第5話 奏多、第一種目を観戦する

 第一種目救出RTA

 一人で挑むこの競技は、ダンジョン最下層に捕らえられている委員会の社員を誰が早く救出できるかを競う。

 探検家同士の妨害ありだがスキルの使用は禁止となっている。


 スキルが禁止ということは純粋な戦闘技術が勝敗を左右するということ。


「それじゃあ。行ってくるわね」


 第一種目は真奈美さんが出場することになった。


「真奈美さん、あまり無理はしないでください」

「あら? 奏多くん、心配してくれるの?」

「そりゃあだって、怪我でもされたら困りますから……」


 真奈美さんは日本を代表する探検家と言ってもいい。

 なにせ委員会や政府から直々に依頼を言い渡されてるわけだから。


 もし怪我でもされたら俺に責任が来そうで怖い……。


「うふふ、心配しすぎよ。必ずいい結果を持ってくるわ」


 相変わらず頼もしい。


「真奈美さん、頑張ってください!」

「ここで応援してます……!」


 芽衣と暗女も心配そうな目で見つめる。


「それじゃあ行ってくるわ」


 真奈美さんの姿が一瞬にして目の前から消える。

 委員会の人のスキルか。

 たぶんダンジョンへ転送されたんだろう。


『それではスタートです!』


 俺ら三人はモニターで真奈美さんを見守る。


「真奈美さん大丈夫でしょうか」

「心配だよね……」


 芽衣と暗女が心配そうにモニターを見つめている。


「大丈夫。真奈美さんは強いから」


 俺は自信に満ちた声色で答えた。


◆ ◆ ◆


 テレポートスキルによって、とあるダンジョンに転移した真奈美。

 そこには何百万人という探検家がすでに真剣な眼差しで立っていた。


「イヒヒ。楽しみですねー」


 偶然隣に霧切美鈴が口に手を当てながら不敵に笑っていた。


「あら? 霧切ちゃん。奇遇ね」

「げっ! 真奈美か……これじゃライバルが一人増えたな」

「てっきりシャルルちゃんが出るのかと思ってたけど、違うのね」

「シャルルは走るのが嫌だって言うから仕方なく……」


 霧切は嫌そうな顔を浮かべながら喋り続けた。


「っていうか、真奈美はどうしてあんなやつらのためにこのイベントに参加したわけ? あんたにとってメリットないでしょ」

「そんなことないわよ。可愛い後輩たちに頼まれたら断れないじゃない。それに温泉旅行行きたいし……」

「あんたってつくづくお人よしよね。あーいやだいやだ、寒気してくるんですけど~」


 すると霧切は明暗を思いついたかのように話題を変えた。


「そうだ! 今回あんたと私、どっちが先に救出できるか勝負するのはどう?」

「あら? 面白そうね」

「イヒヒ。それじゃあ決まりね」


『それでは探検家の皆さん準備は宜しいですか?』


 探検家一同が息をのむ。


 ――そして。


『スタート!!』


 数万人の探検家が一斉にスタートをきる。

 だが、広いダンジョンとはいえ、数万人もの人が集められれば中々前には進まない。

 まるで某有名遊園地の入場前みたいだ。


 そして、スタートから数分弱……。


「な、なに!?」


 突如、重力を失いながら落下する。

 どうやら落とし穴に引っかかったらしい。


『説明し忘れましたが、数々の妨害を用意しているので――』


「うわあああああああああああああああああああああああああああああ」

「なんだああ??」

「ぎゃあああああああああ」


『進む際はご注意を――』


 まったく委員会も意地悪だわ。

 このままじゃまずいわね。


「幸い壁と壁の間隔は遠くない。これなら」


 真奈美は、冷静に状況を分析したあと。

 壁と壁を蹴り上げながら上へと目指していく。


 周りを見ると、突然の出来事で癖でスキルを使ってしまうものや

 戦意喪失してしまっているものが数多くいた。


 今の落とし穴だけで一体何人が脱落したのだろう。


『92番、78番、1987番、409番、失格――』


 失格の番号が無慈悲に告げられ、脱落者が強制的にテレポートされていく。

 恐らく会場に戻されるようになっているのだろう。


「急がなくちゃね」

 

 なんとか落とし穴を抜けた真奈美は、最下層へ向けて駆け抜けてゆく。

 ざっと周りを見た感じ、数百人があの落とし穴を抜けたようだ。


 幸い。脚の速さには自信がある。

 また罠があるかもしれない。周りに気を付けながら――


『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ』


 突如、大きな地響きが全身を伝う。


「次はなにかしら……」


 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオ


 地面から超大型のタイラントワームが現れた。タイラントワームはSSランクのモンスターだ。

 長い芋虫のような身体が特徴的で、尻尾による攻撃が主。魔法や呪術など特殊な攻撃はしてこないが、大型モンスターのため討伐するのは至難。


「うわああああああああああ」

「き、きけんする!!!!!!」

「こんなのやってられない!!!」

「もうだめだあああああああ」


 タイラントワームの出現によって探検家がこぞって棄権を宣言する。

 まさかこんなモンスターまで出てくるとは……委員会はいったい何を考えているのかしら。


「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ」


 長い尻尾で攻撃をしてくるタイラントワーム。なんとか跳躍でかわしたが、いまの一振りで数百人ほどの探検家が戦闘不能になった。

 やっかいだわ。超大型級のモンスターを倒すにはスキルが必須。

 このタイラントワームを身体能力だけで倒すのはほぼ不可能に近い……。


「うふふ、私らしくないわね……」


 真奈美は微笑する。

 私らしくないわ。こんなピンチなんだってない。


「可愛い後輩たちが見てるんだから、情けないところなんか見せれないわ」


 私の存在に気づいたタイラントワームは大きな音を立てながら向かってくる。


「死刑執行の時間ね」


 真奈美は背中に携えた鎌を手に取り、タイラントワームに向かってゆくのだった。

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