第13話 フードデリバリー

 ナローアレイのブリッジでは、てん達とウィンネスを探しに来たシンデン達とで談笑が始まってた。


「そうだな。だからスターマイスもドッグファイトが無かったらやってなかったかもしれねえな」


「こいつ、フライトシュー馬鹿だからなぁ。コンバットフィールドシリーズでも戦闘機の湧き待ちずっとして歩兵戦しないし」


「ああ?ありゃそういうゲームだろうが」


「あはは、違うと思う」


 シンデンは戦闘機を操作するゲームにご執心らしく、昔からそういった要素のあるタイトルを渡り歩いてきた模様。

 フライトシューティング有名タイトルのエースパイロットシリーズはもちろん、空戦要素があるなら何でも手を出して出来が良ければやり込んでトップを目指す。かなり強力なパイロット適正を持っているそうだが、経歴からすれば納得である。先の戦闘でもその腕前は存分に発揮されていた。


「昔から配信してたの?」


 おやつがわくわくした顔で尋ねる。


「いや、配信はガンバがやらねえかってな。それまでは普通に遊んでただけだ」


「俺とシンデンはもともとフレンドとして一緒にゲームやってた仲なんだけどさ、こいつ昔からめちゃくちゃ強えしプレイヤーとして結構有名だったから配信したらみんな見に来るんじゃないかと思ってさ」


「あ、それ僕も!友達が配信やれやれーってすっごい押してきて」


 てんも友人の勧めでVtuberを初めたので、シンパシーを感じてしまう。


「へぇ~、マシカクさんはいつから一緒なの?」


 側で腕組しながら立っているマシカクにおやつが振る。


「俺は初絡みがここに来てからだよ。君らと一緒、この前まで話したこと無かったね」


「え! 意外! 歴戦のチーム感出てるのに!」


 おやつは大げさに驚く。実際は大げさではなく素なのだが、リアクションがオーバー気味だ。


「まぁシンデンの事は知ってはいたけどね。プレイしてるゲームジャンルが同じだったから対戦相手として記憶に残ってるよ」


 苦笑いしながら答えるマシカク。対戦の記憶はあまりいい思い出ではないのかもしれない。


「今は仲間さ。実際いいチームだったと思うぜ。なぁシンデン! 今回の俺は何点だったよ?」


「ああ? エンバランスド助けんのに時間かけ過ぎだ。いいとこ60点てとこだな」


「助けただろうが! 低すぎだろ!」


 自己採点と大幅に差異があったのだろう。点数を告げられたガンバは不服そうな表情だ。


「マシカクが援護に行ってから、な? その分俺が死にかけた」


 シンデンとしては軽い気持ちの一言である。だがその言葉は付きまとう戦場の死の予感を皆に思い出させ、和気藹々としていた周囲の空気を変えてしまった。


「……すまなかった」


 ガンバは自身が任された仕事をこなせず、その結果友人の命を危険に晒した上に死まで覚悟させてしまったという自責の念にかられる。表情からも心中が伺えるほど曇っていく。


「おいマジで捉えるな。そんなつもりで言ってねえ」


「いや、実際その通りだよな。俺、お前を死なせるとこだったん——」


「やめろ」


 シンデンが遮る。


「ウィンネスが持ちこたえろって言った時、逃げずに俺についてきてくれただろうが。その時点でこっちは命救われてるようなもんなんだ。

 マシカクも、二人が来てくれてなかったら俺はすぐに死んでたしだれも助けられなかったはずだ。感謝してる。……変なこと言って悪かった」


 マシカクはサムズアップでそれに応え、ガンバも無言で頷く。


「ウィンネスが、持ちこたえろって言った?」


 てんがシンデンの言葉に反応する。


「ああそうだが?」


「僕たちも、急いで合流地点に向かえ、みたいなことを言われた」


 それを聞いて、シンデンはあのタイミングの良さに合点がいった。


「なんだよ、できねえ言えねえみたいなことばっか言うくせにやっぱ助けてくれてるじゃねえかあいつ」


 噛みしめるように笑う。


「ほんとに、なんだかんだで頼りになるね」


 てんもつられてふふっと笑ってしまう。


「じゃあ俺たちのウィンネスに乾杯ってことで」


 マシカクがニッと笑いながらエア祝杯をあげようとすると、彼の手元が光り始める。


「……お?」


 何が起きているのかと、本人はそのポーズのまま手元を見つめる。皆も一斉に注視している。

光が一際強くなったかとおもうとパッと弾け、そこに銀色の円筒形の物体が現れる。マシカクは手の中に現れたその物体を落とさないように掴み取る。

 てんに馴染みはないが、普段よく目にする物体ではあった。


「……ん、ああ……スゥゥウパアァアアドゥ——」

「うるせえ」


 マシカクが最後まで言う前にシンデンはチョップを入れて止める。そのついでに、手の中のものも奪い取ってそれがなんなのかを確かめる。


「缶ビールじゃねえか。どうやった?」


「いや、俺にも何がなんだか」


 てんはハッとして、自分のところにも現れた例の炭酸水のボトルを取り出して見せる。


「あの、僕のところにもこれが!」


「これは……ペットボトルだな……」


 シンデンは空のボトルを受け取って、裏返したり傾けたりしながらそれを改める。


「これ、中身は?」


「あ、ええと、飲んじゃった……」


 てんは少しバツが悪そうに答える。大丈夫なのか良くわからないものを飲み干してしまった軽率さもそうだが、飲んだとしてもある程度残しておけば何か調べられたのかもしれない。


「……普通に飲めたのか?」


「うん」


 シンデンはてんの顔をじっくり見た後、ボトルを返してビール缶を吟味する。外観、表記ともによく知っているものと一致している。


「キンキン……よく冷えてる」


 缶の表面には水滴が浮いている。傾けると中身がちゃんと液体であることが感覚的にわかる。


「……」


 無言でプルタブに指をかけ開栓する。プシッという炭酸の抜ける音が響くのを、周囲の人間が見守っている。


「…………」


 無言で口元に運んで缶を大きく傾ける。喉をゴクッゴクッと鳴らしながらシンデンは中身を自身の体内にどんどん取り込んでいく。


「ふぅーーーッ……」


 しばらくした後、大きく息を吐いて缶を口から離す。それをそのままマシカクに渡す。


「飲んでも大丈夫なヤツだ」


「いや、空じゃねえか!」


 空き缶を渡されたマシカクは声を荒げ、それを叩きつけようと振り下ろす。すると床に当たる直前に缶がピタリと止まった。


「ゴミを捨てるのは感心しないわね」


「ウィンネス!」


 いつの間にかウィンネスが近くに現れていた。


「ああ!探してたんだぜ!聞きたい事が——」

「待ちなさい」


 シンデンを制止し、全体通信を開く。


「次の神命が下ったわ。まずそれを聞いて頂戴」

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