第5話 親父

 親父は俺が小学五年の時に自殺した。お人好しの親父は親友の借金の保証人になり、直後親友は失踪。家は困窮した。朝晩問わず借金取りがドアを叩いた。


 ついに父親は首を括った。俺と母親は隣町のボロアパートに引っ越した。転校を余儀なくされたが、同じ服ばかり着ているから同級生たちから臭いと揶揄われた。


 トオルはバスに乗ってよく遊びに来た。そんな時、お袋はいつもパンケーキを焼いてくれた。


 俺は怒りを抱えたまま成長した。何故親父のような善い人間が死ななくてはならなかったのか。世の中が憎かった。せめて死ぬなら、あんな死に方じゃなくて楽に逝かせてやりたかった。


 世の中には死にたい理由を抱えている人間は山ほどいる。自分の力で死ねず死を待つしかない人間も。もし自殺ではない安らかな死を選択できる世の中なら、どれほど良かったか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る