「……ごめん下（くだ）さい」

　澪（みお）のこの行（こう）動（どう）に緋（ひ）衣（い）はクスクス笑（わら）い、薫（かおる）と刻（とき）代（よ）は緋（ひ）衣（い）のクスクス笑（わら）いを不（ふ）思（し）議（ぎ）に思（おも）う。

「えっと……いらっしゃい。とにかく家（いえ）に入（はい）って下（くだ）さい」

　緋（ひ）衣（い）がそう言（い）うと、三（さん）人（にん）は靴（くつ）を脱（ぬ）ぎ巻（まき）機（はた）山（やま）家（け）の玄（げん）関（かん）に上（あ）がる。

「「おじゃまします」」

　薫（かおる）と刻（とき）代（よ）がそう挨（あい）拶（さつ）をしながら、三（さん）人（にん）は緋（ひ）衣（い）に案（あん）内（ない）されリビングに向（む）かう。

　リビングに到（とう）着（ちゃく）すると、了（りょう）と百合香（ゆりか）がスーパーファミコンをして居（い）た。

　澪（みお）と刻（とき）代（よ）に気（き）付（づ）いた了（りょう）と百合香（ゆりか）は、ゲームにポーズを掛（か）けて、二（ふた）人（り）の方（ほう）を向（む）いて挨（あい）拶（さつ）をする。

「よう、いらっしゃい」

「始（はじ）めまして」

　二（ふ）人（たり）の挨（あい）拶（さつ）に対（たい）して、刻（とき）代（よ）は笑（え）顔（がお）で挨（あい）拶（さつ）を返（かえ）すが、澪（みお）は無（む）言（ごん）で頷（うなず）く。

「始（はじ）めまして」

　刻（とき）代（よ）の挨（あい）拶（さつ）が終（お）わると、澪（みお）の行（こう）動（どう）が気（き）に要（い）らなかった了（りょう）が澪（みお）に言（い）う。

「おいチビ。人（ひと）ん家（ち）に来（き）たんだから、もう少（すこ）しキチンと挨（あい）拶（さつ）をしろ」

「ゴメン……」

　澪（みお）が謝（あやま）ると、百合香（ゆりか）が続（つづ）ける。

「お兄（にい）ちゃん。初（しょ）対（たい）面（めん）のちっちゃい子（こ）に、そんな事（こと）言（い）わなくても……」

　勘（かん）違（ちが）いをしている百合香（ゆりか）に、薫（かおる）が説（せつ）明（めい）をする。

「違（ちが）います百合香（ゆりか）さん。天（あま）池（いけ）君（くん）は、私（わたし）の同（どう）級（きゅう）生（せい）です」

　それを聞（き）いた百合香（ゆりか）は澪（みお）に頭（あたま）を下（さ）げ、了（りょう）は驚（おどろ）き言（い）う。

「ゴメンなさい！」

「マジかよ……」

「いいよ、慣（な）れてるし」

　澪（みお）がそう言（い）うと百合香（ゆりか）は頭（あたま）を上（あ）げ、今（こん）度（ど）は刻（とき）代（よ）が話（はな）しを続（つづ）ける。

「二（ふ）人（たり）共（とも）、悪（わる）いけど私（わたし）の髪（かみ）如何（どう）思（おも）う。地（じ）毛（げ）なんだけど、コソコソ言（い）われるの嫌（きら）いなのよ」

　そう言われた了（りょう）は少（すこ）し考（かんが）えてから、返（へん）事（じ）を返（かえ）す。

「そんなモン気（き）にすんのは女（おんな）連（れん）中（ちゅう）か、お前（まえ）の事（こと）好（す）きな奴（やつ）だけだろう」

「了（りょう）！」

「お兄（にい）ちゃん！」

　了（りょう）の言（こと）葉（ば）に緋（ひ）衣（い）と百合香（ゆりか）が怒（おこ）ると、了（りょう）は少（すこ）しムッとする。

　そして、それを見（み）た刻（とき）代（よ）はクスクス笑（わら）う。

「何（なん）だよ！」

　刻（とき）代（よ）に笑（わら）われ文（もん）句（く）を言（い）った了（りょう）に、刻（とき）代（よ）は微（ほほ）笑（え）みながら謝（あやま）る。

「ゴメンなさい」

　そして刻（とき）代（よ）は思（おも）う。

（この子（こ）達（たち）と同（おな）じ様（よう）な会（かい）話（わ）が、何（なん）で私（わたし）達（たち）兄妹（きょうだい）は出（で）来（き）ないのかしらねぇ……）

