先輩

@HAL-shion

先輩








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







高校2年の春休みのこと……




「ねぇ、次の日曜日ってシフト入ってる?」




 そう唐突にバイトの休憩中に先輩から声をかけられた。

先輩は自分と同じ高校に通っている人で3年生でショートヘアで丸くて大きい瞳は学校でも人気の先輩だ。



「ホワイトボードのシフト表見たらわかるじゃないですか?」

「つれないなぁ、キミの口から聞きたいんだよ」

「…はぁ、まぁ一応休みではありますけど」



 シフトを変わってくれって言われるような気がして、そんな態度で答えたが先輩は口角を上げながらにんまりと、



「フフッ、じゃあワタシも休みだからさデートしようよ」

「………えっ?」

「つれないなぁ、ソコは『ぜひ行かせて下さい!』って即答するところでしょ?」



 いや、唐突に話しかけられて唐突にデートに誘われればこんな反応にもなるだろうと思いながらも冷静に考えたときに少し嬉しくなっている自分がいる。



「ほら日頃のバイト頑張ってるキミを労おうとしているのだよ」



 えっへん!と腰に手を当てながら慎ましやかな胸を主張するように先輩が言った。


 その日は母の見舞いもなかったし6月に入り中間考査も終わったばかりなので羽を伸ばしたい自分も居た。



「わかりました、予定もないので先輩とデート行きたいです」

「うん!素直でよろしい!デートプランはワタシが考えておくから後で連絡するね」


 そう言うと先輩は仕事に戻って行った。先輩が去っていったあと自分も口角が上がっているのに気付く。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇







 翌々日に先輩から連絡があり日曜の10時に待ち合わせて出掛けることとなった。母にも先輩からデートに誘われた話をしたらとても喜んでくれた。


 デート当日、待ち合わせ場所に行くと先輩はもう来ており、



「レディを待たせるなんてなってないなぁ」



 チッチッチッと指を左右に振る先輩、…いやまだ9時半なんですけどね。

そんなやりとりをしつつも先輩のデートプランを満喫した夕方頃。




「よかったらワタシと付き合ってくれないかな?」

「…えっ」




 頬を赤く染めた先輩が伺うような視線で告白をしてくる。自分もいい雰囲気だなぁと思っていたがまさか最初のデートで先輩から言われるとは思って

いなかったので驚いた表情でいたら、



「つれないなぁ、ソコは『オレも付き合いたいです!好きです先輩!』って即答してくれなきゃ」




 恥ずかしそうに先輩が言ってくる。




「えっと先輩、オレも好きでした付き合って下さい」

「素直でよろしい!これからもよろしくね!」



 先輩のはにかんだ笑顔が赤く染めた頬と合わさって物凄く愛おしく可愛く見えた。自分の胸の高鳴りとともに先輩のことをずっと大事にしようと思った。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






 時が経ち夏休みに入り先輩は受験勉強が本格化してくる、先輩はバイトのシフトも減って来ており勉強·バイトの合間に自分とデートの時間を作ってくれたが明らかに疲れた表情を浮かべる日が多くなっていった。



「先輩、オレとの時間のために無理しないで下さい」

「つれないなぁ、キミと一緒にいられるから勉強もバイトも頑張れるんだよ」

「ならせめてバイトは辞めても…」

「ん~少しでも家にお金入れなきゃだからさぁ」



 先輩から聞いた話では先輩の家は父親が幼い頃に出ていき母親一人で育ててくれたらしく兄弟もいたためそこまで裕福ではなく長女であるためかバイト代を家に入れているとのこと、大学は奨学金を利用すると言っていた。母親一人でというところは自分の家と同じであった。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





 また時が経ち10月頃、先輩が体調を崩し一週間ほど休んだ。自分がこれ以上先輩の負担にはなりたくないと先輩に頼み込んでデートの時間は休んで欲しいとお願いした。バイトはまだ続けていてシフトが同じ日は話す機会があったので体調が戻ってからも顔色が悪くなることもなかったので安心していた。




「先輩、勉強の方はどうですか?」

「む~勉強の話は今はよしてよ〜バイトの時間だけが癒やしなんだからぁ」

「もう少しの辛抱ですから頑張って下さい」

「はぁ~い、ワタシが勉強忙しいからって浮気しちゃダメだぞ」




 そんな他愛も無いやりとりをしつつ会えない日もメッセージでのやり取りはしていたのでお互いの気持ちが冷めることなんてなかったと思う。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






