第5話 奏多、サポートされる

『ガガガガガガガガガ』

『ギギギギギギギギギ』

『グググググググググ』


 モンスターは俺の周りをふわりふわりと浮遊しながら俺の出方を窺っている。

 不気味だ。


 真奈美さんも疲れてることだし。すぐ終わらせるとしよう。


『剣技――――疾風斬しっぷうざん


 三体めがけて同時に斬撃をくりだす。

 しかし、その攻撃を黒いマントをすり抜けた。


『ガガガガガガガガガ』

『ギギギギギギギギギ』

『グググググググググ』


 どうやら無傷らしい。どういうことだ……。


"奏多の斬撃が効かない!?"

"今までそんなことなかったのに……!"

"これもしかしてやばい?"

"どうすんのこれ?"

"まずいぞ!奏多が負けるやつ?"


 冷静に分析する。斬撃無効のデバブか? いやそれはないな。

 身体に特に異常はないし。


 次に俺は雷撃魔法を三体目がけて放つ。


 ――すると


『ググッ!?』


 敵一体に効果があったようだ。だけど他の二体は無傷……。


 なら、まずはこいつから!


現実化リアライズ――――雷華らいが


 俺は、雷の最上級魔法を敵一体に目がけて放つ。だが……。


『グググググググググ』


 無傷。先ほどは効いていたはずだが……。

 うーん。これで考えられるのは――


「そのモンスターはそれぞれ弱点が違う可能性があるわ。しかもやっかいなことに弱点が変わっていくみたいね」


 後ろで見ていた真奈美さんが口を開いた。


「そうですね。今の攻撃を見る限りそうとしか考えられないです」


 そうなるとかなりやっかりだ。

 弱点が変わっていくならそれを見極めつつ一瞬で倒す必要がある。


「やるか……」


 現実化リアライズの能力を発動しようとした次の瞬間――


「ここは私のスキルの出番のようね」


 真奈美さんがポツリと呟いた。


「真奈美さん?」

「サポートは任せてって言ったでしょう? さぁ、ちゃっちゃと終わらせちゃいましょう」


 真奈美さんは片目に手をやり、意識を集中し唱えた。


「デテクト――――」


 真奈美さんは不敵な笑みを浮かべながらモンスターを見据える。


「見えるわ。あのモンスターの弱点が……くっきりね」


 真奈美さんのスキルは、相手の弱点をみやぶる能力。デテクト。この世に存在する生き物全てが効果の対象だ。真奈美さんは前線を張ることも多いがスキルを使ってのサポートもできる。


「奏多くん、準備はいいかしら?」

「はい!」

「右にいる敵は氷結魔法が弱点よ!」


 俺はすぐさま氷結魔法を現実化リアライズしそれを剣にまとう。


『剣技――――氷刃ひょうじん


 氷結魔法を乗せた斬撃をモンスター目がけて繰り出す。


『ギィィ!?』


 斬撃のスピードを見切れなかったモンスターは攻撃をもろに食らう。

 すると、効果があったのか、跡形もなく消滅した。


「左にいる敵は炎魔法が弱点よ! いけるかしら?」

「もちろんです!」


 俺はすぐさま体制を立て直し、次の攻撃にうつる。

 ――その間、0.1秒。


『剣技――――紅蓮ぐれん


 先ほどまとっていた氷結魔法を解き、炎魔法を剣にまとい放つ。


『ガィィ!?』


 先ほどと同様に斬撃を喰らったモンスターは跡形もなく消滅した。

 これで、残りはあと一体。


『ググググググググ!!』

「最後は……雷魔法と光魔法を二つの弱点をもっているわ」


 弱点が二つか……やっかいだな。

 だけど――


『剣技――――風来坊ふうらいぼう

『剣技――――光輝こうき


 一つは風魔法を乗せた斬撃。

 二つは光魔法を乗せた斬撃。


 俺は音速を超えるスピードでクロスさせて放った。


『グィィ……ィグ』


 斬撃をもろに食らったモンスターは跡形もなく消滅した。

 魔法を剣に纏うこと自体初めてやったけど意外とうまくいったな。今度から積極的に使っていこう。


「素晴らしかったわ奏多くん、私、見直しちゃった」


 後ろでサポートしていた真奈美さんが笑顔で拍手をする。


「いえっ、真奈美さんが弱点を教えてくれたおかげですよ」

「あら、年下に褒められるのも悪くないわね。うふふ」


 真奈美さんはクスリと笑った。


"真奈美さんのスキルつええええ"

"俺の弱点も見てほしい"

"変態いて草"

"奏多との相性抜群だよなこれ"

"真奈美さんもしかして照れてる?"

"斬撃に魔法纏うとか規格外すぎ"

"毎回ちゃんと斬撃の技考えてると思うとちょっとシュール"


 配信画面を見ると同接一千万人を突破していた。

 真奈美さん効果絶大だ。


「委員会に報告しないといけないし、そろそろ帰りましょうか」

「そうですね」


 俺はスマホを手に取り、視聴者に向けてあいさつをする。


「それでは配信はこれで終わりにします。観てくれてありがとう!」

「うふふ、私からもありがとう~」


 真奈美さんも視聴者に向かって手を振る。

 ファンサービスも怠らない。さすがだ。


"手を振る真奈美さん素敵だ"

"おば……いや、お姉さん最高!"

"悪魔の執行人がいまあなたの後ろに!"

"こわっ!"

"今回の配信も面白かったぞ!また来るぞ~!"

"また真奈美さん出てくれないかな"


 今回の配信も盛り上がったみたいでよかった

 俺は配信停止ボタンを押してダンジョンを後にした。


◆ ◆ ◆


 ダンジョンを出る頃には陽が沈んでいた。

 原宿はいまだ静寂に包まれている。


「私が委員会に報告しておくわ。奏多くんは帰っちゃっていいわよ」

「いいんですか?」

「ちょうど委員会に寄る用事があってね。そのついでよ」


 真奈美さんは微笑を浮かべた。

 恐らくまだ仕事があるのだろう。SSランク探検家は大変だ。


「それにしても。さっきの奏多くんカッコ良かったわよ♡」


 先ほどの頼れるお姉さんとは違い妖艶な表情を浮かべ、身体密着してくる真奈美さん。


「えっ! 真奈美さん! ちょっとこんなところで……」


 柔らかいものがあたっていて変なことばかり考えてしまう……。


「あら? 緊張してるの? 誰も見てないからいいじゃない♡」

「いやっ、そういうわけには……」

「もしかして、年上は苦手かしら?」

「いえ! 年上は大好きですが……その……」


 こういうのに慣れてないのでその場でどぎまぎする。


「うふふ、少しからかってみただけよ。また今度二人っきりでゆっくり飲みましょうね」


 身体を離し真奈美さんは笑顔を浮かべる。

 ものすごく緊張するからやめてほしい……。


「それじゃあ。またね奏多くん、また会いましょう♡」


 真奈美さんは笑顔で投げキッスをし、原宿の街へ颯爽と消えていった……。


「大人の女性っていろんな意味ですげーな」


 お姉さん探検家の凄さを知った一日だった。

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