　姉（あね）と弟（おとうと）の事（こと）を思（おも）い浮（う）かべながら、刻（とき）代（よ）がそんな事（こと）を考（かんが）えていると、緋（ひ）衣（い）が刻（とき）代（よ）と澪（みお）に言（い）う。

「すみませんが、私（わたし）は皆（みんな）の飲（の）み物（もの）の用（よう）意（い）をしてきます。少（すこ）し待（ま）って居（い）て下（くだ）さい」

「それなら私（わたし）も手（て）伝（つだ）います。了（りょう）君（くん）と百合香（ゆりか）さんは、暫（しばら）く二（ふ）人（たり）の相（あい）手（て）をお願（ねが）いします」

　薫（かおる）がそう続（つづ）けて言（い）うと、薫（かおる）と緋（ひ）衣（い）は台（だい）所（どころ）へ向（む）かった。

　台（だい）所（どころ）に着（つ）いた二（ふた）人（り）は、誰（だれ）も台（だい）所（どころ）に向（む）かって来（こ）ない事（こと）を確（かく）認（にん）し、薫（かおる）がオモイカネを小（こ）声（ごえ）で呼（よ）ぶ。

「オモイカネ、出（で）て来（き）て下（くだ）さい」

　呼（よ）ばれたオモイカネは姿（すがた）を現（あら）わすと、小（こ）声（ごえ）で言（い）う。

「二（ふ）人（たり）共（とも）、御（ご）苦（く）労（ろう）。緋（ひ）衣（い）、君（きみ）はあの二（ふた）人（り）を如何（どう）思（おも）う？」

「さっき会（あ）ったばかりなので分（わ）かりません。本（ほん）当（とう）にあの子（こ）達（たち）は敵（てき）なのですか？」

　小（こ）声（ごえ）でそう言（い）い返（かえ）す緋（ひ）衣（い）に、オモイカネも少（すこ）し悩（なや）んで小（こ）声（ごえ）で言（い）い返（かえ）す。

「それは私（わたし）も判（わか）らん。第（だい）一（いち）、今（いま）の私（わたし）にはスセリに協（きょう）力（りょく）するしか方（ほう）法（ほう）はない……」

　そう言（い）った後（あと）、オモイカネは考（かんが）える。

（スセリは虚（こ）蝶（ちょう）を敵（てき）だと決（き）め付（つ）けている節（ふし）が有（あ）る。だが子（こ）供（ども）達（たち）の話（はな）しを聞（き）く限（かぎ）り、子（こ）供（ども）達（たち）は虚（こ）蝶（ちょう）を敵（てき）とは認（にん）識（しき）してはいないし、私（わたし）もあの子（こ）が敵（てき）だとは思（おも）えない。虚（こ）蝶（ちょう）が我（われ）々（われ）を欺（あざむ）いているのか、それとも……）

