子供達と神々の神楽 ～月の章～

鏡の臣器

　　ドガシャン

　太（たい）耀（よう）の命（めい）令（れい）で、鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）の蹴（け）りが龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）を襲（おそ）うが、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）は蹴（け）りをそのまま受（う）け止（と）めた。

「やっぱり、鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）じゃパワーが足（た）りないか」

　北（ほく）斗（と）と、そう呟（つぶや）いた太（たい）耀（よう）とに向（む）かって、葉（よう）司（じ）は通（つう）信（しん）機（き）能（のう）越（ご）しに言（い）う。

「お前（まえ）等（ら）、俺（おれ）と龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）なめんな！」

　そう言（い）った葉（よう）司（じ）が、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）を艮（こん）比（ぴ）良（ら）の刀（かたな）ごと投（な）げ飛（と）ばそうとしたので、北（ほく）斗（と）は艮（こん）比（ぴ）良（ら）の刀（かたな）を消（しょう）滅（めつ）させ、太（たい）耀（よう）も鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）をその場（ば）から退（たい）避（ひ）させる。

　鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）が龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の上（じょう）空（くう）から退（たい）避（ひ）し終（お）わると同（どう）時（じ）に、今（いま）まで黙（だま）っていた虚（こ）蝶（ちょう）が、埜（ヌ）依（エ）丸（マル）を龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の頭（ず）上（じょう）に移（い）動（どう）させ、埜（ヌ）依（エ）丸（マル）に命（めい）令（れい）する。

「埜（ヌ）依（エ）丸（マル）、鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）のさっきの攻（こう）撃（げき）をマネて。フォールダウンキック！｣

　　ドガシャン

「うわっ！」

　北（ほく）斗（と）と太（たい）耀（よう）に意（い）識（しき）が集（しゅう）中（ちゅう）していた葉（よう）司（じ）は、風（かぜ）の音（おと）も有（あ）って、通（つう）信（しん）機（き）能（のう）から流（なが）れる虚（こ）蝶（ちょう）の様（よう）子（す）と声（こえ）をキチンと確（かく）認（にん）しておらず、先（さき）程（ほど）の虚（こ）蝶（ちょう）の声（こえ）で虚（こ）蝶（ちょう）の行（こう）動（どう）に気（き）付（づ）き、急（いそ）いで埜（ヌ）依（エ）丸（マル）の姿（すがた）を確（かく）認（にん）しようとする葉（よう）司（じ）だか、その前（まえ）に蹴（け）りを受（う）けて龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）はよろめき、攻（こう）撃（げき）の衝（しょう）撃（げき）を受（う）けた葉（よう）司（じ）は悲（ひ）鳴（めい）を上（あ）げた。

　葉（よう）司（じ）の様（よう）子（す）を通（つう）信（しん）用（よう）の鏡（かがみ）で確（かく）認（にん）した虚（こ）蝶（ちょう）は、不（ふ）安（あん）になって通（つう）信（しん）用（よう）の鏡（かがみ）越（ご）しに、葉（よう）司（じ）に申（もう）し訳（わけ）なさそうに謝（あやま）る。

「ゴメン、大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）？｣

「練（れん）習（しゅう）なんだから気（き）にすんな｣

　葉（よう）司（じ）が通（つう）信（しん）用（よう）の鏡（かがみ）越（ご）しにそう言（い）ってくると、今（こん）度（ど）は太（たい）耀（よう）が通（つう）信（しん）用（よう）の鏡（かがみ）越（ご）しに、虚（こ）蝶（ちょう）に文（もん）句（く）を言（い）う。

「おい虚（こ）蝶（ちょう）、人（ひと）の技（わざ）をマネするんじゃない！｣

　少（すこ）し不（ふ）機（き）嫌（げん）そうな太（たい）耀（よう）に、埜（ヌ）依（エ）丸（マル）を鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）の近（ちか）くに移（い）動（どう）させた後（あと）、虚（こ）蝶（ちょう）は通（つう）信（しん）用（よう）の鏡（かがみ）越（ご）しに太（たい）耀（よう）にも謝（あやま）る。

「ゴメン太（たい）耀（よう）君（くん）。今日（きょう）初（はじ）めて臣器（おみき）使（つか）ったから、良（い）い方（ほう）法（ほう）思（おも）い付（つ）かなくって……｣

