第3話 トオルとサトル
「彼女、君の気をひきたかったんじゃない?」
高校の屋上で、爪にネイルを施しながらサトルは言った。俺とトオルとサトルは三年間同じクラスで、よくつるんでいた。女子たちよりもファッションやネイル、化粧なんかに詳しくて女みたいな喋り方だから、サトルは男子の一部に虐められていた。だが賢くて良い奴だから、俺は嫌いじゃなかった。
「あっちはセンジが本命だったとか」
トオルもいつもの淡々とした喋り方で同意した。
彼女は俺を男として意識していないし、俺もそうだった。前にトオルは、俺たちは例えるなら色違いの透明なテーブルと椅子のようなものだと言った。意味は分からないけれど、俺はトオルのそんなところが嫌いじゃない。
「つーかどうでもいいわ、過去のことだし」
俺は屋上のコンクリートの上に寝転んだ。
「ずっと思ってたんだけどさ、ここで授業やれば良くね?」
「また変なこと言う」
サトルが笑った。
「教室って、なんかうぜーんだよな」
「でもわかる、教室は息苦しい」
トオルが頷いた。「サボるか、五限」と言うとサトルは立ち上がり、「僕は行くよ」と答えた。
「いくら嫌でも、僕たちが今生きてるのはあの中なんだから」
♦︎
高校の時のことを思い出して感傷に浸るなんて、どうかしている。
卒業後トオルは東京の私立大の心理学科に進み、俺は近くの四流大の情報科に進んだ。サトルはアメリカに留学して弁護士資格を取り、去年性転換手術をしたと連絡がきた。電話で聞く声はそのままだったが、スマホに送られてきた写真は確かに女だった。
「今度帰国するからさ、また三人で会おうよ」
その約束は叶わなかった。サトルが帰国した日、俺は警察に追われる身になった。
僅かに爆ぜていた火はいつの間にか消えていた。秋の終わりの冷たい風が身体を刺し、俺は寝袋に潜り込んだ。山での生活はそれでも、俺の心を宥めてくれる。
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