第2話 オムレツ(お題:料理)

 ロードサイドダイナーでは、ココが来てから飲食ができるようになった。

「ココ、今日のおすすめは?」

 客がカウンター席に座ると同時に、なみなみとコーヒーが注がれたカップが置かれる。

「……ソーセージとオムレツ。いつも一緒なんだから聞かないでよ」

 言いながら屈んで、カウンター下の冷蔵庫から卵とソーセージを取り出す。それから後ろを向いてフライパンに火をつけるまで、流れるような動作だった。

「まあいいじゃないか、ココ。ダニエルはここで同じやりとりをくり返すのが好きなんだ」

「そうそう。安心するんだよ。変わってないなって」

 肉の焼ける音と匂いが店に広がる。ココは振り向きもせずに、フライ返しをひらひらと振った。

 スカーフを巻きつけた生首が客の相手をする。ココがその間に注文の品を用意する。もちろんコーヒーを注ぎ足すことも忘れない。

「ところでクレイ。新しいスカーフを持ってきたんだが、取り替えてもいいかい?」

 生首の男には名前がたくさんあった。常連客それぞれが好き勝手に呼んでいる。ダニエルは彼のことをクレイと呼んだ。

「もちろんだとも! さあ早く見せてくれ」

 そして常連客たちはこうしてスカーフを手土産に持ってくることが多い。断面が見えてしまう可能性を心のどこかで恐れているんじゃないか、とココは考えている。巻かれてしまえば自分ではさほども見えないスカーフを、彼は毎度おおげさなくらいに褒めて喜んだ。今回ダニエルが贈ったのは爽やかなブルーで、それまで巻かれていたのは深いブラウンがメインカラーだった。ココが見る限り客たちのセンスはよく、それでいていつも彼によく似合っていた。

「はい、おまたせ」

 ダニエルの目の前に湯気がたちのぼる。ソーセージとオムレツがのった皿を置き、流れでコーヒーを追加する。ついでに自分のカップにも注いだ。

「うまそうだ。また一段とオムレツになったじゃないか。前はスクランブルエッグだった」

「その話はやめて。だって誰も実演で教えてくれる人がいないんだもの。この人は口ばっかりだし」

 後ろ側からうらめしそうな視線を流して、コーヒーを啜る。

「他に動かせるものがないんだからしかたないだろう」

 ダニエルは二つの顔を交互に見ながらソーセージを口にはこぶ。肉汁が口にたまるのを感じながら、鼻息だけで笑った。

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