デートの日、俺の彼女がトイレ休憩から帰ってこないと思ったら寝取られていた件について
ネムノキ
第1話 虎太郎と小町
ビルの一つもない、見渡す限り一面の田んぼ。5月頃なんて、稲の青々とした生命がそこら中を埋め尽くす。
一言で表すと、広大。
ただただ、自然がそこには広がり虎太郎たちを包み込む。
虎太郎はそんな生まれた場所が……
生まれ落ちてしまった場所が……
大嫌いだ。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「
10月27日。
虎太郎は朝日を手で隠しながら、眩しいなかを駆けてくる彼女のことを見つめていた。
身長は虎太郎と同じくらいで、薄青・薄手のハーフネックのニットセーターを着ている。そして黒のタイトスカートを合わせている小町のファッションセンスは、とても田舎の生娘とは思えないような、都会じみたファッションで、いまの景色にはかなり不釣り合いだった。
「待った!?」
小町が、虎太郎の腕をわざわざ掴み、そしてギュッと胸元にまで手繰り寄せる。いつもの小町の動作だった。
「ううん……。俺も今きたところ。そんなに焦ってこなくてもよかったのに、小町」
「だって、とっても楽しみにしてたんだもの、今日のデート」
「あはは、こんな町……というか村でもか?」
「虎太郎、そんな分かりきったこと聞くなんて、意地悪だね。たしかにここには何もないけどさ。。。私たちは私たちだよ。私たちだけにしかできないデートしようよ。虎太郎」
小町はそういうと、虎太郎の腕を引いて、田んぼのど真ん中、一本の桜の木が植わる場所から、歩き始めた。
見渡す限り、田んぼ。すでに稲は刈り取られ、青々とした短い稲が季節を忘れたかのように生命を伸ばしている。
「……ああ、そうだな。小町」
虎太郎と小町は、あぜ道の上を、仲良く、くっつき合いながら歩く。
「虎太郎……大好き。今日は時間とってくれてありがとう」
「あはは、俺たちには時間なんてあってないようなもんだろう」
「そうだね、言ってみたかっただけ」
明らかに都会とは異なる時間、観念、常識が流れているこの町で。
虎太郎と小町は今日も仲良くデートをする。
きっと、この時間は生涯忘れることなく、彼らの財産となっていくのだろう。
…………
そうなってもらわないと、困る。
困るんだ。。。。
「ねぇ、虎太郎」
「ん?どうした小町」
小町が朝ぼらけの名残ある時分に、虎太郎の瞳を見つめた。
すぐ近くで、じっと、見つめた。
「ずっと大好きだよ」
「なんだよ、いきなり」
「…………なんか、急に言ってみたくなっただけ」
「そう。俺も小町のこと、大好きだよ」
二人は何気ない言葉を交わし合う。
この言葉になんの意味があるのか、分からないけど。
いま、この瞬間が満たされているという事実だけが……
事実だけで……
二人はとても幸せだった。
「ふふふっ!」
「な、なんだよ!!!!」
「虎太郎が真面目な顔していうと、おもしろい!!」
「んなっ。もう二度と言ってやんねー」
「あははは!!!!」
朝日はまだまだ、水平線から離れていない。
今日はまだ、始まったばかりだ。
【続く】
__________
NTRモノ、新作です。
よろしくお願いいたします。
次回は、第2話「NTR」です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます