子供達と神々の神楽 ～月の章～

巻機山 兄妹

　日（にち）曜（よう）日（び）の朝（あさ）方（がた）、テレビでは胸（むね）にFXと付（つ）いた青（あお）いロボットが戦（たたか）っている。

「おい緋（ひ）衣（い）、薫（かおる）の奴（やつ）朝（ちょう）刊（かん）に出（で）てるぞ」

　小（しょう）学（がく）六（ろく）年（ねん）生（せい）の巻（まき）機（はた）山（やま） 了（りょう）は、丸（まる）眼（め）鏡（がね）を掛（か）けたオカッパ頭（あたま）の双（ふた）子（ご）の妹（いもうと）、 緋（ひ）衣（い）にそう言（い）った。

　すると緋（ひ）衣（い）は、素（そ）っ気（け）無（な）い態（たい）度（ど）で言（こと）葉（ば）を返（かえ）す。

「だから何（なん）です」

　そして不（ふ）機（き）嫌（げん）そうな顔（かお）をしてリビングを出（で）て行（い）った。

　そんな様（よう）子（す）を見（み）ていた、三（みっ）つ歳（とし）が下（した）のロングヘアの妹（いもうと）、百合香（ゆりか）が不（ふ）思（し）議（ぎ）そうに言（い）う。

「最（さい）近（きん）緋（ひ）衣（い）お姉（ねえ）ちゃん。機（き）嫌（げん）悪（わる）いけど、どうしたんだろう？」

「英（えい）一（いち）とケンカでもしてんじゃねぇ？」

　了（りょう）がそう百合香（ゆりか）に答（こた）え、兄妹（きょうだい）達（たち）が心（しん）配（ぱい）している中（なか）、緋（ひ）衣（い）は自（じ）分（ぶん）の部（へ）屋（や）で科（か）学（がく）雑（ざっ）誌（し）を呼（よ）んでいた。

　そして思（おも）う。

（また薫（かおる）の方（ほう）……　何（なん）で私（わたし）は不（ふ）思（し）議（ぎ）な事（じ）件（けん）に遭（そう）遇（ぐう）しないの。私（わたし）だってお祖父（じい）様（さま）が言（い）っていた、アラハバキの仲（なか）間（ま）達（たち）に会（あ）いたいのに）

　薫（かおる）と緋（ひ）衣（い）の祖（そ）父（ふ）円（まどか）は、生（せい）前（ぜん）二（ふ）人（たり）に大（たい）変（へん）好（す）かれていた。

　そして薫（かおる）と緋（ひ）衣（い）はとても仲（なか）が良（よ）かった。

　それは兄（あに）の了（りょう）が、緋（ひ）衣（い）に朝（ちょう）刊（かん）の記（き）事（じ）を教（おし）えた事（こと）でも分（わ）かる。

　……だからこそ緋（ひ）衣（い）は悔（く）やしい。

　自（じ）分（ぶん）が蚊（か）帳（や）の外（そと）に居（い）る事（こと）が……

　実（じっ）際（さい）緋（ひ）衣（い）は円（まどか）により、調（ちょう）停（てい）の女（め）神（がみ）ククリの力（ちから）で、不（ふ）思（し）議（ぎ）な事（じ）件（けん）に出（で）くわさない様（よう）にされていた。

　それは円（まどか）の緋（ひ）衣（い）に対（たい）しての優（やさ）しさで有（あ）ったが、緋（ひ）衣（い）の性（せい）格（かく）と気（き）持（も）ちを理（り）解（かい）してのモノではなかった。