「虚（こ）蝶（ちょう）ちゃん。もしかして、臣器（おみき）使（つか）ったのこれが初（はじ）めて？｣

　北（ほく）斗（と）が通（つう）信（しん）用（よう）の鏡（かがみ）越（ご）しに、少（すこ）し驚（おどろ）いて虚（こ）蝶（ちょう）にそう聞（き）くと、虚（こ）蝶（ちょう）は首（くび）を横（よこ）に振（ふ）り返（へん）事（じ）を返（かえ）す。

「朝（あさ）、みんなに会（あ）った後（あと）に練（れん）習（しゅう）はしたよ｣

「おい、仕（し）切（き）り直（なお）しのムダ話（ばな）しは終（お）わりだ。行（い）くぞお前（まえ）達（たち）！」

　通（つう）信（しん）機（き）能（のう）越（ご）しに葉（よう）司（じ）はそう言（い）って、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）が鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）と埜（ヌ）依（エ）丸（マル）に近（ちか）付（つ）いて来（き）た。

　しかし龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）と鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）、埜（ヌ）依（エ）丸（マル）の間（あいだ）に、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）の作（つく）った巨（きょ）大（だい）な金（きん）属（ぞく）の壁（かべ）が突（とつ）然（ぜん）現（あら）われる。

　葉（よう）司（じ）は龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の移（い）動（どう）速（そく）度（ど）をゆっくりにして、流（る）鱗（りん）纏（てん）の風（かぜ）を尻尾（しっぽ）のへ集（あつ）め、風（かぜ）の刃（やいば）を作（つく）るとその刃（やいば）で、目（め）の前（まえ）の金（きん）属（ぞく）の壁（かべ）を真（まこと）横（よこ）に薙（な）ぐ。

　　ブオン

　　　ッカシャン

　すると龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）により、上（じょう）下（げ）に切（き）り分（わ）けられた金（きん）属（ぞく）の壁（かべ）の上（じょう）部（ぶ）が、音（おと）を立（た）てずり落（お）ち始（はじ）めた。

　　スーゥ

　何処（どこ）からか、ずり落（お）ちる音（おと）とは別（べつ）に金（きん）属（ぞく）音（おん）がする。

　　ガコン

　　　ガコン

　　　　ガコン

　それと同（どう）時（じ）に、葉（よう）司（じ）から見（み）える龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の視（し）界（かい）が少（すこ）し暗（くら）く成（な）り、それに気（き）付（づ）いた葉（よう）司（じ）が頭（ず）上（じょう）を確（かく）認（にん）すると、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）が龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）に飛（と）び掛（か）かって来（き）ていた。

（！）

　驚（おどろ）いた葉（よう）司（じ）は、無（む）意（い）識（しき）に龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）をその場（ば）から数（すう）メートル退（ひ）かせ、空（くう）中（ちゅう）で動（うご）きの取（と）れない狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）に風（かぜ）の刃（やいば）を叩（たた）き付（つ）けた。

　　ブオン

　　　ガシャン

「うわっぁぁぁぁ！」

　北（ほく）斗（と）の悲（ひ）鳴（めい）と共（とも）に、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）はそのまま、ずり落（お）ちている金（きん）属（ぞく）の壁（かべ）が地（じ）面（めん）に落（お）ちるのとほぼ同（どう）時（じ）に、地（じ）面（めん）に叩（たた）き付（つ）けられる。

　　ドガシャン

「あっぶねぇ……　おい北（ほく）斗（と）、大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）か！｣

　葉（よう）司（じ）は北（ほく）斗（と）を心（しん）配（ぱい）し、通（つう）信（しん）機（き）能（のう）越（ご）しに北（ほく）斗（と）にそう言（い）うと、北（ほく）斗（と）が少（すこ）しの沈（ちん）黙（もく）の後（のち）、返（へん）事（じ）を返（かえ）す。

「……何（なん）とか大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）」

　その言（こと）葉（ば）の後（あと）、龍（りゅう）蛇（じゃ）丸（まる）達（たち）の様（よう）子（す）を見（み）ていたスセリが、北（ほく）斗（と）に念（ねん）話（わ）で言（い）う。

（「北（ほく）斗（と）は失（しっ）格（かく）ね。惜（お）しかったけど、貴方（あなた）にしたら思（おも）い切（き）った戦（せん）法（ぽう）取（と）ったわね」）

（「……気（き）のせいだよ」）

　念（ねん）話（わ）でそう返（へん）事（じ）をした北（ほく）斗（と）は、虚（こ）蝶（ちょう）にその事（こと）を知（し）らせる事（こと）も含（ふく）め、通（つう）信（しん）用（よう）の鏡（かがみ）越（ご）しに、気（き）持（も）ちを声（こえ）にして出（だ）す。

