嫌いだけどラムネ瓶

堕なの。

嫌いだけどラムネ瓶

 夏祭りは人の騒がしさと、提灯の明かりが眩く目に映る。橙色に包まれた私の身体まで、この空気に馴染んでしまいそうである。生ぬるい風がそこら辺を通り抜けて、私の隣で微笑んだ。

「焼きそば買いに行こー」

「帰る」

 一緒に居た親友がまたか、という顔をした。私が協調性を諦め、自分勝手な方向に進むのは頻繁にあることだった。唯一の親友以外はコイツまじか、と引いていたし、楽しそうな雰囲気がぶち壊しになっていたが、私が強調に努めてここに残ったとして、いずれ場を白けさせるのは明らかである。今までの経験則から、それは悟っていた。ならば、盛り上がりが最高潮に達する前の序盤の方がまだ良いだろう。

「じゃあ、ラムネだけ鞄に入れておくね。飲まないと駄目だよ」

 水色で、美しいガラスの瓶を押し付けられた。ラムネとはソーダのようなものであろう。綺麗なものは好きだが、それは私の嫌いな飲み物だ。飲みたくないのだが、嫌だと言う前に親友は、他の人たちを連れて雑踏へと消えていった。仕方なく、それを持って家に帰ることにした。

 帰り道、蛍光灯の下で瓶を揺らす。乱反射した優しい光が目に入って、心が柔らかい布に包まれているようである。

 開ければ、シュワシュワと擬音語の通りの爽快感がして、何となく口元まで持っていった。でも、飲みたいわけではなく、このまま飲むと親友の言いなりになっている気がしてやめた。しかし、脳裏に親友の顔が浮かぶ。

「れーちゃんはさ、食わず嫌いだよね。ようは挑むのが怖いんだよ。意気地なしだな〜」

 ムカつく煽りの顔のお陰で、私はラムネを一気に気道へ流し込んだ。口の中でパチパチと弾ける炭酸が不快感を及ぼす。やっぱり美味しくないじゃないか、と愚痴が溢れてくる。それでも、飲めなかった意気地なしだと思われるのが嫌なので、やっぱり全て飲みきった。

 空になったラムネ瓶を月にかざした。さっきよりも光がよく通る美しい瓶は、私の好きな綺麗なもので、たまには親友の誘いに乗ってみても悪くないだろと言わんばかりに輝いていた。

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