夢の終わり

「菱田さんそのまますべりこめ!」


 八番バッターの上宮がネクストバッターズサークルを飛び出して指示を送る。

 

 康太は指示通りにスライディングを始めた。その時、キャッチャーが急に康太の走路上に体を入れてきたのだ。「まずい」康太がそう思った時にはもう遅かった。両者はそのまま激突しキャッチャーが康太に覆いかぶさるようにのしかかってきた。


 ぶちっ。


 鈍い音が聞こえ、数秒の間なにが起きたのか分からなかったがすぐに右足に激痛が走った。


「ぐあぁぁ」


 真っ暗だった。汗が目にしみて目を開けられないわけでもないのに康太は、目を開けることが出来なかった。駆け寄ってくるチームメイトの心配そうな声と、季節外れのセミの鳴き声だけが虚しく鼓膜を揺らし、頭がい骨を振動させる。「やめてくれ、やめてくれ」そう叫ぶにはあまりに残酷すぎた。


 すぐに医務室に運ばれ、応急処置を施した後病院に直行した。右足首靱帯断裂。そう診断を受けた時、悟ってしまった。


 勝負の世界に長くいるからよくわかる。これで夢は断たれたも同然だった。

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