（もし本（ほん）当（とう）に神（かみ）様（さま）が居（い）るのなら、私（わたし）にお祖父（じい）様（さま）が探（さが）していたモノと……）

　鬼（おに）や天（てん）狗（ぐ）が事（じ）件（けん）を起（お）こしているなら、神（かみ）様（さま）も居（い）るかもしれない。

　そう考（かんが）えた緋（ひ）衣（い）は、そう神（かみ）様（さま）に願（ねが）おうとした……

　が、途（と）中（ちゅう）でそれは違（ちが）う気（き）がして首（くび）を横（よこ）に振（ふ）る。

（違（ちが）う……　こう言（い）う事（こと）は、自（じ）分（ぶん）で動（うご）かないと！）

　そう自（じ）分（ぶん）に言（い）い聞（き）かせて決（けつ）意（い）を固（かた）めると、少（すこ）し考（かんが）え緋（ひ）衣（い）は自（じ）分（ぶん）の部（へ）屋（や）を飛（と）び出（だ）し両（りょう）親（しん）に聞（き）く。

　物（もの）凄（すご）く恥（は）ずかしそうに。

「父（とう）さん、母（かあ）さん。宮（みや）本（もと）さんのラーメン屋（や）さんがオープンしたらしいので、お昼（ひる）に食（た）べに行（い）ってみたいのですが?」

　誰（だれ）も居（い）なくなった緋（ひ）衣（い）の部（へ）屋（や）で、ククリは佇（たたず）んで居（い）る。

　遠（とお）くで聞（き）こえる、緋（ひ）衣（い）の声（こえ）を聞（き）きながらククリは思（おも）う。

（縁（えにし）は自（みずか）ら作（つく）り結（むす）び換（か）えるモノ。もし貴女（あなた）が行（こう）動（どう）するのであれば、私（わたし）は貴女（あなた）の手（て）助（だす）けをしても構（かま）わない。円（まどか）が結（むす）んだ赤（あか）い意（い）図（と）、貴女（あなた）に切（き）れるかしら……）

　★★★★

（こんなつもりじゃ、なかったんだけど……）

　緋（ひ）衣（い）は薫（かおる）の家（いえ）に居（い）た。

　そう。ラーメン屋（や）ではなく家（いえ）の方（ほう）に居（い）るのだ。

　最（さい）初（しょ）、直（ちょく）接（せつ）薫（かおる）に鬼（おに）や天（てん）狗（ぐ）の事（こと）を聞（き）くのが恥（は）ずかしいからと、遠（とお）巻（ま）きにまず、理（り）由（ゆう）として薫（かおる）の家（いえ）のラーメン屋（や）に行（い）ってみたいと両（りょう）親（しん）に話（はな）しをし、両（りょう）親（しん）がそれならと兄妹（きょうだい）で行（い）く様（よう）に促（うなが）して、兄妹（きょうだい）でラーメン屋（や）まで来（き）たのは緋（ひ）衣（い）の計（けい）画（かく）通（どお）り。

　いくら親（しん）戚（せき）で仲（なか）が良（い）いと言（い）っても、六（ろく）年（ねん）生（せい）にもなってオカルト話（ばな）しを、真（ま）面（じ）目（め）に男（おとこ）の子（こ）や大人（おとな）に聞（き）く勇（ゆう）気（き）が緋（ひ）衣（い）には無（な）い。

　緋（ひ）衣（い）は薫（かおる）の家（いえ）がやるラーメン屋（や）に行（い）けば、了（りょう）が薫（かおる）か薫（かおる）の両（りょう）親（しん）に朝（ちょう）刊（かん）の話（はな）しをするだろうと考（かんが）えていた。

　しかしラーメン屋（や）に入（はい）った緋（ひ）衣（い）は、薫（かおる）や薫（かおる）の両（りょう）親（しん）に挨（あい）拶（さつ）して直（す）ぐ、店（てん）内（ない）に居（い）た子（こ）供（ども）達（たち）に話（はな）し掛（か）けられ、計（けい）画（かく）が狂（くる）う。

