第8話 奏多、脱出する

 食事を終え、師匠との出会いを離した後、

 俺たちはここから脱出する方法を考えていた。


「私、いい方法を思いつきました! このアイテムで脱出するというのはどうでしょう?」


 芽衣が唐突に声をあげた。

 その手には“テレポートリング”


 たしか、ダンジョンの出口付近にワープしてくれるという優れモノだ。

 ショップで買うとかなり高かったはず。


「たしかにそのアイテムは便利だけど、ダンジョンの構造が変わった今、出口が塞がれている可能性があるから使いたくはないかなぁ。岩の間と間にワープして、身体がぐちゃぐちゃになる可能性もあるから……」

「そ、それもそうです……」


 俺だけ脱出して後で助けを呼ぶという手もあるが、Sランク以上のモンスターがわんさかいるところに置いていくわけにはいかない。

 本当は助けを呼ぶのがセオリーなんだけど、心配している本部長の元へいちはやく芽衣を届ける必要がある。それに高橋との約束もあるしな。


「あれしかないか」

「奏多さん? 何かいい方法を思いついたんですか?」


 俺は意を決して芽衣に脱出方法を告げた。


「天井を突き破る」

「えっ?」


"なにいってんの?"

"スキルの使い過ぎで頭おかしくなったのかも"

"脳筋すぎて草"

"芽衣ちゃんもぽかんってしてる"


「ダンジョンは地下に出来てる。だから上に進めば必ず出口に辿りつくってことだ」

「理屈はそうですけど、でもそんなこと可能なんですか?」

「大丈夫、任せて」


 俺は先ほどと同様に

 芽衣をお姫様抱っこする。


「きゃっ! か、カナタさん!?」

「ごめん。落ちたら危ないから少しの間だけ我慢してて」

「あっ、いえ……私、嬉しいです……」

「えっ、よく聞こえなかった」

「な、なんでもないです! さぁ! 脱出しましょう!」


 芽衣は顔を真っ赤にして、俺の首元へ手を絡ませてくる。香水の匂いが鼻を通る。

 俺は雑念を振り払い。意識を天井へと向ける。


「それじゃあ、行くぞ」


 拳を突き上げ。

 勢いよく天井に向かって飛躍した。ものすごいスピードで天井の岩が割かれる。


「す、すごい! もう下が見えないです!」


"マジで天井を突き破ってる"

"これは芽衣ちゃんの可愛さのおかげだな!"

"お姫様抱っこしながら天井を突き破るのシュールすぎるw"

"HERO!! HERO!!"

"海外二キも駆けつけてるな"

"突き破るポーズがヒーローみたいだからかw"


 天井を突き破ること数分で、ひらけた場所へ到着。


「あっ! あそこに出口がありますよ!」


 ――突き破ること数分で出口前に出た。

 芽衣を助けたのが中層あたりだから、かなり構造が変わっていたんだな。


 俺はスマホに向かって笑顔で手を振る。


「今日もご視聴ありがとうございました~。これにて配信は終了します!」


 配信の終了ボタンを押し、芽衣を抱きかかえながら出口に向かう。


「これで任務成功――」


 と、安堵したその時。


「きたきた! 奏多だ!」

「きゃああ! 本物だ!」

「すげぇぞ! 奏多!」

「かっこいい~!」

「配信観てたぞ!」

「私、ファンなんです! サインと握手してくださ~い」

「本物の奏多だ! 写真写真!」


 外に出ると、そこには沢山の人で溢れかえっていた。


「ど、どうしてこんな?」


 俺はふと、ダンジョンに入る前のことを思い出した。

 そういえば、上野のダンジョンにいると配信で公言してしまったんだった。


 そこにはマスコミの姿もある。

 俺は無理やり笑顔を作り手を振る。


「か、奏多さん……」

「どうした?」


 芽衣が先ほどから頬を真っ赤にしている。

 熱でもあるんだろうか。


「この格好……」

「えっ?」

「みんなに撮られちゃってます……」


 芽衣に言われ瞬時に理解する。

 女の子をお姫様抱っこしているこの様子が世に出回ってしまう恐れがある。

 

 それはまずい……。よからぬ噂を立てられるに違いない。

 この様子が本部長にでも見られれば、なんて言われるか……。


「あはは、チャ、チャンネル登録お願いしまーす!」


 俺は駆け付けた視聴者へそう告げ、芽衣を抱きかかえながら、ビルとビルの間を駆け抜け委員会を目指した。

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