「ボクは失（しっ）格（かく）だって。もう少（すこ）しだったのに、残（ざん）念（ねん）だなぁ……｣

「北（ほく）斗（と）はもう少（すこ）し離（はな）れてろ。これで残（のこ）りは二（に）器（き）、言（い）くぞ！」

　通（つう）信（しん）機（き）能（のう）越（ご）しにそう言（い）って、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）が龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）から遠（とお）ざかるのを確（かく）認（にん）した葉（よう）司（じ）は、流（る）鱗（りん）纏（てん）の風（かぜ）を刃（やいば）から防（ぼう）璧（へき）へと戻（もど）した。

「僕（ぼく）も、あんな事（こと）出（で）来（き）たらいいんだけど……」

　虚（こ）蝶（ちょう）がそう呟（つぶや）くと、刻（とき）代（よ）が念（ねん）話（わ）で答（こた）える。

（「出（で）来（き）るわよ、自（じ）分（ぶん）で見（み）たモノに限（かぎ）るけど」）

（「本（ほん）当（とう）？」）

（「ほら、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）が来（く）るわよ！」）

　刻（とき）代（よ）との念（ねん）話（わ）に意（い）識（しき）が向（む）いていた虚（こ）蝶（ちょう）は、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の接（せっ）近（きん）に気（き）付（づ）かず、弾（はじ）き飛（と）ばされそうになり叫（さけ）ぶ。

「うわ！」

「虚（こ）蝶（ちょう）、何（なに）ボーッとしてるんだ！｣

　太（たい）耀（よう）に通（つう）信（しん）用（よう）の鏡（かがみ）越（ご）しに怒（おこ）られ、虚（こ）蝶（ちょう）は少（すこ）し俯（うつむ）いて謝（あやま）る。

「ゴメン……｣

（「あら、怒（おこ）られちゃったわね」）

　からかう様（よう）にそう念（ねん）話（わ）で言（い）った刻（とき）代（よ）に、虚（こ）蝶（ちょう）は少（すこ）し怒（おこ）って念（ねん）話（わ）で返（かえ）す。

（「何（なん）だよ！」）

（「私（わたし）に当（あ）たらない。ほら、鏡（かがみ）の力（ちから）を教（おし）えてあげるから、地（ち）上（じょう）に降（お）りなさい」）

　刻（とき）代（よ）に念（ねん）話（わ）でそう言（い）われ、虚（こ）蝶（ちょう）は埜（ヌ）依（エ）丸（マル）を龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）から遠（とお）ざけ、地（ち）上（じょう）に降（お）ろす。

「おい虚（こ）蝶（ちょう）、何（なに）かする気（き）か？」

　太（たい）耀（よう）が核（かく）の鏡（かがみ）越（ご）しにそう聞（き）くが、虚（こ）蝶（ちょう）からの返（へん）事（じ）は無（な）い。

（ 「虚（こ）蝶（ちょう）、まずは狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）に成（な）ってみましょうか。狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）の方（ほう）を向（む）きなさい」）

　刻（とき）代（よ）の念（ねん）話（わ）の遠（とお）り、虚（こ）蝶（ちょう）が埜（ヌ）依（エ）丸（マル）の視（し）界（かい）を狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）の方（ほう）に向（む）けると、刻（とき）代（よ）は念（ねん）話（わ）を続（つづ）ける。

（「これから私（わたし）の言（い）った事（こと）を続（つづ）けて言（い）いなさい。鏡（きょう）映（えい）擬（ぎ）似（じ）、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）」）

　しかし太（たい）耀（よう）の言（こと）葉（ば）で、虚（こ）蝶（ちょう）の意（い）識（しき）は逸（そ）れた。

「虚（こ）蝶（ちょう）、葉（よう）司（じ）がそっちに向（む）かったぞ！｣

　太（たい）耀（よう）が通（つう）信（しん）用（よう）の鏡（かがみ）で教（おし）えた通（とお）り、虚（こ）蝶（ちょう）の視（し）界（かい）の外（そと）から埜（ヌ）依（エ）丸（マル）に、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）が迫（せま）っている。

