第14話 次の局面へ
貴族達の下にリュドミラの手紙が届いてからしばらくの後、国王ゲオルギイもその手紙の存在を知った。
貴族達の中には、ゲオルギイを慮って、封すら切らずにリュドミラの手紙をそのまま国王の下に提出した者もいたからだ。
ゲオルギイはその内容を見て驚き慌てた。それが貴族らに不審と一層の動揺を与えるものだと、当然理解できたからである。
そして、このような手紙が配られたということは、リュドミラは未だに王都に隠れ潜んでいたという事だ。
ゲオルギイは直ぐに命令を発した。
「動員できるだけの兵を全て使って、王都を徹底的に調べろ!
特に、これらの手紙を運んだという冒険者共を捕らえて、口を割らせろ。そいつらはリュドミラか少なくともその味方と接触を持ったはずだ。少しでも情報を集めろ。
それから、リシュコフ公爵領から可能な限り近衛騎士たちを呼び戻せ。必ず、リュドミラを捕らえるのだ!!」
ゲオルギイの命令は今回もその言葉通り行われた。だが、これは悪手だった。
王の手勢の多くが王都内の捜索を始めた結果、レマイオス伯爵家への監視が緩み、城門の警備も疎かになったからだ。
レマイオス伯爵家の執事ヨハンは、この隙を見逃さなかった。
ヨハンは、主人オレグストの身の安全のためには今は王に逆らわない方が良いと判断していた。
如何に情勢が切迫しているとしても王と王国政府の兵力を過小評価はできない。レマイオス伯爵家だけではその兵力に対抗できない。と、そう思われたからだ。
もしもレマイオス伯爵家に続いて反乱が続発すればどうにかなるかも知れないが、そんな保証はない。である以上、主の身を守るためには王に逆らわない姿勢を見せるべきだ。
それが、ヨハンの考えだった。
しかし、逆らう姿勢を見せなければそれだけで必ず主の身が守れるとも思ってはいなかった。
どんな態度をとっても、結局レマイオス伯爵家が警戒されるのは間違いない。例え恭順の姿勢を見せても、ゲオルギイ王がオレグストを害しようとする可能性はある。
それを理解していたヨハンは、いざとなれば王都を強硬脱出する事も想定し秘かにその準備も進めていたのである。
そして、オレグストの決断を受けたヨハンは王都脱出の機会を油断なく伺っていた。
そのヨハンにとって、警備の乱れは絶好の機会の到来を意味していた。
ヨハンは好機の到来をオレグストに告げ、レマイオス伯爵家の者たちはオレグストの号令の下、即座に行動を起こした。一団となってわき目も振らずに城門へと向かい、そのまま突破を試みたのである。
レマイオス伯爵家の王都脱出はあっけなく成功した。
伯爵家の家臣の中にも、日頃から親交が深かったリシュコフ公爵家への王の行いに憤っている者は少なくなかった。
その家臣らは、当主オレグストの激情に感化され、1人残らず死兵の覚悟をもって城門を襲った。
番兵達はこれに抗することが出来ず、援軍が駆けつけるまで踏みとどまる事ができなかったのだ。
城門を突破したオレグストは、振り返って大音声で叫んだ。
「覚悟しておけ、ゲオルギイ!! 必ずや貴様に報いを与えてくれる!! 我らの怒りを思い知らせてくれるわ!!」
「「「うおお~!!」」」
レマイオス家の家臣たちも怒号を上げてこれに応え、そして自領へと向かって走った。
こうして、オルシアル王国は内戦へと突入したのである。
レマイオス家脱出のどさくさに紛れて王都から離れた2つの人影があった。
リュドミラ・リシュコフと“伝道師”だ。
しかし、正確には、彼女らは2人だけではない。“伝道師”は普通に黒色のローブを着て立っていたが、リュドミラはその背に意識のない子供を一人背負い、布や紐で固定していた。
そして、その上から灰色のローブを羽織っている。
そんな状態でもローブに込められた魔法は効果を発揮し、リュドミラも誰にも見咎められる事もなく王都を出ることに成功していた。
リュドミラに向かって“伝道師”が声をかけた。
「ここまでは予定通りといったところかな? ご令嬢殿」
「いえ、どうやら計画は半分しか成功しなかったようです。やはり、私には人を見る目はあまりありませんでした。ですが、半分でも効果は期待できます」
「そのようだな。では、次の手だな」
「はい、その為にも、早く我が家の領土に戻りましょう」
彼女たちの活動の舞台もまた王都スコビアから離れ、事態は次の段階へと進むのだった。
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