第9話

 「そこまで、言うのなら望み通りにしてやるよ······てめぇら! 魔法が効かないのなら、剣で殺せ!」


 男は怒鳴りながら兵士たちに命令を下し、兵士たちは一斉にムクロに向かって突撃を仕掛けた。


 やっぱり、そう来るよな。魔法が効かない相手には物理攻撃をするしかないけど、正直言って従魔職である俺じゃあ、あいつらを倒すことはできないが……手段がないわけじゃない。


 一人の兵士が剣を振り上げて立ち尽くしているムクロに向かって斬りかかるが、ムクロは攻撃をかわし、兵士の脇腹に右の拳を突き立てた瞬間。


 「〈衝撃波インパクト〉」

 

 兵士は突然十数メートル吹き飛び木へとぶつかり、そのまま動かなくなった。それを見ていた兵士たちは呆然と立ち尽くしていた。ガズルも何が起こったか分からず目を見開いた。


 「何っ!? 貴様、何をした!」


 「何って? 見ての通り吹き飛んでもらっただけだよ。けど見た目の割にダメージは大したことないと思うけど、戦意喪失させるには十分でしょ」


 S級装備【破蛇はじゃかわ籠手ごて】の装備スキル〈衝撃波インパクト〉。ダメージは大したことはないが、打撃を与えた相手に強烈なノックバックと一定確率で気絶を与えるスキル。

 気絶している時間は相手のレベルによって変わるが、レベル20から30ぐらいだったらしばらくは起き上がれないだろうな。


 「戦意喪失させるだと……ぬかしたこと言ってんじゃねぇよ!」


 ガズルは見たことのない怒りの形相をしてきた。

 

 「お前ら、あのふざけた野郎を囲んで殺せ!」

 

 兵士たちはムクロを囲むように攻撃を仕掛けるが、ムクロは兵士たちの攻撃をかわしながら、兵士たちに〈衝撃波インパクト〉を繰り出し。死角から攻撃しようとする兵士もいるが、ムクロは避けて〈衝撃波インパクト〉を打ち込んだ。

 

 なんで!? なんでだ? 相手は従魔職の雑魚。その筈なのに……どうして?


 ガズルは何が起きているか分からないと同時に、センも何が起こっているか分かっていなかった。


 流石はあるじと言いたいとこだが、主の職業クラスは従魔職【召喚士サモナー】のはず、本来の従魔職はモンスターの使役が主体そのため術者のステータスは低い、主のステータスは装備品で上げたとしてもはっきり言って雑魚レベル。

 主よりレベル低い相手でも、主が負けてしまう……なのに死角からの攻撃でも難なく避け、その上で反撃。まるで、最初から相手がどう動くか知っていかのように、今までなんで不思議に思っていなかったのか不思議だ。


 体がゲームの時だった通り動く……そしても使えてる。

 

 プレイヤースキルとは一部のプレイヤーが独自に会得したスキルであり、ゲーム上のスキルではなく、プレイヤーが持つクセや感覚などが拡張と強化されたもの。

 ムクロが持つプレイヤースキルは〈予測〉と呼ばれ、ムクロが培ってきた戦闘や行動の記憶をもとに無意識化で記憶を分解、似ている記憶を収束、そして統合を行うことで先の行動を読むことができ初見の攻撃でも対応が可能であり、ムクロは最大で1分先を予測することが可能。


 「〈衝撃波インパクト〉」


 ムクロが一息つく頃には立っている兵士たちは、既に数えるほどしかいなかった。

 

 さてと、数も大分片付いたし、そろそろ頃合い──


 ムクロが突然一歩前に進むと、ムクロが立っていた地面が凹みだした。


 「来ると思ってたよ、魔法戦士部隊隊長殿」


 ムクロが後ろを振り向くと、虚空からガズルが現れだし、凹んだ地面には戦鎚がめり込んでいた。


 「どうして、俺が透明化して背後を攻撃することがわかった!?」 


 「何、ただ予測しただけだ」


 「予測だと!?」


 「そのとおり、君たちと最初に出てきたとき、空間から突然現れだしたから、おそらく透明化ができる装備品を持ってることは確定していた。職業に関しては部隊名から考えるに兵士たちは複合職持ちで、そして君のキレっぷりから思考を予測すると、兵士たちを囮に使い自分は透明化して背後から攻撃することが、予測できた」