　一（いっ）方（ぽう）リビングでは、刻（とき）代（よ）が今（いま）の状（じょう）況（きょう）を考（かんが）えていた。

（向（む）こうからオモイカネの気（け）気配（はい）を感（かん）じる……　と言（い）う事（こと）は、二（ふた）人（り）が私（わたし）達（たち）から離（はな）れたのはオモイカネと何（なに）か相（そう）談（だん）する為（ため）か。風（かぜ）丸（まる）と鬼（おに）丸（まる）は、風（かぜ）丸（まる）……小（こ）太（た）郎（ろう）の友（とも）達（だち）と家（いえ）に居（い）る事（こと）は確（かく）認（にん）してる。つまり東（とう）京（きょう）に行（い）っているのはスセリと天（てん）狗（ぐ）丸（まる）と言（い）う事（こと）。遊（あそ）びに私（わたし）も誘（さそ）ったと言（い）う事（こと）は、私（わたし）も疑（うたが）われているのでしょうね。偽（いつわ）りがバレたとは思（おも）わないけど、東（とう）京（きょう）に風（かぜ）丸（まる）が居（い）無（な）いので有（あ）れば、此方（こちら）から手（て）は打（う）たせてもらうわよ）

　刻（とき）代（よ）は、ゲームを澪（みお）に変（か）わった百合香（ゆりか）に小（こ）声（ごえ）で尋（たず）ねる。

「ねぇ百合香（ゆりか）ちゃん、ちょっとトイレ貸（か）してくれないかしら？」

「それなら階（かい）段（だん）の近（ちか）くです」

　百合香（ゆりか）は小（こ）声（ごえ）でそう返（かえ）し、刻（とき）代（よ）は小（こ）声（ごえ）でお礼（れい）を言（い）う。

「ありがとう」

　リビングを出（で）てトイレに向（む）かう刻（とき）代（よ）に、了（りょう）はゲームにポーズを掛（か）けて尋（たず）ねる。

「何処（どこ）行（い）くんだ？」

「お兄（にい）ちゃん、こう言（い）う時（とき）は聞（き）かないのがエチケットよ」

　妹（いもうと）に怒（おこ）られ、了（りょう）はムッとしてゲームに戻（もど）った。

　了（りょう）の声（こえ）で、刻（とき）代（よ）の行（こう）動（どう）に気（き）が付（つ）いた緋（ひ）衣（い）が刻（とき）代（よ）の様（よう）子（す）を確（かく）認（にん）すると、刻（とき）代（よ）はトイレに入（はい）って行（い）く。

　　ガシャ　

　　　キウゥゥ　ガチャン

　トイレに入（はい）った刻（とき）代（よ）は、扉（とびら）を閉（し）めて小（こ）声（ごえ）で呪（じゅ）文（もん）を唱（とな）える。

「人（ひと）が生（う）みし時（とき）の法（ほう）よ。我（われ）は人（ひと）が汝（なんじ）の姿（すがた）を移（うつ）し賜（たま）った者（もの）。故（ゆえ）、我（われ）汝（なんじ）操（あやつ）り足（た）るモノと知（し）れ。アドウェルサス、テンプス、フォギィトゥ」

　すると世（せ）界（かい）の時（とき）は止（と）まり、周（まわ）りが真（ま）っ暗（くら）に成（な）った。

「さてっと……」

　刻（とき）代（よ）は澪（みお）の真（ま）横（よこ）にワープすると、 澪（みお）に呪（じゅ）文（もん）を掛（か）ける。

「時（とき）の法（ほう）よ、我（わ）が神籬（ひもろぎ）を汝（なんじ）の理（ことわり）から解（かい）放（ほう）せよ！」

　すると澪（みお）の体（からだ）が行（い）き成（な）り光（ひか）だし、澪（みお）は止（と）まった時（とき）の中（なか）で動（うご）ける様（よう）に成（な）った。

　突（とつ）然（ぜん）の事（こと）で驚（おどろ）いている澪（みお）に、刻（とき）代（よ）が言（い）う。

「驚（おどろ）いた、澪（みお）？」

「コレ、どう成（な）ってるの？」

「私（わたし）が時（じ）間（かん）を止（と）めたのよ。多（た）用（よう）すると疲（つか）れるから、余（あま）りやりたくは無（な）いんだけど……　詳（くわ）しくは後（あと）で説（せつ）明（めい）するとして、スセリの所（ところ）に行（い）くわよ」

