第11話 フェローシップ

「ひとまずは僕の艦に着艦してください」


『了解だ。助かったぜ。』


 戦闘は終結した。あの後、ロストコーズとインディサイシブが合流し敵艦を共同撃破。残るタコの頭は足を切り離した時点で戦闘能力をほとんど喪失していたのか集中攻撃で簡単に沈む。

 不気味さに似合わぬあっけない幕引き。撤退もせず何故残っていたのか不明なのが釈然としないが、勝ちは勝ちだ。


「デルさん、パイロットの人達が格納庫からブリッジまで迷わないよう、誰かに案内をしてくれるように連絡してもらってもいいですか?」


「手配してあります。ご心配なく」


 仕事が早い。まだこの世界に来たばかりのてんにとっては頼もしい限りである。

てんは安心すると、オペレーターが上げてくる各艦との通信や共有データ、交戦で得た敵の情報、現在の宙域の状況などを確認する。


「わたし……なんにもしてないね」


 側でおやつがしょんぼりしている。実際、まだ彼女にはポジションなどが振り分けられていないため

乗っているだけ、という状態になってしまっている。


「仕方ないよ。まだわかんないことだらけだし」


「でもさ——」


『てんちゃん、おつかれ……』


 おやつの声に被るように、せりなから通信が入る。その声や表情からは明らかな疲労が見て取れる。


「おつかれさまでした。皆さん無事で、何よりでした」


『うん。あ、私は合流した艦の人と話すから、てんちゃんはパイロットの人達の対応お願いするね』


「はい。任せてください!」


 なるべく元気な声と笑顔で返す。すると、ディスプレイに映るせりなの顔もわずかに綻んだ。

通信を終えると、ウィンネスが現れたのが見えた。


「ウィンネスちゃん」


 おやつが声をかける。


「私、どうしたらいいんだろ、何ができるのかな?」


「……」


 漠然とした問にウィンネスは一瞬考えるように間をおいてから答える。


「私が答えられるのは仕組みだったり、ルール的なもの。それは悩みの相談でしょう?」


「うん、まぁそうだよね……」


 そう言いつつも、ウィンネスはおやつの前に彼女自身の能力一覧を表示させ、無言で一箇所を指差す。

指し示す項目をおやつは食い入るように見つめ、合点がいったような表情をした。


「あとは調べなさい」


 おやつは感謝の気持を込めて、激しく、何度も頷く。


「なんだかんだで、色々教えてくれるよね」


 その様子を見ていたてんは、少し笑いながら話しかける。


「なんのことかしら?」


「今回のことも、ウィンネスが教えてくれなかったら危なかった」


「私は何も言ってないでしょう」


 建前を崩すまい、といった白々しい答えだ。表情も妙にツンとしている。


「そうだね、なんにも、言ってないね」


 てんはウィンネスのあまりのすまし顔に笑いが溢れてしまう。


「助かったぜ!あんたら命の恩人だ!」


 突然、背後から大声が聞こえた。振り返ると、開いたドアから3人の男達が現れた。格納庫からパイロットが到着したようだ。


「シンデン・リバイスだ。救援に来てくれて感謝してる。マジで助かった」


 真ん中の長髪の男が片手を差し出して名乗る。完璧に整ったイケメン的な顔つきや、髪型のセットなどから彼がVtuberであるとわかる。


「はじめまして。僕は美那星 てんです。間に合ってよかったです」


 てんは差し出された手を握り返して挨拶を返す。


「実際危ないところだった。あ……ほら、お前らも!」


 シンデンが促すと、後の二人も続いて名乗る。


「俺は雁羽がんばガンバ。来てくれなきゃ死ぬとこだったよ……」


 センター分けの男性がガンバ。派手な髪色や風貌から察するに、彼もVtuberだ。


「自分は真四角マシカク。助けてくれて本当にありがとう」


 体格のいい男性。名前の通り角ばった印象だ。彼は「生」っぽい感じで、Vではなく配信者だと予想される。


「あ、どうも!……えっと、こちらは——」


 ウィンネスはの方へ手を向け、紹介をしようとするてん。


「ああ、ウィンネスは知ってるよ。そちらのお嬢さんは?」


 ん? 知り合い? ときょとんとし、ウィンネスの方を見るてん。当のウィンネスはその目線に気付きため息をつく。言ったでしょ、とでもいいたげな仕草。

 そういえば彼女は以前「自由に移動したり、同時に別の所に存在したり」できると言っていた。受け持ちの宣誓者はまだ他にもいるとも。

 彼らも自分たちと同じようにウィンネスから案内を受けていたのかと、それで納得するてん。


「えと、私はうりん おやつと言います!よろしくお願いします!」


 おやつも自己紹介。今この場でオースバンドが光るもの同士の挨拶は済んだようだ。

合流を見守ると、ウィンネスがふわりと浮かぶ。


「おい!どっかいくのか?まだいろよ」


 シンデンはウィンネスを引き止める。


「忙しいの。次の神命までは皆で親睦を深めなさい」


 取り付く島もなく姿を消す。


「つれねえやつだな」


 やれやれといった表情で見送るシンデン。ガンバやマシカクはその様子を見て笑っている。

ウィンネスはどこでもあんな感じなのだろう。

 ふふっと笑いながら、てんは話を切り替える。



 その後はまずそれぞれの艦隊の仲間たちの事。てんは自分の他に仲間がいること、ロストコーズのせりな。インディサイシブのハシモットーを紹介した。

 丁度せりなもエンバランスドとの接触を終えたらしく、ディスプレイ越しにシンデンたちと挨拶をする。

 

「エンバランスドのやつらは元気そうだったかい?」


『ええ。向こうもあなた達の心配してたわよ』


 シンデン達はこの世界に転移直後、元々は4隻の艦隊だったようだ。4隻の艦それぞれに艦長として1人づつ、そしてそのうちの1隻の空母シェイムレスにはパイロットとしてさらに3人、計7人の宣誓者からなっていた。

 しかし今回、セーフタイムが解除されてすぐにワープで合流地点に到達した彼らは突然現れた敵群に襲撃を受け、2隻が大破、そしてシンデン達の母艦だったシェイムレスは単艦で逃走。といった経緯。


「あいつは逃げ延びたのかねえ」


「さあな」


 シェイムレスの艦長が逃走を決めたとき、シンデンは激昂していた。だが今はあまり責める気になれなくなっていた。実際問題突然連れてこられてさぁ今から命をかけて戦え、なんて言われたところで出来る者は多くないだろう。

 結局のところシンデン自らも、啖呵を切って格好をつけたはいいがいざ自分の目の前に死の影が迫ったときに、僅かながらではあるが逃げなかったことを後悔してしまったのだ。


 勝利と生存の喜びの中に、苦々しいしこりが残ってしまった。

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