第2話 『謝罪』

断ってしまった。だってあまりにも、唐突すぎだったから。だって上原悠馬の告白が唐突だったし……逃げるのは悪かったけど唐突にそんなこと言われたら誰だって戸惑うし逃げるよな!?



でも、このことをどうやって詫びたらいいのか?いや、そもそもどうやって話しかけたらいいのか? そんなことを考えながら、俺は深いため息をつきながら考えをグルグルと巡らせていた。

うーん……どうしたものか……

そんなことを考えていると、



「……なぁ、氷室稔ってやついる?話があるんだけど。」



ふと声がした。俺はその声のする方へ顔を向けた。そこにいたのは……上原悠馬だった。ひぇ……お、怒られる……!俺は小さく縮こまりながら、その場を全力で後にしたい……そんな気持ちを抑えてその場にとどまった。

すると、上原悠馬がこちらにズカズカと歩いてきて俺の目の前で止まり。



「え?上原、どうしたんだ?」



「あいつ、機嫌悪くね?氷室……何やらかしたんだろ?」



周りのヒソヒソ声が聞こえる。だけど。今の俺にはそんなもん、耳に入らなくて。あー、もうダメだ!終わった!と、心の中で思ってた。そして上原悠馬が俺の前で立ち止まった。



「……話があるんだ。ちょっと来てくれ……」



上原悠馬は俺の耳元でそう囁く。怖いけど……ここで逃げたら更に怖いことになりそうで。俺は素直に上原悠馬についていった。

しばらくついていき、着いた場所は……空き教室。



中には誰もいなくて、俺と上原悠馬だけの空間になる。

そして、上原悠馬はこちらを向き、真剣な表情で俺を見据える。俺はその視線に耐えきれず目を逸らそうとした瞬間。



「悪かった」



と、頭を下げられた。

……俺は言葉を失った。

え?上原悠馬が俺に頭を下げてる?どいうこと!?……え?



「あ、あの……上原さん……?」



俺は困惑しながら、上原悠馬に声をかける。だって本当に訳がわからない。謝るのならこっちじゃないのか……?だけど、上原悠馬は俺に頭を下げたまま。

俺はどうしていいかわからなくなった。



「だって告白……あんなに急にしたらそりゃ、逃げられるわ……って姉ちゃんに突っ込まれて……そりゃそうだよな……と思って……だから……本当に……悪かった。」



「そ、そう……ですか」



思わず、敬語になる。何を言えばいいのか分からないからだ。すると、上原悠馬は顔を上げた。その表情は何か決心したかのような顔でこう言った。



「……だから、俺は改めて言うわ。俺、氷室稔のことが……好きだ」



頬を赤く染めてそう言った。二度目の告白たけど、どうしてか分からなかった。それは同性とかそういうのは関係ない。だって――。



「……俺ら話したことないじゃないですか」



そう、俺らは一度も話したことがない。正確に言えば挨拶ぐらいはしたかもしれないが、それぐらい。そんな相手に、どうして?と疑問に思ったのだ。

だけど、上原悠馬は……



「うーーん。まぁ、確かに話したことはないけど……でも、俺は一目惚れしたんだよ。入学式の時、お前を見つけてビビッときたんだよ。」



「へ……?ひ、一目惚れ……?」



何それ。いや、余程の美人とかなら分かるよ?学園のマドンナとかさ。でも、俺は平凡で目立たない人間だよ?どこに一目惚れする要素があるの……?



「俺。お前と付き合えたら幸せだと思うし、絶対大切にするから……俺と付き合って欲しい」



そう言って、頭を下げる。俺はすぐには答えられなかった。仮に上原悠馬と付き合ったとしよう。周りの反応はどうだろうか?もし、クラスとかで話題になったら?それに――



「ご、ごめん……俺、男が無理……ではないのだけど…その、上原くんのことをまだよく知らないというか……」



俺は素直に気持ちをぶつけた。そう、俺は男と付き合うのは無理ではない。だけど、相手が俺なんかと付き合って幸せになれるのだろうか?これは相手が女子の場合でも同じ。付き合ったら相手の負担になるのではないか?と、そう思ってしまうのだ。

すると、上原悠馬は……



「そうだよな……うん。じゃあ、俺ら友達になろうぜ!」



「……え」



まさかの発言に俺は、ポカーンとしてしまった。友達……まぁ、それなら……。

俺は小さく、はい……と返事した。すると、上原悠馬は嬉しそうな表情をしていた。



俺が了承しただけで嬉しそうに目を輝かせているのが何だか変な感じだ。……そして、俺と上原悠馬は友達となった。



△▼△▼




あれから俺と上原悠馬は友達となった。

だけど、友達なっても気まずいものは気まずい。その原因は……



「あ!稔!みんなでお弁当食べようぜ!」



「あ!稔!みんなで一緒に帰ろうぜ!」



……これだ。みんなで一緒に帰ろうだとか、みんなで一緒に昼休み遊ぼうだとか……と言った誘いが苦痛でしょうがなかった。だって、上原悠馬は陽キャかつ人気者だ。つまり、その周りにはめちゃくちゃイケてる男子がたくさんいる。



所謂、ウェイ系みたいな感じの人ばっかりだ。つまり、俺……氷室稔の苦手なタイプということだ。断ろうとしても何か断りずらいし……

陽キャのノリについていけてない俺は、断る勇気すらなくて。結局、行くはめになる。



そして何だか、はずれくじ扱いされている気がする。いや、気がするじゃない。確実にされている。はぁ……と、ため息をついた。



上原悠馬は人気者だ。だから、俺が仲間に加わっても文句を言う奴はいない。……表面上は。でも、心の中では……

――何であんなのが俺らの仲間に入ってるんだよ。



と、思われているに違いない。いや、直接には言われてないけど、視線から何となく察することができる。

だから、俺は。

昼休みは空き教室で食べるようになった。



隣のクラスだし逃げるのは簡単だ。昼休みも学校に帰るのもあいつが来る前に去ればいいから簡単だ。しかし……



「よっ!稔!」



待ち伏せされたら回避不可能だ……!俺は心の中では、泣きそうになりながらも平然を装った。



「昼休みもいねーし、学校も早く帰るとなるとこれぐらいしか打つ手がねーのよ!」



と、笑いながら言われた。……でも、怒ってるよね?これ……



「ご、ごめん。昼休みと帰りは一人でいたいというか……」



とりあえず素直に理由を述べた。だって、本音を言えるわけがないしね……? すると上原悠馬はそっかと言った後。



「ふーん。そうなんだ。俺はてっきり何か理由があるのかと思ったよー」



と、言って笑った。……申し訳ない、とは思っている。だが、思っているだけ。謝ったところで理解なんてされない。だから、俺は謝る気などサラサラなかった。



「ふーん。そうなんだ。なら!俺だけならいいってこと?複数人が嫌なら二人っきりで食べようぜ?それなら問題はないよね?」



ニッコリと笑みを浮かべ、そう言われた。その笑顔に見られて、俺は頷くしかなかった――。

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