元勇者は魔神となる
急いで宝物庫へと急ぎ着られる服を適当に選んでみるが、まあ使えそうなアーマーはそもそも敵の魔物達が使っていたわけだし、残っているのはどこから略奪してきたのか分からない小綺麗な装飾が施された洋服が無数に置かれている。
その中から黒いタンクトップに金属で装飾されている黒い上着、
「うん。金属の兜をどうにかしたいけど…外れないし。やっぱり俺だ。勇者の刻印がその良い証拠だ。でも、これはどういうことなんだ? 体は変異しているし、つけた覚えのない兜は外れないし、そもそも…聖術が使えなくなっている」
この世界は特殊の術式が三つ存在する。
聖術、呪術、魔術の三種類であり、勇者である俺は聖術しか使えないはずなのだが、どういうわけか聖術が使えなくなっていた。
何度も試したから分かる。
そこまで来てあることに気が付いた。
「そもそも今の俺は勇者なのか? 確か教会の司祭が『勇者は期間限定のジョブ』だって言っていたよな?」
ジョブ。
女神エルドナがこの地に現れた時に人にのみ与えた職の事であり、下位ジョブから最上位ジョブまで三段階あり、アンヌの聖女や俺の勇者は最上位のジョブの一つ。
しかし、勇者は追い詰められた人類に一時的な打開策として与えられるジョブであり、役割を終えたらそれまでだと聞いていた。
「勇者解放後は同じ最高位のジョブからランダムに一つ選ばれるんだっけ? じゃあこの体も…? アビリティか!?」
アビリティ。
その人の見に宿る能力で、生まれ持った固有アビリティとジョブ専用アビリティが四つで合計五つが人が持つことが許された。
中には肉体の装いが派手に変わるアビリティがあると聞くし、ましては俺の固有アビリティは『神々の加護』である。
ジョブ専用アビリティの能力を二倍にし、あらゆる状態異常や呪いに対する絶対の耐性が能力だったはず。
「そうか…ジョブが変わったのか。少なくともジョブ専用アビリティの一つは『自動再生』だろうな。勝手に回復する能力。しかも最高位のジョブだ。レベルは一からマックスまでの六段階中マックスだ。うわぁ~それで肉体が変化しているのか? でもこればかりは鑑定士に見てもらうしかないよな? 良し! まず脱出だ!」
浮かんでいるこの城からどうやって脱出するのかという問題をこなさないといけないわけだが、これは意外と簡単に解決できる。
俺は一旦城の外壁へと出ていき、持っていた荷物の中に念の為にと用意していた青いクリスタルを取り出した。
「
俺の体が青い光に包まれて視界がすごい速度で動いてくと、あっという間にあの村の門から一キロの地点で降ろされた。
判定基準の甘いこと、一キロ外に放り出されたことには不満には思わないことにし、俺は急いで村の中へと入っていく。
すると、門を守っていた門番が俺を引き留めた。
金属のヘルメットに胸当てと槍を持っている二人の門番の一人が俺の前に立ちふさがった。
「待て! 誰だ!?」
まさか勇者が生きて逃げてきたなんて思われても困るので誤魔化そうと脳をフル回転させる。
「今村はお祭りの準備中だ! 同時に葬儀が行われるんだ。悪いが部外者は当面は居れないから宿場に移動してくれ」
「? 葬儀?」
「ああ。先ほど教会から邪神が討伐されたと報告を受けた。お前も知っているだろうが、多くの勇者は大きな脅威に立ち向かっても帰ってこなかった。実際あれから丸一日が経過している。亡くなっただろう。お前は知らないかもしれないが、勇者は私たちのこの村から旅立ったんだ!」
知っている。
俺だし。
でも通してほしいと中へと入ろうとするのを門番に止められるが、正直この程度は振りぬいては知っていけるのだが、ここでそれをしていいのかどうかすら分からないので結果身動きが取れないまま小さな抵抗を繰り返す。
すると村の中から初老の白髪の老人が「何事じゃ?」と言いながらこっちに近づいてくると、門番はふと俺の上着の裾をつかむ。
俺は目の前に派手にこけながら上着を奪われてしまう。
タンクトップ姿、両腕には勇者の刻印、老人こと村長は俺の両腕を見て、変わり果てた俺の姿をじっと見て驚愕の表情を浮かべながら大きく叫んだ。
「ジャック!? なんじゃその体は!?」
「いや…村長!! これが俺にもよくわからなくて! 邪神を倒して目を覚ましたらこの姿だったんだ! とりあえず葬儀を辞めて俺を村に入れてほしい!! 葬儀はやめてね!! そこ重要!」
「そ、そうじゃな。その前にまずは鑑定じゃ! これはジョブが変わっておるんじゃよ! じゃからここに戻ってきたんじゃろ? まず鑑定しようと思ったからこの村に帰ってきた?」
俺は黙って頷き村の中へと入っていった。
総人口千人ほどの小さい村、村の中心には大きな広場がありそこから十字に家が広がっている。
そして、そこからさらに外には小麦畑や温泉地が存在しているんだが、俺は今この村の広場で村人中から囲まれていた。
千人の村人全員が此処に集まっているのでは、そんな中両親が人込みをかき分けて現れて俺を抱きしめる。
帰ってきた安心感からかマスクの中から涙が零れ出てくる中、目の前で鑑定士の若い男性は何かを一枚の紙に書き示す。
鑑定士。
その人のジョブから固有アビリティやジョブ専用アビリティの鑑定をし、その内容を教えてくれる人。
鑑定士は「終わりました」と言いそのまま村長に一枚の紙を手渡す。
「なるほど。やはりか…褐色肌に兜でピンときたが…逆にそれが幸いしたと?」
「ええ。ジャック君。よく聞いてほしいんだ。君は勇者から魔神へとジョブがチェンジしたんだ」
「? 魔人?」
「人じゃないぞ。神の方じゃ。神になったわけではないが、魔に対して神がかった実力者という意味での魔神。魔を極め尽くしその先にたどり着いた者という意味じゃ」
俺は勇者から魔神になりました。
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