「それは分（わ）かったけど、姿（すがた）消（け）したらバレない？　時（とき）は元（もと）に戻（もど）すんだよね？」

「それなら、問（もん）題（だい）無（な）いわ」

　そう言（い）った刻（とき）代（よ）の胸（むね）の前（まえ）に、白（しろ）く半（はん）透（とう）明（めい）な小（ちい）さな鏡（かがみ）が現（あら）われる。

「これは思（し）鍍（と）輝（き）浄（じょう）玻璃（はり）鏡（のかがみ）。映（うつ）し触（ふ）れたモノを写（うつ）し取（と）り、形（かたち）とする私（わたし）の持（も）つ呪（じゅ）物（ぶつ）。これがあれば私（わたし）達（たち）の身（み）代（が）わりわりを生（う）み出（だ）す事（こと）が出（で）来（き）る、触（さわ）っみて」

　刻（とき）代（よ）にそう言（い）われ、澪（みお）が思（し）鍍（と）輝（き）浄（じょう）玻璃（はり）鏡（のかがみ）に触（ふ）れると、鏡（かがみ）は白（しろ）く光（ひか）った後（あと）、澪（みお）の姿（すがた）へと変（か）わり澪（みお）は無（む）言（ごん）で踊（おど）ろいた。

　その様（よう）子（す）をクスクス笑（わら）いながら見（み）終（お）わった刻（とき）代（よ）は、思（し）鍍（と）輝（き）浄（じょう）玻璃（はり）鏡（のかがみ）をもう一（いち）枚（まい）出（しゅつ）現（げん）させ、自（みずか）らの身（み）代（が）わりを作（つく）る。

「その鏡（かがみ）、いっぱい有（あ）るの？」

不（ふ）思（し）議（ぎ）に思（おも）いそう聞（き）いた澪（みお）に、刻（とき）代（よ）は言（い）う。

「私（わたし）の力（ちから）には回（かい）数（すう）制（せい）限（げん）が有（あ）るのよ、ワープとかでは大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）なんだけど……　そんな事（こと）より行（い）きましょうか、貴方（あなた）達（たち）も宜（よろ）しくね」

　そう言（い）われた身（み）代（が）わりの一（いっ）体（たい）は、澪（みお）の元（もと）居（い）た位（い）置（ち）に、同（おな）じ格（かっ）好（こう）でスタンバイし、もう一（いっ）体（たい）はトイレにワープする。

「澪（みお）、変（へん）身（しん）を」

　刻（とき）代（よ）に促（うなが）され、澪（みお）はポケットからキーホルダーを取（と）り出（だ）し、呪（じゅ）文（もん）を言（い）う。

「トゥ、エゴゥ、インヴァラスウス、ルクス」

　★★★★

【午（ご）後（ご）４時（じ）半（はん）過（すぎ）　東（とう）京（きょう）都（と） 新（しん）宿（じゅく）】

「おい公（きみ）威（たけ）、大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）か？」

　葉（よう）司（じ）達（たち）七（しち）人（にん）は話（はな）し合（あ）いの末（すえ）、行（い）きは休（やす）みながら歩（ある）きでアルタまで行（い）く事（こと）に成（な）った。

　その理（り）由（ゆう）は、公（きみ）威（たけ）の体（たい）力（りょく）作（つく）りの為（ため）。

　因（ちな）みに移（い）動（どう）距（きょ）離（り）は大（だい）体（たい）８㎞ぐらい。

　休（やす）み休（やす）み、公（きみ）威（たけ）が梓（あずさ）から貰（もら）った一（いち）万（まん）円（えん）で飲（の）み食（く）いをしながらで、所（しょ）用（よう）時（じ）間（かん）は大（おお）よそ２時（じ）間（かん）半（はん）。

　その話（はな）し合（あ）いで公（きみ）威（たけ）が葉（よう）司（じ）達（たち）に自（じ）分（ぶん）の歳（とし）を隠（かく）していた事（こと）や、体（たい）力（りょく）を付（つ）けたい事（こと）が修（しゅう）治（じ）や仁（じん）にバレてしまい怒（おこ）っていた……

