サヤと僕

それからサヤが家に来ることは無かった。

翌日、レンタルファミリーの社長から電話があり、サヤの登録抹消とそれに伴い派遣が不可となったことに対するお詫びを聞かされた。

それに対して特に何か思うところは無かったので、丁寧にこれまでのサヤの働きに対するお礼を伝え、終わった。


それからの僕は変わらずに日々を過ごした。

想像以上に空虚感や寂しさを感じなかったのでホッとした。

きっとサヤが与えてくれた「みーちゃん」との日々で、良い具合に自分の中でみーちゃんへの思いを成仏させられたのだろう。

せめてそのお礼を言いたかった。

それだけが悔いではあった。

サヤがどう言おうが、彼女のお陰で救われた。

彼女の生み出したみーちゃんは、時に生前のみーちゃんと異なる魅力を持っていた。

それにいつしか僕は魅了されて居たのかも知れない。

「みーちゃんは、あんなヒステリーを起こさないよ・・・」

僕はそうつぶやいて苦笑いを浮かべた。

季節は12月。

もうすぐクリスマスか・・・

こんな時期に無職とは自分も何を考えているのか。

そう、僕は先週会社を退職したのだ。

そして今から新しい環境で再スタートを切ろうと思っている。

もっともまだ面接すら受けてないが。


サヤとの一件以降、頭の中である気持ちがうっすらと形を取り始めていた。

自分はこれからどう生きるか。

どう生きれば天国のみーちゃんは喜んでくれるだろう。

サヤとの日々に意味を持たせられるだろう。

それをぼんやり考え続け、ある答えに行き着いた。

そう思いながら歩いていると、目指す建物が見えてきた。

さて、行くか。

みーちゃん、パパに力を貸してくれないか。


翌年3月の正午。

僕は寒さを避けるため、ライダーズジャケットの僅かに開いたファスナーを首元ギリギリまで上げたが、焼け石に水と言う奴だった。

もうすぐ4月とは思えないほどの冷たい風だ。

その時、携帯が鳴ったので慌てて出る。

社長からだった。

「あ、江口君。お疲れ様。仕事は問題なし?」

「大丈夫です。特にご不満も聞かれること無く終了しました」

「なら良かった。じゃあ終わったばかりで悪いけど急ぎで戻ってきて。急遽あなたにご指名入ってるから」

「了解しました。すぐに戻ります」

「ゴメンね。お客様、明日を希望してるの」

「え!急ですね」

「うん・・・まあね」

社長のどこか言葉を濁した感じが気になったがとにかく戻ることにした。

「ご期待に添えるよう頑張ります」

「お願いね。なにせ我が『レンタルファミリー』は、スタッフの信用が全てだから」

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