　虚（こ）蝶（ちょう）は龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）を見（み）付（つ）ける為（ため）、埜（ヌ）依（エ）丸（マル）の視（し）界（かい）を変（か）え様（よう）とするが……

（「目（め）を逸（そ）らしちゃ駄（だ）目（め）。さぁ早（はや）く呪（じゅ）文（もん）を」）

　刻（とき）代（よ）からの念（ねん）話（わ）で、虚（こ）蝶（ちょう）は再（さい）度（ど）狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）を見（み）詰（つ）め、呪（じゅ）文（もん）を唱（とな）える。

「鏡（きょう）映（えい）擬（ぎ）似（じ）、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）！｣

　虚（こ）蝶（ちょう）がそう言（い）い終（お）わると、埜（ヌ）依（エ）丸（マル）は白（はく）銀（ぎん）色（いろ）に変（か）わり、光（ひか）り輝（かがや）きながら姿（すがた）を変（か）えて行（い）く。

　突（とつ）然（ぜん）の事（こと）に、葉（よう）司（じ）は龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）を埜（ヌ）依（エ）丸（マル）から遠（とお）避（ざ）け、太（たい）耀（よう）は驚（おどろ）いて様（よう）子（す）を見（み）守（まも）っている。

　発（はっ）光（こう）を終（お）えた埜（ヌ）依（エ）丸（マル）の姿（すがた）は、オッドアイが逆（ぎゃく）な狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）に変（か）わり、更（さら）に虚（こ）蝶（ちょう）の居（い）る場（ば）所（しょ）が、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）の核（かく）の在（あ）る場（ば）所（しょ）と同（おな）じ装（よそお）いに変（か）わった。

「ワオーン！｣

　埜（ヌ）依（エ）丸（マル）が遠（とお）吠（ぼ）えを終（お）えると、刻（とき）代（よ）が虚（こ）蝶（ちょう）に念（ねん）話（わ）で言（い）う。

（「貴女（あなた）から見（み）えていないけど、埜（ヌ）依（エ）丸（マル）の姿（すがた）は狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）に変（か）わったわ。コレでたぶん金（きん）属（ぞく）の生（せい）成（せい）が出（で）来（き）るはずよ」）

（「たぶんって、刻（とき）代（よ）ちゃん……」）

（「私（わたし）も始（はじ）めて作（つく）ったから、よく分（わ）かんないのよね、為（ため）しに壁（かべ）でも作（つく）ってみてよ」）

　刻（とき）代（よ）が念（ねん）話（わ）でそう言（い）ったので、虚（こ）蝶（ちょう）は思（おも）う。

（そんな勝（かっ）手（て）な……）

　困（こま）っている虚（こ）蝶（ちょう）に追（お）い討（う）ちを掛（か）けるかの様（よう）に、埜（ヌ）依（エ）丸（マル）の姿（すがた）が変（か）わった事（こと）に驚（おどろ）いた太（たい）耀（よう）、北（ほく）斗（と）、葉（よう）司（じ）が同（どう）時（じ）に虚（こ）蝶（ちょう）に、通（つう）信（しん）用（よう）の鏡（かがみ）越（ご）しに来（き）く。

「虚（こ）蝶（ちょう）、コレはどう言（い）う事（こと）だ？」

「虚（こ）蝶（ちょう）、コレどう言（い）う事（こと）？」

「虚（こ）蝶（ちょう）、コレどうなってんだよ？」

　しかし虚（こ）蝶（ちょう）に答（こた）えられるはずが無（な）い。

（そんな事（こと）言（い）われても、僕（ぼく）に分（わ）かるはず無（な）いじゃん……）

　そう思（おも）った虚（こ）蝶（ちょう）は、刻（とき）代（よ）に念（ねん）話（わ）で呼（よ）び掛（か）けてみるが……

（「刻（とき）代（よ）ちゃん、聞（き）いてる？」）

　しかし刻（とき）代（よ）からの反（はん）応（のう）は無（な）い。

　不（ふ）安（あん）から、胸（むね）が高（たか）鳴（な）っている虚（こ）蝶（ちょう）は考（かんが）える。

（どうしよう……　違（ちが）う、そうじゃなくて……）

　俯（うつむ）いて考（かんが）えながら沈（ちん）黙（もく）している虚（こ）蝶（ちょう）に、太（たい）耀（よう）が通（つう）信（しん）用（よう）の鏡（かがみ）越（ご）しに強（つよ）めに聞（き）く。

