第5話 合コンも学校も席が大事

 ——席替え


 席替えとは、年に数回行われる学校行事の一つであり、座席の順番を変更することである。

 その席替え一つでそれからの学校生活が決まるといっても過言ではない。



 そして本作の主人公、昼山優磨こと川窪優磨は、今その席替えに直面しているのである。

 優磨は席替えが苦手だ。優磨は人との会話が上手くできない。

 もっとも優磨はそれを隠している。

 なぜなら、モテたいから、ただそれだけだ。

 実際、優介に話しかけられた時にも少し会話に困った。それだけじゃない、廊下で女子生徒に話しかけられた時もそうだ。

 この学校で優磨が普通に会話できるのも、優介と君塚さんぐらいだ。


 僕はくじを引き、席替え表にある数とくじの番号が同じ席に、机を運んだ。そして僕はそこで椅子に座った。

 僕は左角の席、目立たない席だ。主人公席とも言うらしいが。

 僕の中では当たりの席だ。

 最近目立つことが多い、僕はそんな生活にうんざりしていた。以前までの僕なら、目立つことなんて嬉しいことだった。

 目立つことは嫌だがモテたい。僕は欲張りな人間なのだ。


 できれば話しやすい人が良い。

 そう思いながら僕は腕に顔を埋め、机に伏せ込んだ。


 「お、後ろは優磨か」


 僕の前の席には、優介がいた。

 優介が前の席なんて安心だ。残りは隣と右斜め前の席だ。 

 すると隣で、


 「隣だね川窪くん」


 優しい声が聞こえてきた。声の先には美しい少女が机を抱えていた。

 その少女は君塚優衣、君塚さんだ。


 まさかの君塚さんが隣だなんてこんな青春ムーブあって良いのか。


 その間に、斜め前にも人が入った。

 話したことない人だ。彼女は君塚さんの友達らしく、近くの席になれたことを君塚さんと喜びあっていた。

 彼女は、夏風陽菜(なつかぜはるな)という。

 彼女はクラスで君塚さんと、一二を争う程の運動神経を持ち合わせていて、

 性格は陽の中の陽で、クラス委員をしている。

 彼女は高校生時代の優樹に似ていて、優樹の性格が明るくなったバージョンみたいなものだ。


 席の移動が終わると、班を組んだ。 

 班はさっきの君塚さん、優介、夏風さんだ。

 4人は机を移動させ、4人が向き合える隊形になった。


 4人はとりあえず自己紹介をし合うこととなった。

 大体顔見知りといっても、お互い話したことのない人がいるものだ。


 「じゃあ、最初俺からな、俺の名前は無辜優介スポーツとか勉強は苦手だ。よろしく!」


 優介が話を切り出した。


 「次! 私は夏風陽菜、陽気な陽と菜の花の菜と書いて、陽菜。下の名前で呼んでね!」

 「私の名前は君塚優衣。よろしくね」


 最後に優磨が話し出す。


 「僕は川窪優磨って言います。よろしくね」

 「あっ! あの陸上部のエースを圧倒して泣かせた上、下部につけたというあの川窪優磨くん?」


 僕が徳田に勝利したという出来事は、今や学校中に広がったらしい。

 それにしても、徳田に勝ったことは事実なのだが、泣かせて下部につけたとなると、少し事柄が大きくさせらすぎなのではないか。

 その話では、まるで僕が酷く恐ろしいやつのようではないか。


 「そ、その優磨だけど……。ちょっとそれには語弊が……。」


 すると優介がゲラゲラど笑い出して、僕の背中を叩いてきた。


 「おwお前が、徳田先輩を下部につけただって、お前とんでもないことしたんだな」

 「だから、ち、違うんだって……」


 優介は僕がそんなことをしないと、わかっているようだが、生意気にもバカにしてきた。

 あの頃の、純粋な優介くんはどこへ行ってしまったんだ……。

 あの頃は本当にすごく可愛いかった。

 思い出補正もあるのだろうが、可愛いかったということは今も印象深く残っている。


 「ところでみんなはどこの部活に入るつもりなの? ちなみに陽菜は陸上部!」


 どこの部活に入る? その問いの答えは入らないだ。

 入学初日、部活に入ると言っておきながら、入らないつもりだ。自ら友人関係の道を崩してしまうことになるかもしれない。

 自分で言うのもなんだが、僕は入学以来目立ちすぎている。そのためどの部活に入ろうが期待がかかるのは、必然だろう。


 「僕は多分、帰宅部かな」


 帰宅部、この言葉こそ、もっとも学生らしい言葉だ(?)。


 「俺も部活に入るつもりはないな」

 「私もかな」

 