　その子（こ）供（ども）と言（い）うのが、葉（よう）司（じ）、北（ほく）斗（と）、小（こ）太（た）郎（ろう）。

　北（ほく）斗（と）と葉（よう）司（じ）は薫（かおる）に誘（さそ）われて、小（こ）太（た）郎（ろう）は清（きよ）重（しげ）と昼（ちゅう）食（しょく）を食（た）べに訪（おとず）れていて、最（さい）初（しょ）北（ほく）斗（と）が緋（ひ）衣（い）に挨（あい）拶（さつ）をし、次（つぎ）に小（こ）太（た）郎（ろう）がナンパに近（ちか）い状（じょう）態（たい）で百合香（ゆりか）に話（はな）し掛（か）けると、それを見（み）ていた了（りょう）と葉（よう）司（じ）が話（はな）しに加（くわ）わり、お昼（ひる）で他（た）にお客（きゃく）さんが居（い）たのも有（あ）って、薫（かおる）の父（ちち）親（おや）にラーメンを食（た）べた後（あと）、子（こ）供（ども）達（たち）は家（いえ）の方（ほう）に行（い）く様（よう）促（うなが）され現（げん）状（じょう）に至（いた）る。

　ここに来（く）る途（と）中（ちゅう）、緋（ひ）衣（い）達（たち）は小（こ）太（た）郎（ろう）から腕（うで）の事（こと）を聞（き）かされ、小（こ）太（た）郎（ろう）の腕（うで）を不（ふ）思（し）議（ぎ）がる言（こと）は無（な）いのだが……

　了（りょう）は少（すこ）し不（ふ）機（き）嫌（げん）そうな顔（かお）で、百合香（ゆりか）と話（はな）しをしている小（こ）太（た）郎（ろう）に言（い）う。

「小（こ）太（た）郎（ろう）、お前（まえ）初（しょ）対（たい）面（めん）の癖（くせ）に妹（いもうと）に馴（な）れ馴（な）れしい」

「了（りょう）。自（じ）分（ぶん）がモテ無（な）いからって、ヤキモチは恥（は）ずかしいから止（や）めて下（くだ）さい」

　そう緋（ひ）衣（い）に怒（おこ）られた了（りょう）は、続（つづ）けて葉（よう）司（じ）に煽（あお）られる。

「やぁぁぁい、怒（おこ）られてやんの」

「何（なん）だとこの野（や）郎（ろう）、歳（とし）下（した）の癖（くせ）に生（なま）意（い）気（き）だぞ！」

　了（りょう）が葉（よう）司（じ）にそう文（もん）句（く）を言（い）うと、緋（ひ）衣（い）と薫（かおる）がほぼ同（どう）時（じ）に了（りょう）に行（い）う。

「そう思（おも）うなら、年（ねん）長（ちょう）者（しゃ）らしい振（ふ）る舞（ま）いをしたらどうです？」

「そう思（おも）うなら、年（ねん）長（ちょう）者（しゃ）らしい振（ふ）る舞（ま）いをしたらどうでしょう？」

　それを聞（き）いた了（りょう）は、意（い）気（き）消（しょう）沈（ちん）し二（ふた）人（り）に聞（き）く。

「俺（おれ）、そんなにガキっぽいか？」

　そう言（い）った了（りょう）の様（よう）子（す）を見（み）た北（ほく）斗（と）が、話（はな）しを代（か）える為（ため）に了（りょう）に言（い）う。

「まぁ、小（こ）太（た）郎（ろう）君（くん）の気（き）持（も）ちも考（かんが）えてあげてよ了（りょう）君（くん）。小（こ）太（た）郎（ろう）君（くん）はきっと友（とも）達（だち）作（つく）ろうと一（いっ）生（しょう）懸（けん）命（めい）なんだし、やっぱり可（か）愛（わい）い子（こ）とは仲（なか）良（よ）く成（な）りたいでしょ？」

　北（ほく）斗（と）の言（こと）葉（ば）を聞（き）いた葉（よう）司（じ）は、少（すこ）し呆（あき）れた口（く）調（ちょう）で北（ほく）斗（と）に尋（たず）ねる。

「お前（まえ）たまに、恥（は）ずかしい事（こと）平（へい）気（き）で言（い）うよな……」

「そうかなぁ？」

　自（じ）分（ぶん）でそんな自（じ）覚（かく）の無（な）い北（ほく）斗（と）が葉（よう）司（じ）にそう言（い）い返（かえ）すと、了（りょう）が北（ほく）斗（と）に少（すこ）し怒（おこ）った様（よう）に言（い）う。