　が、新（しん）宿（じゅく）に着（つ）く頃（ころ）には、公（きみ）威（たけ）は怒（おこ）る元（げん）気（き）は無（な）くなって……と言（い）うよりは、死（し）にそうに成（な）っていると言（い）った方（ほう）が言（い）い状（じょう）況（きょう）に成（な）っていた。

　公（きみ）威（たけ）とは対（たい）像（しょう）的（てき）に、葉（よう）司（じ）と仁（じん）は体（たい）力（りょく）に余（よ）裕（ゆう）が有（あ）り、北（ほく）斗（と）と太（たい）耀（よう）は少（すこ）し疲（つか）れを見（み）せていて、恵（え）理（り）花（か）と修（しゅう）治（じ）は普（ふ）通（つう）に疲（つか）れを見（み）せていた。

　新（しん）宿（じゅく）駅（えき）近（ちか）くで、マクドナルドを見（み）付（つ）けた葉（よう）司（じ）が言（い）う。

「そう言（い）やぁお前（まえ）等（ら）、マックって入（はい）った事（こと）ある？　テレビでは見（み）た事（こと）有（あ）るんだけど、俺（おれ）ん家（ち）の近（ちか）くには無（な）くてさぁ」

「それなら入（はい）ってみる。ぼ……俺（おれ）がおごるから……」

　公（きみ）威（たけ）は少（すこ）し座（すわ）りたい為（ため）そう言（い）うと、葉（よう）司（じ）が嬉（うれ）しそうに言（い）い返（かえ）す。

「よっしゃ、マジかよ。そんじゃ……」

　喜（よろこ）んでいる葉（よう）司（じ）に、太（たい）耀（よう）と恵（え）理（り）花（か）が怒（ど）鳴（な）る。

「「葉（よう）司（じ）！」」

「何（なん）だよ」

　驚（おどろ）く葉（よう）司（じ）に太（たい）耀（よう）が言（い）う。

「集（たか）ろうとするんじゃない！」

「そうよ、みっとも無（な）い！」

　続（つづ）けて恵（え）理（り）花（か）にそう言（い）われた葉（よう）司（じ）は、ムッとして言（い）い返（かえ）す。

「そう言（い）うつもりで言（い）ったんじゃねぇよ！」

　ケンカを始（はじ）めそうな葉（よう）司（じ）と、太（たい）耀（よう）、恵（え）理（り）花（か）に北（ほく）斗（と）が止（と）めに入（はい）る。

「三（さん）人（にん）共（とも）、道（みち）歩（ある）きながらケンカは止（や）めようよ……」

　そんな四（よ）人（にん）を見（み）ていた修（しゅう）治（じ）は、公（きみ）威（たけ）に笑（え）顔（がお）で言（い）う。

「ほら。お前（まえ）の所為（せい）でああ成（な）ったんだから、止（と）めなくていいのか？」

　そう言（い）われた公（きみ）威（たけ）は、修（しゅう）治（じ）を軽（かる）く睨（にら）み付（つ）けて思（おも）う。

（お前（まえ）が言（い）うな、クソ……）

　公（きみ）威（たけ）は葉（よう）司（じ）達（たち）に視（し）線（せん）を移（うつ）し、四（よ）人（にん）に話（はな）し掛（か）ける。

「俺（おれ）も入（はい）ってみたかったんだ、だから葉（よう）司（じ）君（くん）を怒（おこ）らないで……」

　更（さら）に本（ほん）心（しん）を四（よ）人（にん）に向（む）かって言（い）う。

「それと、少（すこ）し休（きゅう）憩（けい）させて。」

　仁（じん）はそんな公（きみ）威（たけ）に、心（しん）配（ぱい）そうに聞（き）く。

「おい、本（ほん）当（とう）に大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）か公（きみ）威（たけ）？」

　すると、公（きみ）威（たけ）は力（ちから）無（な）く返（へん）事（じ）を返（かえ）す。

「どうにか……」