 どうやら、陽菜さんを除く3人は部活には入らないつもりのようだ。


 「え! 優介くんはまだしも、優磨くんと優衣ちゃんは運動神経がいいのに勿体ないよ!」

 「俺はまだしもって……」

 「私はそういうことに興味がなくて」


 君塚さんがそう言うと、

 「陽菜さんは熱いんだね」

 「さん付けじゃなくていいよ」

 「そう、陽菜は元気なことが取り柄だからね!」

 「言うまでもないね……」

 

 会話が途切れ、そこから少し話しが行き詰まった。

 すると、優介が、


 「そ、そうだな、こんな時にはこれ! 王様ゲーム!」


 そういうと、優介がポケットから割り箸を4本取り出した。

 割り箸の中には1つ先に赤く塗られている。その他3つは数字が


 「合コンかよ!」


 (実際に合コンに行ったことがあるわけではない)


 「常にそういうの常備している優介くんキモ……」


 陽菜は優介に冷たい眼差しを当てた。


 「なんか陽菜、俺にだけ冷たくない⁈」

 「そんなことないよ」

 「ま、とりあえずやるだけやってみよ!」


 そう言うと、優介は手を前に出して割り箸を向けた。


 「「「せーの!」」」


 4人は一気に割り箸を引き、即座に番号を確認すると、机の中にしまった。

 僕の番号は2番。王様ではない。では誰が王様?


 「陽菜が王様だ!」

 「じゃあ何かできる範囲で命令してくれ」

 「それでは、命令いたす! 1番と2番は抱き合え!」

 「な!」


 いきなり過激な命令だ、異性と抱き合うなんて母さんとしかしたことがないのに。


 「あ、俺1番だ」


 (お前かぁーい!)


 「僕が2番だ。気持ち悪いから速やかに済ませるぞ」


 僕らは1秒でハグしあった。

 

 「よーし次!」


 優磨は割り箸を集めて、手の中で混ぜた。


 「「「せーの!」」」


 次もまた2番だった。数の配列的に2番が命令される可能性が高いのでは、と思ってしまう。


 「しゃぁ! 俺が王様」

 「命令は……2番と3番は一分間見つめ合え!」

 

 高校生はハグやら見つめ合えとか、このての命令が好きだなまったく……。

 僕は2番だ、先ほどのように動じないぞ、僕は。

 と、思った優磨だった、現実は残酷にも幸運なものだった。

 

 「僕が2番だ、3番は誰だ?」

 「わ、私だ」


 その声は透き通った透明な声、美少女の声、君塚さんの声だった。

 いや、君塚さんでも僕は決して動じないぞ。


 「それじゃあするよ」

 「うん、」


 僕はただ無心に見つめた。

 しかし、20秒もすると心の縄が解け、身体が熱くなり顔を真っ赤に染めた。

 

 「まだ終わりじゃないの?」

 「まだ30秒もあるよ」


 30秒もあるのか、果たして僕は耐えられるのか、次第に心臓の鼓動が僕の耳届いた。

 今にも死んでしまいそうだ。


 「はい! 終わり」


 僕はため息をつくと落ち着いたのか自然と鼓動が収まって行った。


 君塚優衣の耳は少し赤らんでいた。


 「よし、次!」

 「「「せーの!」」」


 僕が引いた割り箸の先は、赤色だった。

 ついに僕が王様だ。


 「僕が王様だそして、命令は1番と3番は手を触れ合え!」


 仕返しともいかないが、少々過激にしてやろうという僕の意地悪だ。


 「陽菜が1番だ」

 「俺、3番って」

 「「ゲっ!」」

 「なんでよりによっても陽菜なんだよ」

 「こっちのセリフだよ」


 すると優介は陽菜の手を握った。


 「ちょっ、急な」


 陽菜は動揺していた。

 僕にはわかる、夏風陽菜コイツは"照れている"。


 「変態触るな! はなせ!」


 陽菜は優介の手を振り払った。


 「ちょっとそこ、盛り上がっているのはいいが、きちんと班の役職を決めたの?」

 「あ、」


 「「「忘れてた!」」」

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