第4話

 画面に映し出されるみれいたんを堪能していると、一本の電話が入る。

「こんな時間に誰だ」

 ていうか、電話がかかってきたこと自体が初めてである。

 スマホを確認してみると、画面に広がる麻理亜という名前が俺の視界を覆いつくした。

「な、なんで」

 確かあの時、トイレで連絡先を交換したんだった。すっかり忘れていたぜ。

「ごくり」

 これ出ていいんだよな? てか、出なきゃいけないよね? 初めての電話で混乱してるんですけど。

 これぞ陰キャの特性パート2。

「よし。出るぞ」 

 誰もいない自室でぶつぶつ呟く俺ってキモーい。

 画面を一回タップし、電話に出ると、スマホの向こう側から高い声が響いてくる。

『ちょっと! 遅すぎじゃない? どれだけ待たせるのよ!』

「し、仕方ないだろ! 俺だって心の準備というものが必要なんだから!」

『心の準備? なんでそんなものが必要になるの? ただの作戦会議なのに』

 女子と電話で話すってだけでかなりハードル高いんだよ! まあ、学校一の美女には分からないことだろうがな。

『何? 無視? 電話だからっていい度胸ね』

「はいはい。すみません」

『あなた、面と向かって話さない時は少し強気になるタイプ? 一番嫌われるタイプじゃない』

 そんなこと言わなくたっていいじゃんかぁ。泣いちゃうよ?

『まあいいわ。それで、どうなのよ』

「何が?」

『何がって、そんなの決まってるじゃない』

 電話の向こうからため息が聞こえる。

「ひょっとして橘さんのこと?」

『そうに決まってるじゃない。逆にそれ以外の用件であなたに電話をすることはないわ』

 酷くない?

『作戦は考えたの? 私はそれが気になって夜も眠れないわ』

 作戦も何も、俺が橘さんに話しかけて、そこから順序良く事を進める方法以外思いつかないのだが。

「普通に俺が橘さんを呼び出してお前の下に連れて行く。それでいいだろ?」

『ま、まあそれでもいいけど、上手くいくのよね?』

「橘さんが俺の呼び出しに応じてくれれば成功するな」

『そう。まあやってみないと分からないわね。それじゃ明日はそれで行きましょ』

「はいよ」

 やっと解放されると思い、電話を切ろうとしたら、電話の向こうから思わぬ質問が投げかけられた。

『ねえ今暇?』

「えっ?」

 少し心臓がドキッとしちまった。

『暇なの?』

 正直さっきまで見ていたアニメの続きが見たいのだが、100週はしているし、今は柏木を優先しても良いと思ってしまった。くそっ。

「まあ暇かな」

 さあ、なんて返ってくる?

『そう! それじゃ付き合いなさい!』

「ん? 何に?」

 電話越しでも不敵な笑みを浮かべているのが分かるのは何故だろうか。

『推しについていっぱい語りたいことがあるの! 一人でぶつぶつ語っていてもキモいだけでしょ?』

「えっと、つまり俺がその相手になれと?」

『ご名答! 暇なんでしょ?』

 くそっ。まさかこうなるとは。変にドキドキしていた自分が恥ずかしい。

「ひ、暇だった、がアニメ鑑賞という用事が今できた」

『ふーん。そうやって逃げるのね。別にいいけど』

 まさか逃げることを許可されただと⁉

「い、いいの? ほんとに」

『いいわ。でも、逃げたらどうなるか分かるわよね?』

 その瞬間、俺のスマホがぶるっと震え、一通のメッセージを受信する。

 その内容を確認すると、もはや分かり切っていたことが画面いっぱいに広がっていた。

「お前、この写真悪用しすぎだろ」

『あら? 何か言ったかしら?』

 これ以上下手に言い返してでもしたら、取り返しのつかないことになりそうだ。

「な、何も言ってません」

『あらそう。で、結局私の推しについて聞いてくれるの?』

 断ることなど不可能。

「聞く聞く。思う存分語って下さい」

 これに関しては、俺が悪い。

 自分自身のせいなので、自らを恨むしかなかった。

『ありがと!♡』

 それから、瑠璃たんこと橘さんについての話(語り)を二時間以上聞かされ、ようやく自由を取り戻した。

 電話を終えた俺は、二時間の電話ってもはや——カップルではないかと思ってしまっていた。

 そして俺は、橘さん語りの内容をほとんど覚えていない。理由は眠かった。以上。

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推ししか勝たんツンデレラ 平翔 @tairakakeru

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