 11月に入って文化祭も終わり受験勉強に本腰を入れ始めた先輩、校内で見かけても図書室で借りたであろう参考書なんかを持ち歩いていた。

 そんなとき、ふと先輩の隣の男子生徒が気になって遠目で見ていた。先輩と仲良さそうに話しながら歩いている。



……



 その日から校内で先輩見かけるたびにその男子生徒も隣に居るのに気付いた。




 その週に久しぶりに先輩とバイトのシフトが重なったのであの男子生徒を聞いてみることにした。




「あぁカレは同じ大学を狙っているから一緒に勉強してるだけだよ、学部とかは違うんだけどね」




 先輩はなんの動揺もなくそう答えた、少しでも浮気を疑った自分が恥ずかしい。




「もしかして嫉妬しちゃった?カワイイなぁもう」




 先輩はそう言いながら頬をツンツンとつついてくる。そんな仕草をする先輩を見て安心した。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






 12月に入った。先輩のバイトのシフトは週に1.2回ぐらいになっていた、店長も受験生の大変さは身を持って知っているらしいので融通を効かせてあげているらしい。校内でも相変わらず先輩と男子生徒が並んでいるのを見かけることがあり少しモヤモヤしたが毎日メッセージのやり取りか電話をしていたのでガマンしていた。




『先輩、クリスマスって空いてますか?』

『モチロン!ちゃんとキミとワタシのために空けてあるに決まってるじゃん!』

『じゃあ久しぶりにデート行きましょう!デートプランはオレが考えるんで』

『オッケ〜、楽しみにしてるね♪』




 電話でそんなやりとりをして久しぶりのデートと勉強疲れを少しでも癒やしてあげたい気持ちで気分が高まり自分はヤル気に満ちていた。




 その週の土曜日に先輩とのデートプランを練るべく出掛けていた時に遠くに先輩の姿を見かけた…その隣には男子生徒も居た。以前は校内でしか見ていなかった光景を外で見てしまい少し動揺したが参考書等を持っているのが見えたため勉強しているのだろうと思ったが溜飲は下がらなかった。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






 今日12月24日、やはり恋人同士はイヴにデートだろうということで先輩とは今日会う約束をしていた。




「先輩、お待たせしました」

「つれないなぁ、カノジョを待たせるなんて今日はいっぱい奢ってもらおう」

「まかして下さい、伊達にシフト大量に入れてないですから」

「冗談冗談、ワタシもちゃんと出すから二人で楽しもう?」

「ハイ、楽しみましょう!」




 久しぶりのデートは物凄く楽しかった、先輩も楽しんでくれたように見える。




「共通テストまで後ひと月ないから二人で遊べるのはコレで最後かも…でもテスト終わったらいっぱいデート出来るからね」

「風邪とか引かないように無理しないでくださいね先輩」

「アリガト、キミも身体には気を付けてね」

「…」

「…」


「…ンッ」



 少しの沈黙の後に先輩とキスをした、流石に受験を控えている先輩とさらにこの先までとは行かずにそこで解散した。

 先輩と触れ合ったことで改めて先輩のことが好きになっていた。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





 1月に入り正月はお互いに電話でおめでとうを言い合った。この頃になると入院していた母も退院して仕事に復帰しようとしていてバイトのシフトも減らし母の手伝いしていた。そんな平日の学校帰りに街中で先輩を見かけた、3年生は年明けは登校する生徒少なく皆受験勉強等を行っていた。…隣には男子生徒、もう来週には共通テストがある最後の追い込みなのだろうかしかし二人の顔はそういった緊張よりも笑顔が見える。

 先輩に話しかけたかったが男子生徒とは面識もなかったし先輩には勉強に集中してもらいたかったのでその場をあとにして家に帰った。


 このとき先輩に声をかけていればもしかすると別の未来があったかもしれないなんて思いもしなかった……この日先輩とはメッセージも電話も連絡がつかなかった……






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






 1月も下旬になり先輩のテストも終わり先輩と連絡を取ってデートすることになった。電話でテストの結果はどうだったか聞いたところバッチリだったらしく嬉しそうに答えてくれた。次の土曜日にデートの約束をして電話を切った。




