第6話 奏多、デートする

◆ ◆ ◆


 一方その頃、とあるダンジョンにて――

 三人の探検家が一人の男と対峙していた。


「う、動きが見えない!」

「一体何者だ!?」

「木村さん! ここは一旦引いた方が!」


 忍刀を携えたある男は目にも止まらなぬ速さで探検家たちを翻弄する。


「「「ぐわぁあああああああああああああ」」」


 探検家たちが攻撃を受け、一斉に床に伏す。

 そして、ある男が不敵な笑みを浮かべながら口を開いた。


「ふふふっ、俺のスピードに付いてこれないのか。Sランクの探検家ともあろうものが情けない」

「お前……一体何者だ……」

「俺の名前か? ふんっ、貴様みたいな雑魚に名乗る名前などない……だが、そうだな……」


 男は考えたそぶりをしたあとこう告げた


「『探検家狩りのストーム』とでも名乗っておこう」

「何が目的なんだ……」

「俺の目的はただ一つ……強者と戦うこと、ただそれだけだ」


 男は忍刀を懐にしまい呟いた。


「貴様らみたいな雑魚と戦っても高揚感は味わえない。次の相手はやはりこいつしかいないか……」


 ある男は写真を見ながら不敵な笑みを浮かべた。


「次は貴様の番だ、北村奏多――」


◆ ◆ ◆


「ん~~~~!」


 背伸びをしながらスマホの時刻を見る。

 そして一気に罪悪感が芽生える。さすがに寝すぎた。


「高橋でも誘って飲みにでも行くか……」


 そんなことを考えているとスマホの通知音が部屋に響く。

 芽衣からだ。


『奏多さん! こんにちは! よかったら、一緒にお買い物に行きませんか!』


 というお誘いのメッセージが来ていた。

 用事もないしな……。遊びに行くか。

 返信をしようとしたその時、またもや通知音。


『良かったら一緒にダンジョンに潜りませんか? 戦闘についていろいろアドバイスをいただきたいんですが』


 連絡の主は暗女からだった。


「究極の選択だなこれ……」


 暗女とダンジョンに潜るということは配信に映る可能性がある。

 そうなると芽衣の約束を断ったことに対して色々言われる可能性が……。


「うーんどうしたもんか……」


 いや、待てよ……芽衣と暗女はたしか同い年だったはず。

 それなら二人を会わせてみてもいいかもしれない。お互い探検家だし。

 前に配信を始めてみたいって芽衣も言ってたし、暗女と合わせることでいい刺激に……。


「よしっ、ここは二人を引き合わせよう」


 そうと決まった俺は、芽衣に返信を送る。


『俺もちょうど芽衣に会いたかったところ』


 返信したあとにすぐさま既読が付いた。


『本当ですか! 嬉しいです♡たくさんお洒落していきますね!』


 ハートマークの絵文字と可愛いスタンプの返信が来た。

 女の子らしい。


『買い物した後にダンジョンに潜らないか?』

『もちろんです! それじゃあ楽しみにしてます~!』


 これでよし。暗女には……。


『俺も暗女に会いたかったところだよ』


 先ほど芽衣に送ったのと同じ内容を送る。

 すると、すぐさま既読が付いた。


『本当ですか……! 実は私もなんです。最近ずっと奏多さんのことばかり考えるようになってしまって……』

『それはよかった。ダンジョンに潜る前に買い物したいんだけどいいか?』

『全然大丈夫です! 楽しみにしてますね!』


 暗女からも可愛いスタンプの返信が送られてきた。

 一応、二人が合うことは秘密にしておこう。


 さぁてどんな反応するだろうか。


◆ ◆ ◆


 ――渋谷駅前。

 天気は晴れ、まさにお出かけ日和。


『代々木のダンジョンにて、探検家狩りが出没。Sランクの探検家三人が襲われました――』


 電光掲示板には今日起こった事件について流れていた。


「荒らしの次は探検家狩りか……まったく物騒な世の中だなぁ」


 そんなことを考えていると……。


「奏多さーん!」


 遠くから俺を呼ぶ快活で可愛らしい声。芽衣だ。


 ミニスカートに身を包み、髪はいつもよりカールがかかっている。最初に会った時よりも露出が多く、目のやり場に困る……。


「えへへ、今日の服装どうですか?」

「あぁ、すごく可愛いよ」


 素直な感想を言う。

 芽衣はモデル並みにスタイルがいいから何を着ても映える。


「奏多さんも、カッコいいですよ! カジュアルって感じですね」

「ありがとう」


 良かった……。

 前に高橋にダサいって言われてから、オシャレには気を遣うようになった。


「そういえば、私、チャンネルを作ったんです! まだ配信はしてないんですが、良かったら登録お願いします!」

「とうとう、芽衣も配信デビューか!」

「はい! 配信するってお父さんに言ったら、『変な男が寄ってくるからだめだ!』って最初は断られたんですけど、なんとか説得しました!」


 あの人本当に親バカだな……。


「良かったな。お互い頑張っていこうな」

「はいっ! それじゃあ、行きましょう♪」


 笑顔で俺の手を引こうとする芽衣。

 まだここを離れるわけにはいかない……。


「奏多さーん!」


 その時、後ろから見知った声。


「あの……おっ、遅れてすみません……」


 暗女だ。

 黒いレースのワンピースを身にまとっていた。いつもと違い大人っぽい印象だ。とても可愛らしい。


 俺との距離が近づくにつれて、芽衣の存在に気づく……。


「「あっ! 配信に出てた人!」


 二人は状況を理解した後。鋭い目がこちらに向く。


「むー! 二人きりじゃなかったんですか?」

「か、奏多さん! は、はなしと違いますよ!」


 むくっと膨れる芽衣と不満な様子の暗女。


「あー説明しなくて悪かった。二人は同い年だし仲良くなれるかなーっと思ってさ……あはは」


 理由わけを説明するが、二人はあんまり納得していない様子。

 あれ? もしかして、俺やっちゃった……?


 そんなこんなで俺たち三人のお出かけは幕を開けた。

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