第8話

 ムクロが大声で言うと、十数秒ほど経つと虚空から、兵士の姿が十数人と現れだし、最後に現れた男を見たフェルネスは、ムクロの外套を掴み震えだした。


 「フェルネス、大丈夫か?」


 「は······はい、大丈夫、です」


 震えているってことは、背中の重傷を負わせたのはこいつらか、装備が整っているってことは盗賊の類じゃない、どこかの正規兵か?


 「そこの者たち、その娘をこちらに渡せば、これ以上危害は加えない」

 

 突然一人の男がムクロたちに話しかけてきた。

 

 はっ? 一方的に攻撃を仕掛けて、よくその言葉がでるな。

 

 ムクロはその男の言葉に苛立ちをもった。

 

 「これ以上危害は加えないって、既にもう危害はもう加えているんだよ。第一に名乗りなしとは、どういうことだ!」


 「おっと、これは失礼した。我はフィルデル王国魔法戦士部隊隊長ガズルという者だ」


 フィルデル王国、フェルネスさっき言っていた国か。


 「なんでこの子を追っている? 王国の魔法戦士部隊の皆様方が動くようなことを、この子がやったっていうのか?」


 「分け合ってそこ小娘を追っている。さぁその小娘をこちらに渡してもらおうか」


 「理由にもなってないし、はいそうですかとこの子を渡すわけにはいかないな」


 「その娘が大罪人だとしても?」


 「大罪人?」


 「そうだ、その娘は我々王国にとって許されない大罪を犯した。それでもその娘をかばうのか?」


 王国にとって許されない大罪? 奴らが噓をついている可能性もあるが······。


 「これ以上は時間の無駄だ! さぁその娘をこちらに引き渡すんだ!」


 「悪いけど、お前たちが嘘をついている可能性があ──」


 「本当です」


 「──え?」


 ムクロは少女の放ったこと一言に思わず驚いた。

 

 「あの人の言う通り、私は······大罪人なんです」


 「マジ······かよ」


 「これ以上、あなた達に迷惑をかけるわけには行きません」

 

 少女は外套を離しゆっくりと男たちの方に歩き出した。


 「ちょっ、待っ!──」

 

 「主、まて」


 ムクロは少女を止めようとするが、センに止められた。


 「セン!? どうして止める!」


 「我々は、情報不足の上にリスクがありすぎるからだ。主だって薄々気づいてるはずだ」


 「んっ!?」


 確かにセンの言う通りだ。リスクがありすぎる上にこの世界のこともまだわかっていない······だけどな──


 ムクロは、歩き出している少女の手を掴んだ。


 「震えて泣いている女の子を見捨てるほど、俺はクズじゃない」


 「貴様! 我々フィルデル王国に逆らう気か!」


 男はムクロたちに向かって怒鳴り散らした。


 「おいおい、何か勘違いしてないか、今から喧嘩を売るのは国じゃねえ、テメェらだよ」


 「全く、少しは我の意見も聞いてほしいな」


 「そうですね、マイマスターの悪いところです」


 センとシグマが呆れた口調でムクロ向かって喋りだした。


 「ハハハッ すまないな、迷惑かけて」 


 「だが、従魔として主の決定に従うだけだ」

 

 「もういい、こうなったら! 貴様たちを殺してそこのガキを連れて行くだけだ!」


 ムクロがセンたちと話している最中に男は再び怒鳴り散らし、それと同時に兵士たちが臨戦態勢に入った。


 「ノワール、この子を後ろに頼む」


 「了解しました主君」

 

 「どうして······私······なんか」


 ノワールが近づき、少女を下がらせそうとするが、少女が心配そうにムクロに問いかけた。


 「さっきも言ったろ、震えて泣いている女の子を見捨てるほど、俺はクズじゃないって、理由はそれだけで十分だ」

 

 「主君は大丈夫ですか?」


 「なに、ちょっとはカコッイイとこを見せないとね、それに危なくなったら、君たちを頼るよ、俺は従魔職だからね」


 「承知しました。ご武運を」


 ノワールは少女と共にセンたちの方に下がり、ムクロは兵士たちに向かって歩き出した。


 「貴様一人で我々と対峙しようと言うのか」


 「まぁ、この戦いは俺個人の実験も含まれてるからな。なに、もし危なくなったら後ろの皆を頼るさ、俺は従魔職なんでね」


 ムクロは【収納の指輪ストレージリング】から髑髏を模した仮面を取り出し、顔に取り付け外套に付属しているフードを被りだした。


 「貴様従魔職なのか? ハハハハハッ モンスターに頼るしかない雑魚が、モンスターなしで我々フィルデル王国の魔法戦士部隊に敵う筈がないがないだろ! そんな仮面を付けた所で我々が引き下がるとでも思ったか!」


 「雑魚は余計だ。それに、この仮面は気にするな、えっと、ガズルって言ったけ、いいから来いよ」


 ムクロはあからさまに男に向かって挑発をする。


 「フンッ 見えすいた挑発だな、魔法戦士部隊構え!」


 男の命令を聞いた周りの兵士たちは、剣先をムクロに向けた。


 「〈火球ファイヤーボール〉放て!」


 「「「「「〈火球ファイヤーボール〉」」」」」


 号令も共に兵士たちは、詠唱を行い、剣先から火の球を出して、ムクロに目掛けて放った。


 ドゴン!

 

 〈火球ファイヤーボール〉全てがムクロに当たり轟音と共に爆煙が立ち込めた。


 「ハハハッ! どうだこれが我々フィルデル王国の魔法戦士部隊だ、我々に逆らうからこうなるのだ! ハハハッ!」


 男は勝利を確信したかのように高笑いをした。


 「そんな······」


 少女は突然のことに唖然としたが、シグマたちを見ると驚くほど落ち着いていた。


 爆煙が晴れ始めると、爆煙の中に人影が現れだした。

 

 「ハハハハッ──ハッ!?」


 男はその人影を見ると、笑いをやめた。


 「ん〜なるほど、威力からして兵士たちのレベルは20から30ほどか」


 爆煙から無傷の状態でムクロが現れだしたと同時に男だけではなく周りの兵士たちも驚き出した。


 「ど、どうして生きてる!?······なんで!?」


 「んっ? 悪いけど、そんな低レベルの魔法攻撃じゃあ俺は死ないよ」


 まっ正確にいえばレベル70以下の魔法攻撃の無効化だけどね。

 

 ムクロが持つ装備品の1つS級装備【悪魔の血染め衣デモンブラッドローブ】の装備スキル〈魔法絶対防御Lv70〉は、名前の通りレベル70以下の魔法攻撃を無効化が可能となる。


 ゲームの世界同様に装備品のスキルはやっぱり使えるか、もっと実験してみるか。


 「これで、魔法が効かないってことがわかったろ、次は真っ向勝負と行こうじゃないか、それとも? しっぽ巻いて逃げるか、優秀なフィルデル王国の魔法戦士部隊様は」

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