「そうかなぁ、じゃねぇよ！」

　可（か）愛（わい）いと言（い）われた百合香（ゆりか）の顔（かお）は少（すこ）し赤（あか）い。

（……こうやって話（はな）しているのも楽（たの）しいですが、このままでは私（わたし）の聞（き）きたい情（じょう）報（ほう）が話（わ）題（だい）に有（あ）がらない）

　そう思（おも）った緋（ひ）衣（い）は少（すこ）し考（かんが）えてから、自（じ）分（ぶん）で話（はな）しを切（き）き出（だ）す覚（かく）悟（ご）を決（き）める。

（恥（は）ずかしいですが、やはり自（じ）分（ぶん）から聞（き）かないとダメでしょうね……）

「……そう言（い）えば薫（かおる）君（くん）、今（け）朝（さ）の朝（ちょう）刊（かん）に金（きん）曜（よう）日（び）の事（こと）が乗（の）ってましたね。月（げつ）曜（よう）には学（がっ）校（こう）で天（てん）狗（ぐ）に襲（おそ）われたと聞（き）きましたが？」

　そう恥（は）ずかしさを出（で）来（き）るだけ隠（かく）して言（い）った緋（ひ）衣（い）の言（こと）葉（ば）に、葉（よう）司（じ）が言（い）い返（かえ）す。

「龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の事（こと）、記（き）事（じ）に成（な）ってたんだ？」

「あの時（とき）は嘉（か）助（すけ）が攫（さら）われたし、大（たい）変（へん）だったんだぜ緋（ひ）衣（い）姉（ねえ）ちゃん」

　小（こ）太（た）郎（ろう）も緋（ひ）衣（い）にそう返（かえ）すと、その言（こと）葉（ば）を聞（き）いて緋（ひ）衣（い）は驚（おどろ）き小（こ）太（た）郎（ろう）に聞（き）く。

「もっ、もしかして小（こ）太（た）郎（ろう）君（くん）。アノ現（げん）場（ば）に居（い）たんですか？」

「何（なに）バカ言（い）ってんだ。学（がっ）校（こう）が襲（おそ）われたんだから、見（み）てるに決（き）まってんじゃん」

　緋（ひ）衣（い）に了（りょう）がそう言（い）うと、緋（ひ）衣（い）が呆（あき）れた様（よう）子（す）で少（すこ）し力（ちから）強（づよ）く言（い）い返（かえ）す。

「バカは了（りょう）です。小（こ）太（た）郎（ろう）君（くん）は金（きん）曜（よう）日（び）に転（てん）校（こう）して来（き）たって、さっき説（せつ）明（めい）されたでしょう。それと玄（しず）見（み）小（しょう）学（がっ）校（こう）に出（で）たのは天（てん）狗（ぐ）と鳥（とり）型（がた）、朝（ちょう）刊（かん）に書（か）いて有（あ）ったのは両（りょう）方（ほう）龍（りゅう）もしくは蛇（へび）型（がた）！」

　その様（よう）子（す）を見（み）ていた百合香（ゆりか）は緋（ひ）衣（い）に言（い）う。

「元（げん）気（き）戻（もど）ったみたいね、お姉（ねえ）ちゃん」

「何（なん）の事（こと）ですか？」

　薫（かおる）が百合香（ゆりか）の言（こと）葉（ば）を不（ふ）思（し）議（ぎ）に思（おも）いそう聞（き）くと、了（りょう）が少（すこ）し小（こ）バカにした様（よう）に答（こた）える。

「コイツ、先（せん）週（しゅう）の日（にち）様（よう）からイマイチ機（き）嫌（げん）悪（わる）くてさ。彼（かれ）氏（し）とケンカでもしたんじゃないかって話（はな）してたんだけど……」

