第5話 お使いに行こう



昨日の軽トラックに乗車し、ぼんやりと、流れる街の様子を見ていた。

「理斗、一人拾っていくね」

 夕太郎が、そういうと車が路肩に停車した。

「え? でも、これ二人乗りじゃ……」

 自分に降りろという事かと、シートベルトに手を掛けたとき、ドンと後ろの荷台で音がした。驚いて振り向くと荷台に、坊主頭の厳つい青年が立っていた。彼と一瞬だけ目が合った。怖くなって、すぐに目を逸らすと、男はバサリとブルーシートに包まって、横になった。


「なっ……あ、あれ、何なんですか⁉」

 僕は、運転席の夕太郎に身を寄せて、口元に手を添え、小声で尋ねた。どう考えても雰囲気が一般人じゃなかった。映画に出てくる傭兵とかそんな感じだ。


「お使いの同行者。軽トラックの荷台って人間乗せてると警察に捕まるでしょ」

「そう、なんですか」

「今、警察に止められて色々質問されたら、理斗って余計な事喋りまくりそうだよね。聞かれてもいないのに」

 ケラケラと笑った夕太郎は、僕の首根っこを掴んで揉んでいる。

「……」

 僕は少し太めの眉を寄せて、夕太郎を睨んだ。

「え? 理斗ちゃん怒ってんの? 超かわいい。黒目すげぇ綺麗だし、唇ぷっくりじゃん。バブちゃん感すげぇ」

夕太郎が大口を開けて笑いだしたので、顔を背けて外を見た。


「ごめん、ごめん、大丈夫。もし遺体が見つかっても警察だって前科も無い、善良な理斗まで辿り付くのには相当時間掛かるよ」

「……」

「むしろ、家族とかが先に来るんじゃ無い? かわいい息子が居なくなったら、パパもママも泣いて探してるでしょ。そしたら俺、何て言い訳しようかな。理斗が、俺に惚れて押しかけ女房してますって言ってね」

 夕太郎が、片目を瞑って微笑んだ。


「僕、両親は死んじゃって、兄が居るんだけど……手紙とか書いたらダメかな⁉ きっと、心配して探してるから。でも、戻れないし」

シートベルトをギュッと握って言った。兄は、僕を大事にしてくれていた。本当は、養護施設を出て直ぐにでも僕を引き取り、一緒に暮らしたいと言っていたけれど、警察学校に入り寮生活が何度かあり、中々生活が安定せず、僕の勉強の邪魔になるのを危惧して、卒業までは我慢していたらしい。共に暮らすようになってからは、忙しい中、僕と過ごす事を出来るだけ優先してくれて、兄弟二人で生活出来る幸せを噛みしめていた。僕が、縋るような目で夕太郎を見つめると「んん~、考えておく」と、気のない返事が帰ってきた。

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