第7話 バカでも風邪をひく

 身体中に熱を帯び、心臓の鼓動が全身に巡った。この感覚……ついに僕は恋をしてしまったのか。

 そうだきっとそうに違いない、

 僕は燃えるように暑くなった体はだるさを感じさせ、死に目を彷徨っている気分だ。


 僕は知っているこれは恋なんかじゃない、この否定は直感とか誤魔化しているわけではない。

 僕がこのような状態になっている明確な事実があるからだ。

 事実とは……

 恥ずかしながら僕は“風邪”をひいてしまったのだ。

 原因は分かっている、雨の日に傘もささずワイシャツ一つでトボトボ下校したからだ。だが僕は後悔はしていない!! なんたって君塚さんと下校の約束をすることができたからだ。

 

 優樹が僕の部屋に水に浸けたタオルと体温計を持ってきた。僕は体温計を脇に挟んだ。体温計のピピピという合図を聞くと僕は体温計の温度を見た。

 38.9度、思ったより熱がある。


 「学校には欠席って伝えといたから」

 「ありがとう、お姉ちゃん」

 「はいはい、もうそれ言われすぎて慣れた」


 どうやら僕のお姉ちゃん攻撃はもう効果を失ってしまったようだ。どこかつまらない気分になった。


 「私も今日、仕事やすもっかな」

 「僕のことは心配しなくても大丈夫だよ」

 「べ、別に優磨のことが心配なわけじゃないし」

 「じゃあなんで?」

 「え、えっと……」

 「なんで? なんで?」

 「……えーっと」

 「どうして“お姉ちゃん”?」


 優樹は僕の激しい質問攻めとお姉ちゃんという単語が決め手になり、顔を赤面させた。どうやら僕のお姉ちゃん攻撃はまだ健在のようだ。これからも使っていくことにした。

 

 「わかったよ、今日は午後から行く。でも午前中はいるぞ流石に病気の“弟”を置いてけぼりにするわけにはいかない」


 優磨は弟という馴染みのない単語に一瞬間を置いたが、意味を理解すると優樹と同じように赤面させた。

 確かにこれはいざ言われてみると恥ずかしいものだ。


 「やり返しだ」

 「もう知らない!」


 優磨は布団に潜り込んだ。彼は拗ねている。それと同時に優磨は心地よさを感じていた。

 学校では優磨は友達の前では現してはいるが、本性を隠しているそれは学校生活をより楽しくするために必要なことだと優磨は考えている、しかしそれは優磨を疲れさせるものでもあった。そのため優樹といる時はありのままの自分が出せて優磨にとってラフな空間になるのだ。


 結局いつも一緒にいてくれたのは優樹なんだよな。小さな頃だって、小学生に上がった時だって、中学生で厨二病拗らせていた時だって、もちろん高校の短い間も。そして動きも話もしない僕が死んでいる長い約9年間だって、今だって。

 そう思いながら僕は眠りについた。



〜〜〜〜〜〜



 今から約19年前当時6歳。出会いはそこからだった。


 「優樹って男の子かよ」


 女子にも劣らない高音の声で生意気な男子が周りに聞こえるように言った。

 すると他の男子が、


 「髪も短くて服装も男子で気持ち悪いんだよ」


 こういうことなんてしょっちゅうある、見てる人は誰も助けてなんかくれない。私もそれを期待しているわけでもない。


 「うるさい」


 私はそういい、男子たちを睨みつけた。男子はそれに日和ったのか情けない声をあげて逃げていった。

 男子たちの姿が見えなくなると、私の方に1人の男子が話しかけてきた。彼の名は昼山優磨、彼は平凡な小学生だ足も速くないしテストでも上位で名前を聞いたことはない。友達も数人いるようで学校生活がそこそこ楽しそうではあった。


 「人気者だね」

 「あれが人気者に見えたのか」

 「いいえ」


 彼は笑顔でそう言った。彼は他の男子とは違うそんな気がした。

 それからというもの彼は私に毎日話しかけてきた。彼は私を優樹と呼んだ。私は毎日嫌だった学校がだんだん楽しくなってきた。

 ある日私はトイレから出ると、物陰から話し声が聞こえた。その内容は優磨と私についてだった。


 「あいつ昼山ってやつ、川窪に話しかけてばっかで気持ち悪いよな」

 「まじそれな」

 「あいつのことクラスのみんなで無視しようぜ」

 「いいね〜」


 その後、優磨は教室で1人でいることが多くなった。理由は明白私と一緒にいるからだ。それでも優磨は私のとこにきた。私はまた楽しかった学校が嫌になってきた。どうして彼は私についてくるのか、そんな疑問までもが私の頭に浮かんだ。


 ついに私は優磨に問いかけた。


 「なんでこんな私にはなしかけてくるんだよ!」

 「……なんでって」


 優磨はポカンとしていた。

 私も知っていた話しかけることに理由なんていらないということは。


 「僕は優樹と楽しいからに決まっているだろ。逆になんでそんなことを聞くんだ?」

 「お、お前が私といるとお前が周りに嫌われてしまうだろ」


 優磨はそれを聞いて笑った。


 「僕は優樹がいるだけで幸せだよ」


 私はその言葉に胸を貫かれた気がした。

 6年間私たちに対する嫌がらせは止まることはなかった。小学校卒業後、私は優磨と同じ公立中学に入学した。

 入学してすぐ嫌がらせをしてきた男子に告白をされた。私はもちろんそいつのことが大っ嫌いだったので断った。今までの嫌がらせもただの優磨に対する嫉妬でしかなかったということを知った。

 結局いつも隣にいるのは優磨だ。



〜〜〜〜〜〜




 「お粥作っておいたからお腹空いたら食べて、私は仕事行くから」

 「ありがとう行ってらっしゃい」


 要件を伝えると私は駅に向かった。

 偶然にも途中知り合いの女の子に会った、私は彼女に深く頭を下げて挨拶をした。彼女は今の優磨と同い年だ、彼女は優磨にとっにとって大切な人になる……。




〜〜〜〜〜〜





 「ピンポーン」とインターホンの音が鳴った、ふらふらしながらドアを開けるとそこには君塚さんがいた。

 君塚さんは昨日僕が貸したブレザーをきれいに畳んで手に大事に持っていた。


 「き、君塚さん……」

 「川窪くん風邪なんだって、大丈夫? 昨日の私のせいだよねごめん」

 「大丈夫移るとたいへんだから、僕のことは気にしないで帰って」

 「そんなことはできない私が悪いし、川窪くんの看病する」


 そう言って君塚さんは僕を押し退けて部屋へ入っていった。

 そして僕の腕を引っ張りベッドへ連れて行った。

 窓の外は黄昏ていた。

 この時間帯になると僕の風邪は悪化していった。熱も上がり咳が増えた。呼吸も苦しくなってくる。

 そんな僕を見守る君塚さんは心配そうな顔をしていた。すると突然君塚さんは僕の手を掴んだ。その手は暖かく強いてだった。

 僕は一瞬驚いたがその手に安心したのかまた眠りについてしまった。


 目を覚ますと、外は暗くなっていた。

 君塚さんは僕へ抱きついていた。そして瞳からは数粒の涙が流れていた。

 君塚さんの温もりが布団越しからでも伝わってくる。

 心地がいい、今はまだこのままでいい。

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「人生2度目のラブコメ」 "死んで生き返ったら9年後の世界だったので2度目の青春送ります" 乙彼秋刀魚 @otukaresan

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