「緋（ひ）衣（い）さん、彼（かれ）氏（し）いらしたんですか？」

　緋（ひ）衣（い）に薫（かおる）がそう聞（き）くが、そんな薫（かおる）を無（む）視（し）して緋（ひ）衣（い）は了（りょう）を怒（おこ）る。

「了（りょう）アンタね、こういう話（はな）しは慎（つつし）むものですよ。貴方（あなた）だって忍（しのぶ）さんの事（こと）言（い）われたくないでしょう！」

「あいつは、そう言（い）うんじゃねぇ！」

　そう言（い）い返（かえ）した了（りょう）の顔（かお）は、恥（は）ずかしいのか緋（ひ）衣（い）の言（こと）葉（ば）のカウンターを受（う）け少（すこ）し赤（あか）い。

　口（くち）ゲンカを始（はじ）めた従兄姉（いとこ）を見（み）ながら薫（かおる）は言（い）う。

「小（しょう）学（がく）生（せい）でも高（こう）学（がく）年（ねん）にもなると、彼（かれ）氏（し）彼（かの）女（じょ）が居（い）るものなのでしょうか？」

「葉（よう）司（じ）兄（にい）ちゃん、北（ほく）斗（と）兄（にい）ちゃんの場（ば）合（あい）は恵（え）理（り）花（か）姉（ねえ）ちゃんか？」

　からかう目（もく）的（てき）でそう言（い）った小（こ）太（た）郎（ろう）に、葉（よう）司（じ）と北（ほく）斗（と）は少（すこ）し顔（かお）を赤（あか）くして反（はん）論（ろん）する。

「あいつは幼（おさな）馴（な）染（じ）み……」

「そう、友（とも）達（だち）だよ友（とも）達（だち）……」

　そう答（こた）えた葉（よう）司（じ）と北（ほく）斗（と）だが、それを聞（き）いていた小（こ）太（た）郎（ろう）の顔（かお）が何（な）故（ぜ）か少（すこ）しムカついて、葉（よう）司（じ）は小（こ）太（た）郎（ろう）に言（い）い返（かえ）す。

「そう言（い）うお前（まえ）はどうなんだ、小（こ）太（た）郎（ろう）！」

　葉（よう）司（じ）にそうからかい返（かえ）された小（こ）太（た）郎（ろう）は、自（じ）身（しん）満（まん）々（まん）に満（まん）面（めん）の笑（え）みで言（い）う。

「いるよ、こっちに来（き）たから離（はな）れてるけど彼（かの）女（じょ）。ト（・）メ（・）って言（い）うんだ」

（まぁ、妻（つま）なんだがな……）

　小（こ）太（た）郎（ろう）は心（こころ）の中（なか）でそう続（つづ）け、小（こ）太（た）郎（ろう）の言（こと）葉（ば）に、自（じ）分（ぶん）にはそう言（い）う相（あい）手（て）がい無（な）い事（こと）を少（すこ）し気（き）に病（や）む薫（かおる）と百合香（ゆりか）。

　そんな小（こ）太（た）郎（ろう）、薫（かおる）、百合香（ゆりか）を他所（よそ）に、緋（ひ）衣（い）はフッと我（われ）に返（かえ）り思（おも）う。

（不味（まず）い。このままではせっかくのチャンスなのに、話（はな）しがそれてしまいます……）

「そうだ小（こ）太（た）郎（ろう）君（くん）。天（てん）狗（ぐ）や鬼（おに）に、何（なに）か呪（のろ）われそうな事（こと）しませんでしたか？」

　口（くち）ゲンカ中（ちゅう）の了（りょう）を放（ほう）り出（だ）し、そう突（とっ）拍（ぴょう）子（し）もない事（こと）を小（こ）太（た）郎（ろう）に聞（き）いた緋（ひ）衣（い）に、子（こ）供（ども）達（たち）の視（し）線（せん）が集（あつ）まる。

「緋（ひ）衣（い）姉（ねえ）ちゃん、どうしたんだよ急（きゅう）に？」

　小（こ）太（た）郎（ろう）が不（ふ）思（し）議（ぎ）そうに緋（ひ）衣（い）にそう聞（き）くと、緋（ひ）衣（い）は恥（は）ずかしそうに言（い）う。

「騒（さわ）ぎを起（お）こしている化（ば）け物（もの）達（たち）のボス、アラハバキに心（こころ）当（あ）たりが有（あ）るんです。実（じつ）はお祖父（じい）様（さま）から、名（な）前（まえ）を聞（き）いた事（こと）が有（あ）るのです……」