「おい虚（こ）蝶（ちょう）、どうなってるのか聞（き）いてるだろう！」

　太（たい）耀（よう）の言（こと）葉（ば）に覚（かく）悟（ご）を聞（き）めた虚（こ）蝶（ちょう）は、一（いち）度（ど）深（しん）呼（こ）吸（きゅう）をしてから、出（で）来（き）るだけ大（おお）声（ごえ）で言（い）い返（かえ）す。

　少（すこ）し小（こ）馬（ば）鹿（か）にしたリアクションを取（と）りながら。

「知（し）りたいなら捕（つか）まえてごらんよ。今（こん）度（ど）は僕（ぼく）が葉（よう）司（じ）君（くん）の代（か）わりをやってあげるから｣

　そう核（かく）の鏡（かがみ）越（ご）しに言（い）い返（かえ）された翔（かける）は、少（すこ）し怒（おこ）って言（い）い返（かえ）す。

「何（なに）バカな事（こと）いってるんだ虚（こ）蝶（ちょう）。真（ま）面（じ）目（め）にやらないと、もう練（れん）習（しゅう）に付（つ）き合（あ）ってやらないぞ！｣

　怒（おこ）る太（たい）耀（よう）に、虚（こ）蝶（ちょう）は更（さら）に小（こ）馬（ば）鹿（か）にした様（よう）な態（たい）度（ど）で言（い）い返（かえ）す。

「あれれぇお兄（にい）ちゃん、年（とし）下（した）の女（おんな）の子（こ）に勝（か）つ自（じ）信（しん）無（な）いの？｣

　それを聞（き）いて太（たい）耀（よう）はムッとした。

　そして力（ちから）強（づよ）く、核（かく）の鏡（かがみ）に向（む）かって言（い）う。

「いいだろう、そのケンカ買（か）ってやる！　北（ほく）斗（と）は判（わか）り辛（つら）いから動（うご）くなよ、あのバカに僕（ぼく）の力（ちから）を見（み）せてやる。鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）、埜（ヌ）依（エ）丸（マル）を上（じょう）空（くう）に持（も）ち上（あ）げて、動（うご）きを止（と）めるぞ！｣

　太（たい）耀（よう）がそう言（い）い終（お）わると、鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）が凄（すご）いスピードで埜（ヌ）依（エ）丸（マル）に近（ちか）付（づ）いて来（き）た。

「うゎ、こっち来（き）た！　埜（ヌ）依（エ）丸（マル）、とにかく逃（に）げて。逃（に）げる方（ほう）法（ほう）は君（きみ）に任（まか）せるから」

　そう言（い）った虚（こ）蝶（ちょう）の命（めい）令（れい）に、埜（ヌ）依（エ）丸（マル）は吠（ほ）えて答（こた）える。

「ワオーン！｣

　そして埜（ヌ）依（エ）丸（マル）は、近（ちか）付（づ）いて来（く）る鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）から逃（に）げ出（だ）した。

　　ガコン

　　　ガコン

　　　　ガコン

「アイツ等（ら）は何（なに）やってんだ？｣

　葉（よう）司（じ）がそう呟（つぶや）くと、それを通（つう）信（しん）用（よう）の鏡（かがみ）で見（み）ていた北（ほく）斗（と）が、通（つう）信（しん）用（よう）の鏡（かがみ）越（ご）しに葉（よう）司（じ）に聞（き）く。

「たしかに。でも太（たい）耀（よう）君（くん）が葉（よう）司（じ）君（くん）以（い）外（がい）と、あぁ言（い）う事（こと）するの珍（めずら）しいよね？｣

「そう言（い）うんじゃなくてさぁ……｣　

　通（つう）信（しん）機（き）能（のう）越（ご）しにそんな会（かい）話（わ）をしている二（ふ）人（たり）に、スセリが慌（あわ）てた口（く）調（ちょう）で念（ねん）話（わ）を遣（よこ）す。

（「三（さん）人（にん）共（とも）、いったい如何（どう）なっているの？」）

　一（いっ）方（ぽう）太（たい）耀（よう）はスセリの念（ねん）話（わ）を無（む）視（し）し、鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）を埜（ヌ）依（エ）丸（マル）で追（お）っている。

