第26話 それぞれの行く末

フレデリックは一連の王太子暗殺未遂の混乱の責任をとって王国歴453年に退位し、かつて母ドロテアが住んでいた離宮に侍女ダニエラなどごく少数の使用人を伴って蟄居した。退位後、フレデリックはすぐにヘルミネと離婚した。ダニエラとは徐々に距離を縮めたが、息子が前妻との離婚のために近づけた真相を知って一時ギクシャクしたが、復縁し、数年後ひっそりと彼女と再婚して静かな余生を送った。


ヘルミネは、離婚後、王宮の塔から修道女だけで生活する修道院に送られた。その質素な生活に不満を抱き、ソヌスの王家の両親や兄姉を頼ろうとしたが、祖国は革命の騒乱でそれどころではなく、亡命は叶わなかった。愛人のアンドレに裏切られ、溺愛されていると信じていた夫や元護衛騎士オリヴィエに見捨てられて精神的に大きな打撃を受け、修道院の厳しい環境にも慣れることができず、ヘルミネは次第に気が触れて最後には自分の名前すら分からなくなってしまった。


フレデリックの異母弟アウグストは王位継承権を喪失しただけでなく、爵位と領地も返上、戒律の厳しいと有名な修道士だけの修道院で生涯過ごすことになった。


フレデリック退位のすぐ後にジークフリートは即位し、アマーリエと結婚した。大々的な式典は行わず、教会で身内と高官だけで戴冠式と結婚式を行った。


即位後のジークフリートは危うい政治の舵取りを強いられた。貴族出身の議員が占める議会と革命派の意見が乖離していて仲裁が難しい。しかし両者の主張の中間を取ることに成功し、平民の構成する衆議院と貴族の構成する貴族院の両院制と一定以上の納税額を条件とした制限選挙が導入された。


初の選挙後、憲法が制定されて立憲君主制が取り入れられ、ジークフリートは名目上の君主権のみを保有することになった。それと共に多くの王家の財産が国に寄付されて売却され、王宮の一部が見学料と引き換えに一般開放された。それらの利益は国庫に入れられ、食糧輸入にも一役買った。売却財産には、あのバウアーリンクの館も含まれていたが、フレデリックの住む離宮は売却されなかった。


こうして平静を取り戻したアレンスブルク王国は、ソヌス王国に併合されずに済んだ。だがソヌス王国では、女子大生アメリーの知っていた通り、革命が起きて王族は処刑され、多くの貴族も命と財産を失った。


革命からしばらくして行われた選挙の結果、ソヌス共和国の初代大統領に就任したのは、アンドレ・ロレーヌという男だった。アレンスブルク王国は、アンドレを犯罪人として引き渡すようにソヌス共和国に要求したが、一笑に付された。アンドレは二度とアレンスブルク国内に立ち入らなかったので、捕縛されることは一生なかった。

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