（（！））

　それを聞（き）き、小（こ）太（た）郎（ろう）も含（ふく）めた他（ほか）の子（こ）供（ども）は驚（おどろ）いた。

「……やっぱり緋（ひ）衣（い）さんは聞（き）いてましたか」

　薫（かおる）がそう返（かえ）したので、了（りょう）と百合香（ゆりか）は更（さら）に驚（おどろ）き二（ふた）人（り）に尋（たず）ねる。

「俺（おれ）、そんな話（はな）し知（し）らねぇぞ！」

「私（わたし）も……」

　了（りょう）と百合香（ゆりか）の疑（ぎ）問（もん）に、薫（かおる）は言（い）う。

「私（わたし）達（たち）が、お祖父（じい）様（さま）と仲（なか）良（よ）かったからだと思（おも）います。私（わたし）の場（ば）合（あい）は、譲（ゆず）り受（う）けた遺（い）品（ひん）の手（て）帳（ちょう）で知（し）ったんですが……」

「私（わたし）は直（ちょく）接（せつ）お祖父（じい）様（さま）から聞（き）きました。いつ聞（き）いたかは覚（おぼ）えてませんが……」

　緋（ひ）衣（い）はそう言（い）いながら不（ふ）思（し）議（ぎ）に思（おも）う。

（そう言（い）えば私（わたし）はいつ、アラハバキの名（な）前（まえ）を聞（き）いたんでしたっけ？）

　悩（なや）む緋（ひ）衣（い）を見（み）ながら、小（こ）太（た）郎（ろう）も悩（なや）んでいる。

（如何（どう）言（い）う事（こと）だ。アラハバキは天（あま）津（つ）星（ほし）神（がみ）と言（い）う名（な）でしか伝（つた）わっていない筈（はず）……

と言（い）うか、円（まどか）がアラハバキの名（な）を出（だ）すとは思（おも）えんが？）

　するとククリから小（こ）太（た）郎（ろう）に念（ねん）話（わ）が来（く）る。

（「この件（けん）に関（かん）しては私（わたし）が知（し）っています。詳（しょう）細（さい）は話（はな）せませんが、問（もん）題（だい）は有（あ）りません」）

（「近（ちか）くで見（み）ているのですか？」）

　小（こ）太（た）郎（ろう）は念（ねん）話（わ）でそう返（かえ）すが、ククリからの返（へん）事（じ）は無（な）い。

（……返（へん）事（じ）はして下（くだ）さらないか）

「オイラが呪（のろ）われてるなら、雷（かみなり）様（さま）だろうな」

　小（こ）太（た）郎（ろう）はククリからの返（へん）事（じ）をいったん諦（あきら）め、緋（ひ）衣（い）にそう言（い）った。

　すると薫（かおる）が緋（ひ）衣（い）に言（い）う。

「小（こ）太（た）郎（ろう）君（くん）は関（かん）係（けい）有（あ）りませんよ。手（て）帳（ちょう）にこの土（と）地（ち）に封（ふう）印（いん）されたと記（しる）して有（あ）りましたから、引（ひ）っ越（こ）して来（き）た小（こ）太（た）郎（ろう）君（くん）に理（り）由（ゆう）が有（あ）るはずありません。どうしてそんな事（こと）を聞（き）くんですか緋（ひ）衣（い）さん？」

「お祖父（じい）様（さま）から聞（き）いた名（な）前（まえ）が、関（かん）係（けい）してるらしいから興（きょう）味（み）が有（あ）るだけです。それなのに月（げつ）曜（よう）日（び）の件（けん）は別（べつ）として、３回（かい）共（とも）その場（ば）に居（い）ないなんて」

