紅葉に染まる都で~朱き曼珠沙華の呪術師と白雪の巫女~

夢月みつき

前編【呪術師曼珠と歩き巫女咲弥】

「紅葉に染まる都で~朱き曼珠沙華の呪術師と白雪の巫女~登場人物紹介」


 曼珠-まんじゅ- 十六歳

 この物語の主人公、都で呪術師をしている青年。


 イメージ挿絵-曼珠1

 https://kakuyomu.jp/users/ca8000k/news/16817330665563322861


 イメージ挿絵-曼珠2

 https://kakuyomu.jp/users/ca8000k/news/16818023213977890712


 咲弥-さくや- 十六歳

 曼殊と出会う歩き巫女の少女。


 イメージ挿絵-咲弥1

 https://kakuyomu.jp/users/ca8000k/news/16817330665563439266


 イメージ挿絵-咲弥2

 https://kakuyomu.jp/users/ca8000k/news/16818023214167584010

 🍁・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・🍁


 ――その青年は京の都で“あか曼珠沙華まんじゅしゃげの呪術師”と呼ばれていた――



 時季は秋、紅葉こうように染まる頃。

 時は平安後期、宮廷やまつりごとに関わる事を嫌う、十六歳の呪術師じゅじゅつし曼珠まんじゅはその実力名高く評価されているにも関わらず、陰陽師や法師陰陽師の職に就く事もせず、今日も日銭を稼ぐ為に都人みやこびとに依頼された妖退治あやかしたいじや雑用をこなしていた。




 +◇+


 その殆どの依頼は、貧しい村人や町人からで二日分の食物が買える僅かな金子が手に入れば良い方だったが、曼珠は貴族に進んで依頼を受けようとは、微塵みじんも考えていなかった。

 それは、私利私欲を肥やす者よりも、貧しくても懸命に生きようとする人々の役に立てたらと願う、彼の信念だった。



 彼は逢魔が時おうまがときに運悪く御所近辺の朱雀大路すざくおおじで、百鬼夜行に出くわした少女を救おうとしていた。

 曼珠は、赤い尻尾のような髪をなびかせ、茶色の眼を見開くと右手で刀印とういんを結ぶ。


「そらそら、とっとと退かねえと火傷するぜっ!」

火解呪かかいじゅ、曼珠沙華!」


 術の発動で、曼珠の体が朱く光り輝く。

 百鬼夜行の鬼や悪霊、怪異相手に彼は、退ける為だけに加減をして術を掛ける。

 曼珠が印を横一線に切ると、紅蓮の炎の曼珠沙華が咲き乱れ、それは燃え上がってあやかし達の群れを取り囲む。


 あやかし達は、恐ろし気な顔から怯えるような表情になると、一斉に仄暗い闇の中へと溶けるように消えて行った。

 娘は両手で頭を抱えて、震えて動けなくなっていた。


 白雪のような色の長い髪と瞳、そして可憐な容姿。

 曼珠は、娘の頭を優しく撫でるとこう言った。



「もう、怯えなくていい。百鬼夜行は追い払ったから」

「凄い…あの夜行を退けるなんて」


 そう、百鬼夜行は一度姿を観たら、見つかる前に姿を隠すかそのまま、妖達に喰われてしまうかの二択で、退けたりするなど並みの術師なら出来るはずもない。


 娘は驚愕したが、この術師のおかげで救われたのは明確だ。

 娘は顔を上げ、深々とおじぎをすると礼を言った。



「私は、歩き巫女の咲弥咲弥さくやと申します。貴方のおかげで、命が助かりました。どうぞ、お名前をお聞かせください」

「俺の名は…呪術師の曼珠、咲弥立てるか?」

 彼は咲弥の手を掴んで、引っ張り上げた。


「ありがとうございます、曼珠様」

「様付けなんてらしくないから、曼珠でいいよ」

「それでは、曼珠さん。お礼を致しましょうか」


 咲弥は曼珠につつと近寄るとその胸に頬を寄せ、人差し指でのの字を書く。

「なっ、何をするんだ!」

 彼の顔が赤く染まる。


「なにって、歩き巫女のもう一つの顔は、殿方と…本当に何も知らないの?」

 咲弥が知っている男達は皆、巫女の仕事が終わると彼女を求めてきた。

 咲弥が、彼の意外な反応に目を見張っていると、曼珠は咲弥の華奢な両肩を掴んで優しい声音でささやいた。


「咲弥…君がこれまで、この地獄のような都で何をされて来たかは、解らないが。もっと、自分を大切にしなくちゃな」

「ふふっ…曼珠さんって面白い人」



 咲弥は、心地の良いくすぐったさとあまりの嬉しさに、彼への感謝の気持ちが溢れ泣きながら笑っていた。

 彼女は、物心ついた頃から、親に口減らしの為に人買いに売り飛ばされて酷い目に遭って来た。

 自分を一人の人間として、扱ってくれたのは、彼が生まれて初めてだった。

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