第16話

ムクロは目を覚まし、見上げるとまだ空は薄暗く空気が少し冷たく感じた。


 「まだ夜すら明けてないか。なんでまた、あの夢を見たんだ······俺は、あのバカに未練でもあるのか?」


 ムクロはさっき見た夢に少しイラだった。


 「まったく、いやになるな」


 「マイマスターどうされましたか?」


 隣にいたシグマが話しかけてきた。


 「ん? シグマか。いや速く目覚めただけだ。フェルネスは?」


 「フェルネス様なら、あちらです」


 ムクロはシグマが指した方向を見ると、クロに寄りかかりながら眠るフェルネスの姿があった。


 「フッ、とりあえず夢のことはいいか。さてと、もうひと眠りするか。悪いけどシグマ朝になったら、起こしてくれないか」


 「時間的にはすでに朝なのですが、承知いたしました」


 「頼んだよ。おやすみ」


 「おやすみなさい。マイマスター」


 ムクロは再び眠りについた。


 ◆◆◆


 しばらくしてムクロたちは目覚め朝食を終えると、再び帝国に向けて出発した。その間、ムクロたちは休暇を挟みながら、フェルネスに魔法スキルについて教えていた。


 「フェルネス、まずは、威力の強弱はいいから、あの木に向かって魔法を撃ってみて」


 「はい」


 フェルネスは木に向かって短杖を構えて詠唱を始めた。


 「──〈火球ファイアーボール〉」


 杖先から火の球が放たれ、木に命中し幹の皮が焦げて剥げた。


 「やった! 当たりました!」


 「うん。初めてでこの精度とは、やっぱりフェルネスには魔法の素質あるみたいだ」


 「そんなことないです。けど、夢みたいです。職業クラスなしで生まれた私が、魔法が使えるなんて」

 

 「いや、おそらくフェルネスは魔法の素質は相当あるよ、俺が保証する。後は練習あるのみ」


 「はい!」


 フェルネスは再び、魔法の練習を始めた。


 「しかし意外だな、魔法職ではない主が魔法の教え方がうまいとはな」


 木に寄りかかっていたセンがムクロに話しかけてきた。


 「それはどうも、実は以前に『学会ソサエティー』って言うギルドの論文会に参加したことがあるだ」


 「論文会?」


 研究ギルド『学会ソサエティー』。魔法職と生産職のみで構成されており、主な活動はアイテムや装備品、魔法スキルの研究と開発を目的としたギルド。ギルドマスターは【騎士王】の一人"創魔帝"マクスウェル・シュレディンガーであり、『十三人の死神たちサーティンデスズ』のメンバーの一人でもある“孤独師団”パンドラも所属していた。

 そのギルドは月に一度、自分の成果を発表する論文会が開かれ、ギルドに所属してないプレイヤーでも発表を聞くことができた。


 「その論文会で育成に関することを聞いてね。それに【人魔の黒書】を手に入れてからは、そういうところも自然と学ぶようになったからね」


 「フン、主は以外と器用なんだな」


 「以外は余計だ。ところで、センから見てフェルネスの実力はどうよ?」


 「我に、魔法の良し悪しはわからぬ。だが、発展途上だが悪くないんじゃないか。職業を持ってなかったのが不思議なくらいだ」

 

 「やっぱり、そうだよな」


 ステータスを見るに魔法職に適した数値だった、魔法職としての才能はあるのに職業を持ってなかった……いや、今は深く考えなくていいか、フェルネスの魔法スキル習得は順調、後はレベル上げだな。


 「あっそうだ。フェルネス!」


 「あっ、はい!」


 「この辺りで、どこかモンスターが生息してそうなところ知ってる?」


 「いえ、ですが西の少し離れた所に小さな岩山があります。そこに確かゴブリンの集落があると聞きます」


 ゴブリンか。モンスターとしてのランクは下級でレベルも5以下だったはず。うん、いけるな。


 「よし! そこに行こう!」


 「えっ!? 今からですか?」


 フェルネスは今日一番の驚きを見せた。


 「もちろん。ゴブリンはレベル上げには最適だからな、それにまた王国の連中がくる可能性があるから、今のうちに力をつけないと」


 「け、けど、ゴブリンですよ。一匹、二匹ならともかく集落だと百匹はこえると聞きます。私そんな数を相手になんか、魔法も覚えたてですしうまく倒せるか――」


 「もちろん、全部は相手にさせない。フェルネスには、こぼれたゴブリンの相手をお願いしたい」


 「それでしたら、多分、大丈夫です」


 少し不安そうだが、俺たちがバックアップすれば大丈夫か。


 「うん決まりだ。みんな! 準備が整い次第出発をする!」


 「仰せのままにマイマスター」「承知しました主君」「心得マシタ」「了解した」


 ◆◆◆

 

 準備が終わり、西のゴブリンの集落に向かって出発し、ノワール上空から先行させ、フェルネスとムクロはクロの背に乗り、センとシグマは守るようにクロの左右を歩いていた。


 「ノワールは上空から集落を探しているから、俺たちは地上から探そう」


 「ねぇ、ムクロ少し聞いていい?」


 「ん? 何?」


 フェルネスから質問なんて初めてだな。


 「あのね、今朝、言ってたその、ばかっていうのは誰のことですか?」


 「えっ!? 起きてたの!?」


 「い、いいえ、ちょっと寝ぼけて、聞き取れなかったけど、誰のことだと思って……も、もちろんムクロが嫌なら、言わなくていいし」


 「……いや、見つかるまで、時間もあるし少し話そうか。そのバカの話を」


 ムクロはフェルネスにバカのことを語りだした。

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