　緋（ひ）衣（い）はつい本（ほん）音（ね）の一（いっ）端（たん）を口（くち）にした。

　すると了（りょう）が悪（あく）意（い）無（な）く緋（ひ）衣（い）の本（ほん）心（しん）を言（い）い当（あ）てる。

「もしかしてお前（まえ）、薫（かおる）だけその場（ば）に居（い）たのが悔（く）やしいのかよ？」

　了（りょう）に図（ず）星（ぼし）を付（つ）かれ怒（おこ）った緋（ひ）衣（い）は、無（む）意（い）識（しき）に気（き）持（も）ちに任（まか）せ、了（りょう）の足（あし）を思（おも）い切（き）り踏（ふ）ん付（づ）け言（い）う。

「そうですよ、悪（わる）いですか！」

　蹲（うずくま）っている了（りょう）を他所（よそ）に、緋（ひ）衣（い）は我（われ）に返（かえ）り今（いま）の行（こう）動（どう）を取（と）り繕（つくろ）おうとする。

「……えっと、今（いま）のは忘（わす）れてください。今（いま）のは了（りょう）の言（こと）葉（ば）に反（はん）応（のう）しただけですから！」

　しかしそう喋（しゃべ）っている間（あいだ）に、緋（ひ）衣（い）の恥（は）ずかしさは増（ま）して行（い）く。

　冷（れい）静（せい）でない時（とき）、冷（れい）静（せい）な行（こう）動（どう）など取（と）れるはずがない。

「そうだ、私（わたし）用（よう）事（じ）を思（おも）い出（だ）しました……　私（わたし）はこれで！」

　緋（ひ）衣（い）は逃（に）げる様（よう）にして、薫（かおる）の家（いえ）から出（で）て行（い）く。

　それを見（み）て薫（かおる）は言（い）う。

「緋（ひ）衣（い）さん、どうしたのでしょう？」

「多（た）分（ぶん）お姉（ねえ）ちゃん、ヤキモチがバレて恥（は）ずかしかったんだと思（おも）う」

　薫（かおる）に百合香（ゆりか）がそう返（かえ）し、北（ほく）斗（と）が続（つづ）ける。

「何（なに）か、その気（き）持（も）ち分（わ）かる気（き）がする」

「そう言（い）うものですか？」

　薫（かおる）がそう北（ほく）斗（と）に聞（き）き返（かえ）している頃（ころ）、小（こ）太（た）郎（ろう）はククリから再（さい）度（ど）念（ねん）話（わ）を受（う）けていた。

（「ねぇ、タケミナカタ。如何（どう）にかしてあげられないかしら緋衣（あのこ）」）

　ククリの念（ねん）話（わ）に、小（こ）太（た）郎（ろう）が念（ねん）話（わ）で返（かえ）す。

（「やはり見（み）てるんですね叔母（おば）様（さま）。オモイカネが近（ちか）くに居（い）るんですから、気（き）を付（つ）けて下（くだ）さい」）

（「私（わたし）を誰（だれ）だと思（おも）っているの？」）

（「そうでした。それより如何（どう）したのですか、あの娘（むすめ）に肩（かた）入（い）れするなんて？　確（たし）か円（まどか）との契（けい）約（やく）が有（あ）りましたよね？」）

（「私（わたし）は行（こう）動（どう）する者（もの）の味（み）方（かた）。円（まどか）の子（こ）供（ども）心（ごころ）の分（わ）かって無（な）さも有（あ）るけど」）

　ククリが念（ねん）話（わ）でそう言（い）うと小（こ）太（た）郎（ろう）は、自（じ）分（ぶん）に葉（よう）司（じ）達（たち）の目（め）が向（む）いていない事（こと）を確（かく）認（にん）した上（うえ）で、クスクス笑（わら）ってからククリに念（ねん）話（わ）を返（かえ）す。

（「分（わ）かりました、緋衣（あのこ）の事（こと）はこちらで如何（どう）にかしましょう。結（けっ）果（か）は本（ほん）人（にん）次（し）第（だい）ですが」）

（「ありがとう。私（わたし）好（す）きよ、貴方（あなた）のそう言（い）う女（じょ）性（せい）に若（じゃっ）干（かん）甘（あま）い所（ところ）」）

（「父（ちち）の影（えい）響（きょう）でしょうね……」）