もしも世界を終わらせるなら

堕なの。

もしも世界を終わらせるなら

 仕事終わり帰宅中、憂鬱な気分で空を見上げた。そこにはいくつかの星が浮かんでいた。田舎の方に行けば美しく壮大な景色が見られるのかもしれない。だがここは都会でたくさんのネオンが煌びやかに主張する街だ。そんな強い光を前に尊い自然の光は淘汰されてしまう。

 それでも、大きな隈ができた目で僅かの星を眺めるだけでも心が落ち着く気がするから不思議である。

 なぜか涙が零れた。ビルの間から見える四角形の空に、慰められたような心地を覚える。

 もしも空の闇が膨らんで世界中を飲み込んだら、この世界の全てのものは一つになるのだろうか。金持ちも、貧乏人も、お年寄りも、赤ん坊も、権力者も、一般人も。自分も。全てが溶けて混ざりあって一つになってしまえば良いと思った。もしくは、全てが星の光に焼かれるでもいい。むしろその方が良いかもしれない。その光景はさぞかし綺麗だろうから。たった数個の星に心動かされてしまうのだから。もし大きく輝く綺麗な星が全てを無にしてくれるのなら、それ以上に幸せなことはないだろう。

 頭の中に思い描いてみた。人の全てが溶け合って、上も下もない透明な世界で生きること。そこは柔らかくて暖かくて、寂しくなることなどないのだろう。どんな人間にも優しくしていて憎しみも怒りも何もない世界。それはとても幸せで、つまらない世界だろう。苦しさや辛さがあるから人は幸福を感じられる。

 ああ、それでもそんな世界がいい。マイナスとプラスがバランスよくあるから人は幸せなのだ。マイナスだけの人生に居るくらいなら、プラスだけの人生の方がまだマシだ。

 手を胸の前で組んで、流れ星に祈った。

「どうかこの世界を終わらせてください どうかこの世界を終わらせてください どうかこの世界を終わらせてください」

 そしてその星は目が痛いほどの強い光を放って、

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

もしも世界を終わらせるなら 堕なの。 @danano

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説