 

 「······ハハッ、ハハハハハハハハッ」


 ガズルは突然高笑いを初めた。


 「いやー驚いた。そこまで考えていたのか、それは未来予知に等しいな」


 「それはどうも、ではなくだけどね」


 「だったら、このあと起こることも、予測しているのだろ?」


 「もちろん、こうやって会話で時間を稼いで次の攻撃を仕掛ける、だろ?」

 

 「フンッ、正解だ!」

 

 突然ムクロの足下に魔法陣が現れだし、そこから勢いよく柱が伸びムクロも巻き込まれた。


 「ハッハッ! 魔法が効かない貴様でもこれなら効くだろ!」


 確かにダメージはないけど、これは効く俺のステータスじゃあ、振り切れない。


 柱が数十メートルまで上がったら、柱が伸びるのを止めムクロは勢いで空中に飛ばされた。


 ガズルは見計らって戦鎚を抜き、透明化でを行い、姿を消し最初に出てきた柱を中心に円状に8本の柱を伸ばした。


 なるほど透明になり更に8本の柱を出して撹乱、さらに俺は空中で回避ができない、考えたな。


 8本の柱が伸び切ると、同時にカズルはムクロの目の前に現れだした。


 「空中では避けられないよな?」


 ガズルは戦鎚を振り下ろす体制を取った。


 「確かに、これは避けられない」


 「これで死ね!──〈重力グラビティハンマー〉」


 振り下ろした戦鎚がムクロに直撃、ムクロは戦鎚の衝撃と同時に体が重く感じた。


 「ガハッ!?」


 ムクロは、勢いよく地面に叩きつけられ砂煙が舞い散り、ガズルは柱を使い、地面へと降りた。


 「ムクロッ!」


 少女も黙っていられず叫びだした。


 砂煙が晴れると、そこにはムクロが仰向けになって動かなかった。


 「ハハハハッ、ようやく死んだか!」


 ガズルはムクロの前で高笑いし、少女たちの方を見た。


 「待っていろ! 次はお前たちだ!」

 

 ガズルは少女たちの方に向かって歩いたが、左足が動かず、見てみると黒い鎖が巻かれていた。


 「ッ!? なんだ、これ!? いつの間に!?」


 「いやー危なかった」


 ガズルはありえないと思いムクロが倒れている方を見ると、ムクロが立ち上がっていた。  

 

 「なんだと!? 貴様は、〈重力鎚〉で仕留めたはず!?······まさか効いていなかったのか!?」

 

 「まさか、ちゃんと効いていたよ」


 「だったらなぜ!?」


 「さっきの攻撃はある程度、体をひねってそらしたからね」

 

 「そらしだと!?」

 

 「そう予め、予測していれば容易い、まぁ完全にそらせなかったからダメージは入ってるけどね」


 まっ、【悪魔の血染め衣デモンブラッドローブ】の〈HP・SP自動回復〉と【深淵しんえん黒骸外套こくがいがいとう】の〈魔法・物理ダメージ軽減〉でダメージは回復できるけどね。


 「さてと」


 ムクロはゆっくりとガズルの方へ歩き出した。

 

 「ちなみに、お前の左足に付いている鎖は〈深淵の鎖〉って言う装備スキルでね、相手を動けなくすることができるけど、持続時間が短いから使い勝手が悪くてね、あんまり使わないんだよ······だけど、足止めぐらいにはなるだろ」


 「だったこの位置からもう一度てめぇを叩き殺し──」


 「〈疾風〉」


 ムクロはガズルが戦鎚を振り上げたと同時に【黒翼竜の黒革ブーツ】の装備スキルを使い、一瞬でガズルの懐に入り込んだ。


 「何っ!?」


 「お前が戦鎚を振り下ろすよりも先にこの距離なら、俺の方が早い──〈衝撃波〉!」


 ムクロはガズルの腹に〈衝撃波〉を叩き込んだ。

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