　　ガコン

　　　ガコン

　　　　ガコン

「待（ま）て虚（こ）蝶（ちょう）！」

「待（ま）てと言（い）われて、待（ま）つバカ何（なん）ていないよ？｣

　太（たい）耀（よう）にそう言（い）い返（かえ）した虚（こ）蝶（ちょう）に、刻（とき）代（よ）から念（ねん）話（わ）が来（く）る。

（「何（なに）やってるの貴女（あなた）。スセリに怒（おこ）られる前（まえ）に本（ほん）当（とう）に逃（に）げるわよ、さよならの挨（あい）拶（さつ）でもする？」）

（「それじゃあ、力（ちから）使（つか）ってみるから40秒（びょう）待（ま）って！」）

　念（ねん）話（わ）で刻（とき）代（よ）にそう返（かえ）した虚（こ）蝶（ちょう）は、俯（うつむ）いて埜（ヌ）依（エ）丸（マル）に小（ちい）さな声（こえ）で指（し）示（じ）を出（だ）す。

「持（も）ち上（あ）げられたら５秒（びょう）後（ご）に……」

　　ガコン

　　　ガコン　ガガゴン

　その命（めい）令（れい）を聞（き）き、埜（ヌ）依（エ）丸（マル）は逃（に）げるのを止（や）めると、わざと身（み）を翻（ひるがえ）し隙（すき）を作（つく）った。

　太（たい）耀（よう）はその行（こう）動（どう）に合（あ）わせ、鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）に命（めい）令（れい）をする。

「今（いま）だ、掴（つか）まえろ鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）！｣

「クゥワッー」

　　ドガシャン

　命（めい）令（れい）を受（う）け鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）は鳴（な）きながら急（きゅう）降（こう）下（か）。

　埜（ヌ）依（エ）丸（マル）の尻尾（しっぽ）を掴（つか）むと、そのまま強（ごう）引（いん）に空（そら）へ持（も）ち上（あ）げた。

「どうだ、これで逃（に）げられないだろ！」

　そう言（い）った太（たい）耀（よう）の言（こと）葉（ば）を無（む）視（し）して、 虚（こ）蝶（ちょう）は小（こ）声（ごえ）でカウントを取（と）っている。

「３、２、１……　今（いま）だ埜（ヌ）依（エ）丸（マル）！」

　　ガガゴン

　虚（こ）蝶（ちょう）の言（こと）葉（ば）と共（とも）に、埜（ヌ）依（エ）丸（マル）に生（せい）成（せい）指（し）定（てい）していた二（に）本（ほん）の金（きん）属（ぞく）柱（ちゅう）が、タイムラグで地（じ）面（めん）から鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）の翼（つばさ）を打ち、その衝（しょう）撃（げき）で鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）は埜（ヌ）依（エ）丸（マル）の尻尾（しっぽ）を離（はな）してしまう。

「うっあ！」

　ダメージの揺（ゆ）れに由（よ）る太（たい）耀（よう）の叫（さけ）びが終（お）わる頃（ころ）……

　　ガシャゴン

　地（じ）面（めん）に落（お）ちた埜（ヌ）依（エ）丸（マル）からも、虚（こ）蝶（ちょう）の悲（ひ）鳴（めい）が聞（き）こえる。

「ぅわっあ！｣

（……そろそろ40秒（びょう）ぐらいかな？）

　そう考（かんが）えた虚（こ）蝶（ちょう）は、埜（ヌ）依（エ）丸（マル）に言（い）う。

「埜（ヌ）依（エ）丸（マル）、起（お）き上（あ）がって」

　虚蝶（こちょう）の言（こと）葉（ば）で埜（ヌ）依（エ）丸（マル）が起（お）き上（あ）がると、虚（こ）蝶（ちょう）は北（ほく）斗（と）達（たち）の方（ほう）に埜（ヌ）依（エ）丸（マル）を向（む）け、言（こと）葉（ば）を続（つづ）ける。

「練（れん）習（しゅう）に付（つ）き合（あ）ってくれてありがとうみんな。それじゃまたあし……じゃあね」

　言（い）い終（お）わった虚（こ）蝶（ちょう）の姿（すがた）は、埜依丸（ヌエマル）の姿（すがた）共（とも）々（ども）河川（かせん）敷（しき）から消（き）えた。

　そしてスセリや恵（え）理（り）花（か）の意（い）思（し）とは関（かん）係（けい）無（な）く、鎮（しずめ）守（まもり）の結（けっ）界（かい）が崩（くず）れ去（さ）って行（い）く。