「デート楽しかったね、開放感からか凄く楽しかった♪」

「オレも楽しかったです、また行きましょう」



ピコン♪



 先輩のバックからメッセージの通知の音が聴こえる。先輩がゴメンねと言いながらメッセージを確認するとこのあと用事が出来てしまったというのでそこで別れた。二人のデートに水を差されたと思ったがスグに次のデートの日が来ると思いそこまて気にしなかった。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






 2月に入り3年生の登校者数は少ない、先輩も勉強から開放された反動か登校はしていなかった。

 そして平日の帰り道、遠くで先輩を見かけた………隣には男子生徒。自分は一瞬息が出来なかった、テストは終わり打ち上げにしては時間が経っている、手には参考書なんて持っていない…なんならお互い手を繋いでいる。



 鼓動が速くなる、その場で立っている感覚もなくなっている、考えがまとまらない……が、考えがまとまらないまでもなんとか足を動かし二人の前に歩みを進める。






「…先輩?」





「…えっ?」

「誰?」




 隣にいた男子生徒が先輩に尋ねる。この人とは面識がなかったからカレは自分のことを知らない。





「……ワタシの彼氏…」

「あっ」




 隣にいた男子生徒がバツのワルそうな顔に変わる。





「…」

「…」

「…」




 3人とも無言が続くがようやく自意識がまとまりだし先輩に聞きたいことをなんとか言葉にしようとする。





「えっーと、先輩…浮気したんですか?」





 先輩は動揺した表情を浮かべてから俯いて喋らない。




「…キミは2年の後輩君だったよね?ゴメン、彼女と付き合ってたのは知ってたんだけど年明けに別れたって聞いて俺から告白して付き合い出したんだけど」





 黙っていた先輩に見かねて隣の男子生徒が自分の知りたかったものを答えてくれた。…なぜ自分とは別れたことになっているのかはまだわからないが、





「…ゴメン…な…さい、ワタシが…悪かったの」




 涙声で先輩は俯きながらそう答える。




「…カレと一緒に勉強してて同じところを目指すのが楽しくて一緒にいるのも嬉しくて、…でもキミのことも大好きで…」




 先輩の言っていることが理解出来なかった。いや理解は出来たが受け入れられなかった。それは自分もそうだし一般的にも受け入れることなんて出来ないことだったのだから。





「先輩、それは選んじゃダメなやつですよ。ちょっとオレには無理です」




 もうこの場に立ち止まるのは無理だった、何とか言葉を作ったがやっぱり考えがまとまらない。振り返ってその場を逃げ出した。情けないと言われてもしょうがない、こんな初体験をまともな状態でいられるやつがおかしい。



 その日はバイトもなかったし精神的に疲れたのでそのまま寝た、母が何か察したようではあったが無視をした。







◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






 3月に入った、あの後先輩からの連絡はあったが受け取ることが出来なかった。バイトもシフトをズラして会うのを避けた。母には彼女と別れたと伝えたら悲しそうな顔をされた、まだ会わせる前で良かったと思う。


 祖父の知り合いから男手が欲しいと母に連絡があったらしい。今のバイトを辞めるには都合が良かったので母に連絡を取ってもらってそちらのバイトをすることにした。







 卒業式の日、靴箱に手紙が入っていた。先輩からの手紙だった。


 中身は謝罪から始まり、自分を傷付けてしまったこと、当時の先輩の気持ち、直接会って話したかったが会ってくれないだろうと思い手紙にしたこと等が書かれていて最後に“今までありがとう”と“本当にごめんなさい”で締められていた。


 手紙を読んで先輩に会いたい気持ちが溢れ校内を探せば最後に先輩に会えるかもしれなかったが身体がそうさせてはくれなかった次いで思考も止まってしまう、会って何を話せばいいのだろうと…


 ……それでもこの一年間の思い出は簡単には消えてはくれない、まだオレは17の高2だ大人ぶって思い出を引き出しにしまうには早いかもしれない。





……ようやく動いた足を前に出す!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






拙い作品を読んで頂きありがとう御座います。

このあとどうなるかは読者様に委ねたいと思いますので甘々にするのかざまぁにするのかは個人でお楽しみ下さいm(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

先輩 @HAL-shion

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